山田五郎著『アルケミスト双書 闇の西洋絵画史 天使』を読みました。このシリーズはいろいろと読んできましたが、これまでのものは悪魔や怪物といった、いかにも「闇の」絵画を扱っていました。今回は「天使」で、天使ならば闇ではなく光では?と思ってしまいます。ですが、キリスト教においては必ずしも天使は光ではなく、人間のような(負の感情も含む)感情をもっているし、まさに神の使いであり、人間の味方とは限りません。

 

 ヨーロッパ絵画で天使はお馴染みのテーマで、天使を描いた作品など枚挙に暇がなさそうですが、その中から著者が厳選して収録し、短い解説を加えています。

 

 天使が登場するシーンとなれば、マリアにキリストの受胎を告げる受胎告知のテーマがあり、ここでは天使ガブリエルが描かれます。レオナルド・ダ・ヴィンチの作品他、エル・グレコ、ダンテ・ロセッティらの作品を収録しています。天使は性を超越した存在で、しばしば中性的に描かれています。とはいえ、ラファエルの『聖ミカエル』は龍を退治する勇ましい姿で描かれていて、男性的とも言えます。

 

 最後にはパウル・クレーの天使の絵がいくつか収録されています。クレーの天使の絵は、プリミティブな味わいというか、子供が描いた絵みたいですが、哲学者のヴァルター・ベンヤミンがクレーの天使からインスピレーションを受け、死ぬまで肌身離さず持ち続けていたというのは少々奇異に感じられます。