相続の現場でよくある誤解があります。
それは、「知らなければ、期限は進まない」という思い込みです。
たとえば、相続放棄をしたければ
原則 『亡くなったことを知ったときから3ヶ月以内』 にしなければなりません。
いつまでにやらなければ認められないという 『期限』 があるわけです。
亡くなったことを知らなかったのなら、
その期限までのカウントダウンは進まない、と思いがちですが、
その「知らなかった」が自分の感覚どおりに認められるとは限らないのです。
まずは「知らなかった」が認められたケースをご紹介します。
経営者のCさんは長年疎遠だった父が亡くなったことを
死亡から約1年後に親族を通じて知らされました。
・父とはほとんど交流がなく
・連絡先も把握していない
・生活状況も不明
という状態でした。
お父さんには多額の借金があったため、Cさんはすぐに「相続放棄」を検討しました。
ここで争点になったのが、「いつ知ったのか?」でした。
債権者側は、
「親子なのだから、もっと早く知れたはず」と主張。
一方でCさんは、
・長年連絡が途絶えていたこと
・死亡の連絡を受けた具体的な経緯
・それ以前に知る手段がなかったこと
を丁寧に説明しました。
根拠となる資料もできる限り準備しました。
最終的に家庭裁判所は、
“「実際に死亡の事実を認識した時点」を基準とするのが相当”と判断
“連絡を受けた日=亡くなったことを知った日”として認め、
Cさんの相続放棄は有効に成立しました。
一方で、逆の判断もあります。
・定期的に連絡を取っていた形跡がある
・病状の報告を受けていた
こうした場合は、
「もっと早く知っていたはず」とされ、
相続開始日の後ろ倒しは認められにくくなります。
ポイントは3つです。
① 形式的な関係(親子など)だけでは判断されない
② 「現実に知り得たかどうか」が重視される
③ 経緯を説明できる証拠や記録が重要になる
相続は「感覚」ではなく、
“説明できるかどうかで結論が変わる世界”という部分があります。
「本当に知らなかったか」ではなく、
「その状況で知らないことが合理的か」ということです。
・主張を裏付ける資料(債権者や行政からの通知)を保管しておく
・連絡を受けた日時や内容、やりとりを記録しておく
・迷ったらすぐに専門家に相談する
こうした地道な対応が、将来を大きく左右することになります。
担当:丹下 優子

