「他社よりも早く届けることができれば、強みになる。」
そう考え、製造ラインの見直しに踏み切ったある製造業の経営者がいらっしゃいました。
その会社は職人の技術も高く、24時間自動で加工する機械の導入も進めており、
現場のクオリティは十分に高い会社でした。
しかし、どれほど現場が改善を重ねても、なぜか全体の納期が思うように短縮されません。
「もっと最新の機械を導入しなければダメなのか…。」
経営者がそう悩んでいたとき、
改善すべきは製造現場とは全く別の「営業部門」にありました。
その会社では、ルート営業マンがお客様のところを回り、
加工が必要なモノを預かってくることから仕事が始まります。
外部の私だからこそ営業マンから聞き取りができ、
判明した実態があります。
• 「不在」への対応が非効率
営業先が不在でも事前の連絡をせず、「とりあえず行ってみる」を繰り返していました。
不在であれば、時間を空けて1日に何度も同じ場所を訪問。
結局、預かるべきモノの回収や、加工が完了した製品を届けることができないまま、
移動時間だけが積み重なっていました。
• 「早く帰ること」への罪悪感
営業担当者の間には、「早く会社に戻ると、外でサボっていたと思われるのではないか」
「定時近くまで外にいるのが美徳」という無言のプレッシャーがありました。
そのため、14時や15時に本来のルートを回り終えていても、
17時頃まで時間を潰して会社に戻ってきていたのです。
ここでの最大の問題は、営業マンが夕方まで戻ってこないことにより、
「製造ラインにモノが届くのが数時間遅れる」という事態です。
営業マンが17時過ぎに帰社し、そこから総務課へ預かったモノを渡し、
仕分けを行い、ようやく製造現場へモノが流れる。
この時点で、どんなに優秀な職人であっても、その日のうちに作業を終えることは困難になります。
つまり、製造ラインがどれほど即納に対応できる能力を持っていたとしても、
入り口である営業部門が「数時間のロスタイム」を生み出している限り、
全体のスピードは上がらないのです。
この会社における「真のボトルネック(全体の流れを制限している場所)」は、
製造ラインではなく、営業マンの行動パターンと、それを是とする社風にありました。
ボトルネックを特定した同社が最初に取り組むべきこととして、
機械への投資ではなく、以下のことを提案しました。
・顧客の在籍状況を事前に把握し、最短ルートで回収を行う仕組みを整える
・評価基準の転換
「外に長くいること」ではなく、
「一刻も早くモノを持ち帰り、後工程にバトンを渡すこと」を高く評価する文化へ変える。
これらによって、夕方ではなく昼過ぎに材料が現場へ届くようになれば、
製造ラインはその高いポテンシャルをフルに発揮し、
最新機械を入れずとも納期短縮が可能になります。
業務改善において、全体を俯瞰せずに一部だけを強化するのは、
細いホースの一部だけを太い管に取り替えるようなものです。
どれだけ一部を太くしても、他の場所が詰まっていれば、流れる水の量は増えません。
「投資をしているのに効果が出ない」「現場は頑張っているのに成果に繋がらない」
そう感じたときこそ、一歩引いて全体を見渡してみてください。
もしかしたら、会社のボトルネックは、改善しようとしているところではなく、
営業のやり方や、事務所の書類の山の中に隠れているかもしれません。
投資のアクセルを踏む前に、まずは「どこで流れが止まっているか」を俯瞰してみて、
検証してみることが大切です。
担当:中瀬 拓哉


