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もっと格闘技、もっとリアル。

もっと格闘技、もっとリアル。『MMAドキュメンタリー HYBRID』フリーマガジンより

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パンクラスが映画になる。
『パンクラス246』(3月17日・ディファ有明)を舞台にした『MMAドキュ
メンタリー HYBRID』。大会に焦点を当てたものと聞き、当初はハイライト
映像をまとめた程度のものを予想した。それをスクリーンで上映し、リングサイ
ド以上の迫力を狙ったぐらいのものであろうと。正直、侮った。
 そのためあまり期待することなく、プロデューサーであるパンクラス酒井正和
代表、松永大司監督に話を聞いた。「今の世の中ってニートとかでも生活で
きてしまう、ぬるい世の中でもあるわけじゃないですか。その中で選手たちはな
ぜ総合格闘技という厳しいリングに上がるのか。極論を言えば、やらなくてもい
いことだと思う。でも、そこには彼らにしかわからない隠されたものとか感動が
あると思うし、勝負論の勝ち負けではなく、その本質をパンクラスに来てくれる
方々に伝えてあげたいんです」と酒井代表。
 その心意気やよし。しかしそうであればこそ、制作期間の短さが気になった。通
常この手のドキュメンタリーは長い期間対象に密着し、心の葛藤や変化、成長を
追っていくものがほとんどだ。試合前の思い、試合後の感情をとらえるのであれ
ば、通常の煽り映像やインタビューで事足りるのではないか。松永監督は性同一
性障害の現代アーティストを8年にもわたって追った作品『ピュ~ぴる』で知ら
れる。そうやってじっくり寄り添うように撮った作品があるからこそ、本作への
関わりに違和感を覚えた。
「本当はあと1ヵ月でも2ヵ月でも(制作期間が)長いといいなと思いますが、
その条件がわかった上で撮っているので、その中でとにかくもがくっていうんです
かね。それは今回、自分への挑戦でもあるんです」〝挑戦〞という言葉で表す本作と関わるようになったきっかけを、松永監督は話していく。酒井代表との出会いを作ったのはパンクラスでも戦う大山峻護。かつて網膜剥離を患いながら復帰を目指して戦うPRIDE時代の大山を、監督はカメラで追っていた。「僕は全然格闘技を見なくて、親父は空手をやっていたんですけど、小さい頃に道場へ連れて行かれて、実はけっこう嫌悪感を持っていました。力を持ってる人ってちょっとイヤだな、苦手だなって思っていたんです」
 大山にも人の紹介で会うこととなったが、当初は気乗りしなかったという。だ
が実際に大山と会うと、「すごく腰が低くて丁寧で、人として素敵な人でした。
それで『この人がリングに上がるまでの時間を撮ってみよう』と思ったんです。
だから格闘技に触れていたというより、人に触れていたっていうか」と振り返る。
 松永監督はドキュメンタリーに限定した作家ではない。自ら脚本を書き、劇映
画の監督もする。酒井代表と会った際も「実はドキュメンタリーは当分撮らない
と思っていたんです」と打ち明ける。「ドキュメンタリーってすごく怖くて、
監督や演出の意図があることをほとんどの人がわからない。この人はそういうも
のだと思って観てしまう。そういうことを考えたら、僕は責任を負い切れないと
思って」とその理由を語る。
 だが、大山に感じた格闘家の人としての魅力が、再び松永監督をドキュメンタ
リーへと向かわせた。「魅力的な人たちがいるっていう話をもらうと、やっぱり自分が残していけるなら短い時間だけど自分の時間を捧げて、僕がいいなと思うものを観てる人にも同じようにいいなって感じてもらいたい。それで一人でもその人のことを応援してくれる人が増えたら、僕は作る意味があるのかなと思ったんです」
 制作期間の短さ、そしてしばらくの間撮らないと決めていたドキュメンタリー。
「映画業界も大変なんですけど、そういうのもあって人として頑張ってる人をちゃんと撮りたいって思ったんです」格闘家の戦う姿が、監督にも挑戦する気持ちを呼び起こしたのかもしれない。
 プロデューサーの酒井代表が作品に求めるのは、この日幾度も口をついた〝リアル〞。「試合映像に関しても、すごくカメラが寄って画面からはみ出してしまうような映像や、試合のグロい部分まで追っていく映像です。それをどこまで目を見開いて観ていられるか。それぐらい実際戦っているファイター、〝戦う〞ということ
は厳しいことをやっているというのを感じてほしい」
 肉体的にも精神的にも、選手たちのリアルな部分をさらけ出す作品にしたいと
いう。松永監督もリングサイドで間近にした〝リアル〞を次のように語る。
「泥仕合だったと言われる試合もありますが、どんなにつまらなかったと思われる試合でも、選手は相当スゴいことを頑張ってます。本当に力が均衡していて近づけないとか動きがない、観ている人からすればこう着していたとしても、動きがなくなるぐらい二人の力が絡み合ってる時というのは、近くでカメラで撮っていると呼吸が荒い、汗もすごい、筋肉が盛り上がっている、そりゃ動けない。全然、〝何もない〞瞬間じゃない」
 映画人として試合・選手たちを目の当たりにするからこそ、とらえられるもの、
見えてくるものがある。それは「3月17日に関して言えば、僕にとって面白くな
い瞬間は一瞬もなかった」という松永監督の言葉に表れている。
 3月大会を切り取った今作に続き、次作は同じく9月大会を予定。だが松永監
督は「僕の中では毎回毎回最後って思ってます。作品を作る時にやっぱり『次を
撮ってください』って言われるようなものを撮らないとダメだと思っていて、自
分の中では次があると思っていない。次が最後だと思っているんです」と言う。
毎回〝最後〞と覚悟して臨む姿は格闘家を思わせるところがある。
「僕がこの短い時間で格闘技を語れるって思ってないし、その人たちの人生を語
れるとは思ってない。25歳の人なら25年生きてる人のたった1ヵ月ですよ、僕が
撮らせてもらっているのは。だから、『この人たちのこの先を見よう』と思っ
てもらえる〝はみ出る作品〞を撮りたい。『この人たち次どうなるの?』っていう
ものを作れたらいいですよね。作りたいなって思います」
 そこには対象者たちへの敬意がある。「僕が撮らせてもらっている人は何年も
の間、毎日練習してやってるわけですよね。その人たちをたかだか1ヵ月の時間
で撮って簡単に映画ができちゃったら申し訳ないです。だから吐き気が出るまで
やって、もしかしたら初めて作る権利があるのかなって」
 被写体へのリスペクト、愛情がなければ自分はドキュメンタリーを作れないと
松永監督はいう。だから自分が選手たちから受けた感動、カッコよさ、魅力が観
客に伝わってくれればと願う。
「普段は自分一人でずっと撮って、自分で編集するんです。それを自分が頼んだ
他4人のカメラマンが撮ってきた素材で、まったく接していない人の映像から何を
感じて何を伝えるかっていうのは、僕の新しい挑戦なんです」これまでの自分を超え、新たな試みに挑む。松永監督もこの作品で戦っている。
「この人たちのことをちゃんと作らなきゃいけないと思ったら、休みたいと思って
も頑張れる。撮らせてもらってる人の魅力を1ミリでも多く出してあげたいと思っ
たら、その人たちのためにも頑張りたいって思います。もちろん自分の監督作とし
ていいものを撮りたいですけど、僕が作ったことで関わってる人たちがバカにされ
るのは嫌ですよ。それは申し訳ないです」
 挑戦する姿勢、対象となる選手たちへの敬意、そして真摯さ。
 最初はこの映画を軽く見ていたのに、話を聞くうち「頑張ってる人の作品はち
ゃんと観たい」̶̶監督自身の言葉を借りて、今はそんな風に思っている。

試合のグロい部分までの映像をどこまで目を見開いて見ていられるか (酒井)
この人たちのこの先を見ようと思ってもらえる〝はみ出る作品〞を撮りたい (松永)


文:布施 鋼治  写真:保高幸子


物語の舞台は3月17日(日)にディファ有明で行われた「パンクラス246」。勝利を手にした選手、惜しくも敗れてしまった選手・・・それぞれの「光と影」を追いかける。映画では、試合のハイライト映像を交えながら、どのような思いでこの戦いに挑んだのか、参戦した選手達のその後を綴っていきます。
監督は、NHK ドキュメンタリー「裸にしたい男 竹野内豊」や、性同一性障害、失恋、去勢手術を経て横浜トリエンナーレでのパフォーマンスに至るまでの感動の軌跡を8 年追いかけたドキュメンタリー映画「ピュ~ぴる」の松永大司監督。
格闘技ファンはもちろんのこと、そうでない方も十分に楽しめる作品となる予定。パンクラス代表・酒井正和と松永大司監督の強力タッグで、格闘技界に新たな旋風を巻き起こします。
音楽は「MY FIRST STORY」が担当する事が決定。
タイトル:MMA ドキュメンタリー HYBRID
日時:2013 年6 月1 日(土)~6 月7 日(金) 1週間限定上映
会場:
シネマサンシャイン池袋(東京都)
ユナイテッドシネマ豊洲(東京都)
109 シネマズMM横浜(神奈川県)
109 シネマズ名古屋(愛知県)
ワーナー・マイカル・シネマズ茨木(大阪府)
料金:全国共通鑑賞券2,000 円(税込)
チケット:4月21日(日)発売開始予定
イープラスまたは全国のファミリーマート店内のFami ポートにて
※詳細はライブ・ビューイング・ジャパンオフィシャルサイト