GICUから旧い病棟に入ってからも、私は悪夢にうなされていた。
胸幅よりも大きな人工呼吸器をつけ、口もきけず、身体も動かない。
激しい発汗で寝巻きはいつもぐっしょりと濡れていた。
しかしリハビリテーションは毎日続いていた。


PT(足の訓練士・理学療法士)がベッドサイドで、両足と両手を痛いというほど伸ばす。
これをリハビリテーションの用語で
「他動運動」という。
関節が固まったり、筋肉や骨が弱くなって萎縮するのを防ぐために行うもので、
動かせない手足の関節をPTのI先生がベッドサイドで伸ばしてくれる。
心の中で悲鳴をあげながら、私はI先生についていくしかなかった。
他にOT(作業療法士)、ST(言語療法士)がやってきて
彼らたちはとても親身だった。
問題は、看護士に協力してもらうベッドサイドでのリハビリだった。


急性期リハビリテーション(発病から間もない初期のリハビリテーション)で
看護士さんにやってっもらうのが体位変換と良肢位保持。
体位変換というのは床ずれを防止して肺炎を予防するもので
看護士さんに身体を左右上下に移動させてもらうこと。
例えば身体が動く人なら誰でも、就寝中は無意識に身体が動いている。
自分自身で動かしながら、就寝中の身体のバランスをとっているので、痛みもない。
でも動けない人にとって、介助されて始めて、身体のバランスをとっていく。
もし長時間同じ姿勢なら、
身体のある特定の部分に重みがかかって痛くなったり、内臓への圧迫感も感じて
息苦しくなる。
ベッドでは患者の体位変換の介助は2時間おきというのが目安だが
1時間でも苦しい。
しかも個室でたった一人放置されているようなものだから
気が紛れることもなく、しょっちゅう身体の痛みに押しつぶされそうになる。


また動かない身体を放置していると、麻痺している側のひじや手首や指が屈折したり
足が外側に回転して、伸びきったままになる。
これを防ぐのが、良肢位保持といって、枕やリネンの軽い掛蒲団を使って身体を支え、
患者にとって苦しくない位置へと身体を支え、整えてあげるリハ。


急性期リハビリテーションは
ベッドサイドで行うことがほとんど。
身体が動かない私には、下の世話ももちろん、この介助リハも看護士さんの協力なしではできない。
ただ体位変換は整えてもらってから30分ぐらい経つと身体が痛くなる。
そのため悲鳴を上げていた。
また良肢位保持で使うリネンの布団の繊維が、アレルギーを起こすのではないかという恐怖にしょっちゅう囚われた。
患者の悲鳴は、ナースコールを押すという行動で現れる。
当時、私の握力は0.5だったので
ナースコールも押せなかった。
そこで
触れるだけでコールできるものを渡された。


このナースコールが、四面楚歌を招いてしまった。