どのくらいの時間が経ったのだろう。
そのときの光景は、高熱が誘発した夢だったのかもしれない。
ベッドの前に映像があり、そこには色彩に彩られた数本の線がレーダーのように動いていた。
線は、放射線を描いていたが、次第に下降していた。
ドクターが耳元で囁く。
「お母さんには容態が悪化したから、今日中に上京して欲しいとさっき電話で伝えたよ」
私は頷いた。
自分で自分の症状が悪化するのを、感じていた。
どんどんどんどん、悪くなっていった。
本当に唖になるかもしれない……
それからまた意識が遠のいた。
気づいたときに、またドクターが囁く。
「残念だけど、喉を切開しなければいけなくなった」
とうとう人工呼吸器……本当に?信じられない?実感がない。
「口がきけなくなるんですか?」
「そうだよ」
「ではお願いがあります。親友と仕事関係者に伝えてください。病気になったことを…」
不思議なことだが、あの時ドクターを病院職員と間違えてしまった。
というのは
ドクターがとても親切だったから。
これまでドクターは医術を施してくれるだけという認識しかなかった。
だから個人的なお願いを叶えてくれるなど、想像もできなかった。
でも
職員ではなく、正真正銘の神経科のドクターが動いてくれたのだ。
「親友には君の病名を伝えるけど、仕事関係者には病気で倒れて暫く入院するからとだけ、伝えておくよ。
あまり詳しく言わないほうがいいね」
私は素直に頷いた。頷くしか、なかった。
目の前の映像がどんどん私に迫ってきた。
レーダーがまるで心電図のように見える。
弱々しく下降している…
悪化しているのだ。
もうすぐ私は唖になる…