5話 心の傷(1)



スーパーに来ていた亜樹、百合、知佳。

鍋の具材選択を張り切ってしている百合。

亜樹:「でもなんでウチなのよ」

知佳:「終わったあとに彼と二人っきりにしてあげようとしてんじゃないのあんた」

亜樹:「彼って、ハル?」

知佳:「そうよ、あんた達だけグズグズしてるから、鍋がグラグラした後に、あんた達もグラグラ」

亜樹:「あたし達はこのままでいいの」

知佳:「いいワケないのよあんた、待ってる彼は帰ってこないいんだからどうせ、一生このままでいいワケないの」

亜樹:「一生このままでいいの

知佳:「マジで?」

亜樹:「おかしい?」

知佳:「あり得ない」

カートを勢いよく飛ばしてきた百合。

百合:「すき焼きでいいよね?決めた」

知佳:「張り切ってますねー」

亜樹:「だからなんでウチなのよ、狭いのに」











ブルースコーピオンズのバスに、乗っているメンバー。

真琴:「マネージャー、コーチに気があるんですかね?」

友則:「アイスドールとは思えねえ顔してるもんな。ハル、うまくいくか賭けるか?」

ハル:「興味なし」

ハル..........笑笑

ハルの隣で小さく震えている大和。

ハル:「大和ー......?」

ハルが外を見てハッと気付き、

ハル:「あれなんで今日こんなとこ通ってんの?」


真琴:「あのなんか中央街道が今日通行止めみたいなんですよ」

ハル:「なんだよそれ」

友則:「幽霊でも出んのここ」

ハル:「大和、ちょっと目閉じてろおまえ」

大和:「大丈夫ですよハルさん。........平気です」


震え続ける大和。

ハル:「マコ、カーテン閉めて、早く、早く」

震える大和を気にするハル。

その直後、急カーブするバス。

カーブの角には、花束が。




亜樹の家に集まるみんな。

亜樹:「いいわよ食べて」

勢いよく卵をかきまぜる男たち。

咳払いする百合を見て、

亜樹:「ほとんどね、百合が作ったのよ」
 
知佳:「あたし達はね、手伝っただけなんですよー」

百合:「料理には、自信があるの」

元気な「いただきまーす!」という男たちの声でかき消されてしまう百合の声。

亜樹:「聞いてないって」

百合:「.......そう」

真琴:「なんか味薄くないスか」

大和:「いや、そんなことないけど」

友則:「俺達肉体労働者だからね」

ハル:「醤油ちょうだい」

大和:「ハルさんまで」

笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑

亜樹:「ごめん、さっきので切らしちゃった」  

友則:「おまえんちすぐじゃん、取ってこいよ」

知佳:「近いの?」

ハル:「友くん?すぐって言っても200キロはあるでしょ」

友則:「500キロはあるかなぁ」

真琴:「10メートルないですよ」

気付かない真琴に下から蹴りを入れるハルと友則。

食べた亜樹と知佳は、

亜樹:「確かに」

知佳:「味、あんまないかも」

マジかい笑笑笑笑笑笑笑笑

百合:「いいわよ、みんなしてそんなこと言うなら食べなくて」

大和:「食べるよ、俺が鍋まで全部食べます」

即座に返す大和。

ハル:「えっ、て、鉄だよ?」

知佳:「友くん?あーん」

友則:「あーん」


真琴:「いいなぁ」

百合が大和に差し出して、

百合:「はい」

恥ずかしそうに大和が、

大和:「ありがと」


真琴:「熱いなぁ」

ハル:「あーん」

無視する亜樹。
 

真琴:「なんか分かりやすいっスね、カップルの進展具合が」

これもこれでかわいいんだけどねー笑

真琴:「さっきから気になってたんスけど、あの人、誰ですか?」

亜樹:「あっ」

写真立てにバタバタと走っていき、隠す亜樹。

ハル:「亜樹の彼氏だよ」

冷静なハル。

驚く友則と真琴。

知佳:「彼氏って言ってもね、遠距離でもう最近連絡も全っ然ないから大丈夫」

友則:「だったら押し入れに入れとけっつうんだよな、ハル

ハル:「いや、俺がそのまんまでいいっつったから

友則:「え?」

ハル:「亜樹は、彼氏を待ってるでしょ?俺はその間の繋ぎの彼氏って、そういう契約だから

真琴:「なんか、ややこしいっスね」 

ハル:「なんで?全然」

百合:「そんなの、無理あるよね

ハル:「そんなことないよ、だってお互い楽しんでるもん

百合:「楽しんでるのはあなただけじゃないの?

強めに言う百合。

亜樹:「平気よ。別にハルとはゲーム感覚なんだし、何するってワケじゃないもん

百合:「寂しいときとか、電話したりできる?

ハル:「すればいいよ」

百合:「あなたに聞いてないわ!

大和:「もういいじゃないか!」

怒鳴る大和。

友則:「大和」

大和:「人それぞれ事情はあるんだ。他人がつべこべ言うことじゃないよ

百合:「他人じゃないよ、友達だよ

大和:「本人たちがそれでいいって言ってるじゃないか!」

再び怒鳴る大和。


.........??????( ・-・)?

友則:「なんか、重苦しい雰囲気」 

知佳:「ね」

真琴:「すいません、俺がね、写真のこと言っちゃったから........」

友則:「そうだよ、おまえがいけねぇんだよー」

真琴:「すいません!」

亜樹を見て、変顔をするハル。

それを見て、ハルに小さくあっかんべーをする亜樹。




亜樹は、ハルと2人で話しています。

ハル:「あ、そう、彼女が言ってたように愚痴でもなんでも、寂しいときは遠慮しないでいつでも電話してくれていいからね」 

亜樹:「遠慮なんかしてないよ」

ハル:「亜樹の寂しさを埋める、それ契約事項に記入されてるから」 
  「それと、もし........」

亜樹:「もし......?」  

ハル:「こんなこと言いたくなかったんだけど、もし、ほんとに亜樹がバランス崩しそうなんだったら、それはそれで言ってね。苦しくなるんだったら俺の存在価値ないからさ」

亜樹:「言ったらどうなるの?」

ハル:「どうなるって.......?」

亜樹:「ゲームオーバー.......?」

ハル:「メイビー?」

亜樹:「また新しいゲームの相手を探す?」

ハル:「メイビー、そうかな」

亜樹:「強がってない?里中ハル君」

ハル:「いや、僕の性格のほとんどは、強がりで占められてますんで」

亜樹:「あたしだってそうよ」

 
その頃、一緒に帰っていた、百合と大和は、お互い謝り合います。  

百合:「今度はあなたのおうちに呼んでね」


大和:「散らかってるんだ」

百合:「片付け得意なの。..........あっ」

微笑する大和。

百合:「あ......良かった」

大和:「えっ?」

百合:「今日初めて笑ってくれた

え、百合.......彼氏のこと心配しててかわいい......;-);-);-)

大和:「あ、あぁ」

百合:「おやすみなさい」

大和:「おやすみ」
 
やっぱりどこかぎこちない大和..........






亜樹:「大和さん、なんかあった?練習でミス連発したとか

ハル:「いや、練習じゃない。帰り道」

亜樹:「帰り道?」

ハル:「普段は絶対通らない道なんだけど........」

亜樹:「その道で?」

ハル:「思い出っていうか、苦い思い出

亜樹:「苦い、思い出......?」

ハル:「行くわ」 

亜樹:「うん」

ハル:「ごちそうさまでした」

亜樹:「どういたしまして」

ハル:「おやすみ、亜樹」

亜樹:「おやすみなさい、ハル」
 
笑い合う2人。


ハルは手を振って出ていきます。

なんか、いい感じになってきた.............!!!!!!:-):-):-):-)





次の日、容子と会うハル。

容子:「そんなに驚かないのね」

ハル:「寒いのは慣れてますからね」

容子:「そうじゃなくて........」

ハル:「あぁ、容子さんとコーチとのこと?」

容子:「ええ」

ハル:「まぁでも俺もそんな鈍感じゃないですからね。今はどうか分かんないですけど、昔なんかあったんじゃないかなぁっていうのいは感じてましたから」



容子:「彼はカナダに。あたしはずっと待ってた。でも、そのうち彼から連絡なくなって

ハル:「それで、寂しさに負けてしまった。.....すいません、負けたなんて言い方」

容子:「いいのよ。その通りだから」

ハル:「で、そういう時に、安西さんが」

容子:「強くて優しい人。事情を全部分かった上で、あたしを包んでくれた。.......でもね、あたしも、安西も、どこか後ろめたい気持ちを感じていたのは事実なの。あたしは恋人だった彼に、安西も、親友だった彼に

ハル:「どうしてです?」

容子:「え?」

ハル:「どうしてそんな話を急に俺に?」

容子:「あなたが、兵頭さんと上手くいってないようだから。.......亡くなった今でも、変わらず安西を慕ってくれるのは嬉しいわ。だけど、その反動で彼を嫌ってるんだとしたら、彼が気の毒だと思って
  「......あの人はね、恋人にも、親友にも、裏切られてしまった人なの」

兵頭コーチってそういう人だったのか.........もしかして今、容子さんは兵頭さんのことを........???

ハル:「なんか、大人って複雑なんですね

いやいやあなたもめっきとした大人!!!!!!!!........ってすぐツッコみたくなる私(反省)


容子:「あたしが全部悪いの。.....待ってることが出来なかった、あたしが」





リンクで、チームの試合が行われています。
 
大和が、相手のシュートに反応しきれずに、ゴールを許してしまいます。

客席の男がヤジを飛ばします。
なにやってんだヘポゴリ(ヘッポコゴーリー)!!!!!ぼんやりしやがって!!昨日お姉ちゃんとよろしくやってやがったのか!!ボケッとしてんじゃねぇよ!!!この野郎!!

真琴:「またあのオヤジだよ」


何点入れられれば気が済むんだコラ!!!!真面目にやれ!!真面目に!!!
また叫ぶ男。




コーチに謝る大和に、兵頭は大和の胸を叩きます。

こらヘポゴリ!!!入場料返せ!!!ついでにな、昼食ったうどん代も返せ!!!

ヤジのセンスについ笑ってしまいました........

真琴:「クソじじい。もう頭来た」

客席に登っていく真琴。


ハル:「真琴」

真琴:「でも」

ハル:「今のはイージーミスだろ」 

大和:「すいません」

ゴーリー、俺が代わってやろうか?お家帰ってミルクでも飲んでなさい!

真琴:「なんか、大和さんに恨みでもあるんですかね」

大和:「かもな

かもな.......!?!?

友則:「えっ?」

タイムアウト終了。コーチがチームの気合いを入れます。

大和の顔を見るハル。

ハルの掛け声でみんながリンクに駆け込んでいく中で、一人、座り込む大和。





亜樹が、大和の部屋を激しくノックします。  

ドアが開いて、

亜樹:「どうして?」

大和:「えっ?」 

亜樹:「どうして百合に別れ話なんてしたの?

亜樹を部屋に入れて、うつむきながら話す大和。

大和:「彼女といると楽しいんですよ

亜樹:「だったらどうして?

大和:「でもそれは、嘘をついてるからなのかもって」

亜樹:「お金持ちだと嘘をついて?でもそれは、楽しいかったんじゃなくて苦しかったんじゃないの?

大和は、いきなり振り返って、

大和:「苦しいけど楽しいんです。変な言い方だけど、それは本当の俺じゃないから」

亜樹:「本当のあなた?

大和:「......ハルさんからは何も?」

亜樹:「ウチでお鍋をやったときに、ちょっとあなたの様子が変だなと思って聞いたけど、別に彼は何も」

大和:「言えないからですよ」

亜樹:「だからどうして?」

大和:「言ったらみんな引いちゃうからですよ。もしかして、俺のこといい人だと思ってくれてた人もみんな」

亜樹:「あたしだってその一人よ」

大和:「ありがとう。でもそれ、本当の俺じゃない」

亜樹:「ちゃんと説明してもらわないと分からない。あたしも。もちろん、百合だって」
 
間を置いて、

大和:「俺.........」

大和が振り返ります。

大和:「......人を殺したんです」


驚いた亜樹は咄嗟に、

亜樹:「フザケないでよ。こっちは真面目に.......」

大和の笑っていない目を見て、言葉を失います。

立ち尽くすしかできない亜樹.........








ハル:「大和が高校一年の頃かな。あいつバイク便のバイトやっててさ。で、いきなり男の子が飛び出してきて。病院運ばれたんだけど........」

首を振るハル。

亜樹:「でも.....事故でしょ?それ

ハル:「そうだよ」

亜樹:「殺しただなんて........

ハル:「でもその子の両親は言ったんだって、あいつに。.......息子を返せって」

亜樹の目を見て話すハル。

亜樹:「だけど.....」

ハル:「でしばらくしてさ、スケートなんか一回も滑ったことのないっていうあいつが、入部希望出してきて」

亜樹:「あなたがキャプテンだったホッケー部に?」

ハル:「まぁ後になって分かったんだけど、その亡くなった子、ホッケーのジュニアチームに入ってたんだって。まぁ将来はアイスマンを目指してたのかも。......ホントバカな発想かもしんないけどさ、あいつん中では謝罪する方法がそれしか見つかんなかったんじゃない?......その子の代わりに、その子の人生を生きようって」

橋の下の川面を見ながら話す2人。

亜樹:「前に大和さんが言ってたわ。自分はホッケーが好きじゃないって」

ハル:「きっとさ、一時もその子のこと忘れる瞬間なんてないからじゃないの?」

亜樹:「それから何年になるの?」


亜樹が、ハルをじっと見て尋ねます。

ハルは、目を閉じてから、

ハル:「12年。.......もう12年だよ」



その頃、大和は、忘れようにも忘れられない場所へ、花束を持って歩いていました。


道を見た瞬間、あの時の光景が思い出され、震える大和。

大和の手から、花束がするりと落ちていきます。

振り返ることができずに、大和は、その場を後にします。






亜樹:「ねぇ?」

ハル:「うん?」

亜樹:「あなたの言う古き良き時代の人だったら、どうするんだろう?」


ハル:「どうするって、何が?」

亜樹:「こんなとき、どうすればいいんだろう」

ハル:「.........分かんねぇ」

ハルは、そう呟きます。
 

亜樹と別れて、フェイスオフで、兵頭の隣に腰かけているハル。

ハル:「あなたと、容子さんとのことを聞きました」

兵頭:「昔の話だ。遠い昔のな。それにしても、どうして彼女はそんな話をおまえに」

ハル:「可哀想だと」

兵頭:「可哀想?私が?」

ハル:「あなたは恋人にも親友にも裏切られた上に俺からも反感を持たれている」

兵頭:「なるほど。それで?里中、おまえは私に少しでも優しくしようとでも思ったのかい」

ハル:「いや」

兵頭:「それを聞いて安心したよ。バカにホッケーはできないからね」

ハル:「どう思ったんですか?」

兵頭:「何をだ?」

ハル:「向こうで、容子さんとコーチが結婚する話を聞きましたよね」

兵頭:「世の中にはいらぬお節介をするヤツがいるからね」

ハル:「ショックでしたか?

兵頭:「そんなことを知って一体なんになるんだ?おまえ、どこかに待たせてる彼女でもいるのか?それとも逆かい?誰かを待っている女を奪いたいと


ハル:「いや.......」

兵頭:「彼女にも言ったがな........待たせる男が悪いんだ。それに、個人的に言うならね。俺は、その話を聞いたとき内心ホッとしたよ」

ハルが兵頭を見ます。

兵頭:「安西に裏切られた?憎んでいる?むしろ逆さ。ありがとうって言いたかったね」 

ハル:「嘘だ」

兵頭:「どっちにしろ彼女に戻るつもりなんてなかった。せいせいしたよ」

ハル:「嘘つけよ」

兵頭がため息をついて、立ち上がります。

ハル:「容子さん言ってましたよ。待つことができなかったあたしが悪い、って」

兵頭は店を後にします。




その頃、亜樹は本社で知佳と百合にハルから聞いた話をします。

百合:「そんなことが.......」

絶句する百合。

亜樹:「だから、別に百合がどうってワケじゃないの。彼は、恋愛することにどこか後ろめたさを感じてしまったんだと思う

百合:「だけど、そんなのあたし.......」

知佳:「ちょっと重いよね。百合には。百合は単なる玉の輿希望なだけだもんね」

知佳.........笑 

百合:「露骨に言わないでよ」 
  「......向こうだってどれほど真剣だったか分からないし」

亜樹:「忘れられたって

百合:「え?」

亜樹:「百合といるときだけ、偽物の自分だったかもしれないけど、辛いこと、忘れられたんだって」

知佳:「いいなぁ、あたしも誰かに言われたい」

亜樹:「あたしも、誰かに言われたい」


百合は、知佳と亜樹を見つめます。