【肥田美佐子のNYリポート】躍進フェースブック、プライバシー問題で逆風
「フェースブックの個人情報軽視に嫌気が差したみなさん、5月31日をもって一斉にアカウントを閉じませんか。希望者はご署名を!」
フェースブックのボイコットを呼びかけるサイト「QuitFacebookDay.com」(クイット・フェースブック・デー=フェースブックの利用をやめる日)をクリックすると、そんな趣旨の見出しが目に飛び込んでくる。日本時間5月28日午前6時半現在の賛同者は2万3027人。まんざらでもない数のように聞こえるが、全世界で約5億人のユーザーを抱えるメガサイトにとっては、痛くもかゆくもないだろう。なにしろ5億人といえば、世界ナンバースリーの超大国に匹敵する数字である。
今、そのフェースブックが、ちょっとした逆風にさらされている。サイト上の広告をクリックしたユーザーの実名や年齢、出身地、職業などの個人情報を広告会社に送信していたことが発覚したのだ。利用規約では、本人の同意なしにユーザーの個人情報を第三者と共有しないことをうたっているため、明らかな規約違反である。もっとも、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)2番手のフェースブックだけでなく、最大手のマイスペースなども同様の違反をしており、両社とも、すでに変更措置を講じている。
6年前、当時まだ二十歳だったマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が、ハーバード大学の寮の一室で友人とのコミュニケーションツールとして開発したフェースブックは、友人や家族といった個人的な関係をビジネス化するという「エモーショナル」(感情的)な戦略で大成功を収めた。iPhoneやiPadなど、眺めたり触ったりするだけでワクワクするような、五感に訴える製品が大ヒットを生むのと同じ理屈である。フェースブックは現代人の「ソーシャル(社交)DNAをチェンジした」(タイム誌5月31日号)とまでいわれている。
筆者も、「サジェスチョン」(知り合いの候補)欄に思いがけなく友人のセルビア人男性記者の名前が登場したときは、うれしさのあまり、迷わず「友人に加える」アイコンをクリックしたし、騒乱に揺れるタイの友人の書き込みを見ては、タイ語のため、内容はチンプンカンプンながらも、無事を知って胸をなで下ろしたものだ。ニューヨークで知り合った元同僚の米国人女性がロンドンに移住したことを知ったのも、ポスティングされたロンドン便りと元気そうな写真のおかげである。国際会議の公共用コンピュータエリアで、書類を片手にいらいらしながら順番を待つスーツ姿の政府関係者を尻目に、延々とフェースブックに書き込みをしている若者を見かけることも少なくない。
情報の「開放性」を追及し、「世界をもっとオープンにして一つにつなげる」というのがザッカーバーグCEOの口癖だが、ユーザーが個人情報を書き込めば書き込むほど、特定のイベントや製品の「Like」(お気に入り)アイコンをクリックすればするほど、その「情報の宝の山」は、同CEOに莫大な広告収入をもたらす。タイム誌によれば、同社の今年の年商は10億ドルに達する見込みだという。筆者のページにも、ブロードウェー劇場のチケット情報やダイエット、グルメなどの広告が躍っており、「ニューヨーク」「女性」といったカテゴリーで色分けされているのが分かる。つい最近まで、この広告をクリックすると、筆者の個人情報を特定できるデータが広告会社に流れていたわけだ。
「個人情報を元手に広告でもうけるのがソーシャルメディアのビジネスモデルなのだから、ユーザーは、個人情報をオンラインに載せるに当たって細心の注意を払うべきだ」
個人情報保護やプライバシーなどの問題に詳しいニューヨーク州弁護士、フランク・モンテリオン氏は、そう警鐘を鳴らす。オンライン上での個人情報開示に慎重な同弁護士は、個人的にSNSのたぐいは、いっさい使用したことがないという。フェースブックの社員のオフレコの談話として、「ザッカーバーグCEOは、プライバシーの存在など信じていない」と米メディアが報じた点についても、「自ら進んでオンラインに個人情報を載せておきながらプライバシーの保護を期待すること自体、無理がある」と、ユーザーの意識の甘さを指摘する。
フェースブックの特徴は、「実名で流す情報のほうが信頼性に富む」(ザッカーバーグCEO)という理由から、本名での登録を求めている点だ。また、ユーザーは、生年月日や居住地、出身地、職業、趣味、婚活の意志の有無、政治的スタンス、宗教上の信条、履歴など、より多くの情報をインプットするよう「奨励」される。うっかり生年月日を「公開」でもしようものなら、アイデンティティー・セフト(個人情報泥棒)などの被害に遭う恐れもある。
米国では、「フルネームと社会保障番号、生年月日のうち2つの情報が手に入れば、事実上、その個人について、どんなことをすることも可能」(モンテリオン氏)だからだ。
住所や電話番号、結婚・離婚歴、同居人の名前、犯罪歴といった個人情報を売買するネット企業の台頭に脅威を感じ、法律事務所のドアをたたいてから約2年。当時は、インターネットとプライバシーなどほとんど問題になっておらず、知識のある弁護士を探すのもひと苦労だった。そのうえ、1時間何百ドルもの相談料を払って分かったのは、企業が、個人に対し、オプトアウト(情報を第三者と共有しないよう求める権利)を認めていないかぎり、打つ手がないという現実だった。
だが、そんな米国でも、ソーシャルメディアなどの台頭で、ようやくネットとプライバシーの問題が注目されるようになった。5月5日には、電子個人情報センターが、米連邦取引委員会(FTC)に対し、フェースブックの個人情報管理方法などについて苦情の申し立てを行っている。
かつて「デフォルト設定そのものがソーシャルなウェブを構築中だ」と語ったザッカーバーグCEO。昨年12月、非公開を選ばないかぎり、個人情報が自動的に「共有」されるデフォルト設定を導入し、批判を呼んだ際には、「社会が『グレート・オープンネス』(大いなる開放性)にシフトしている」ことの現われだと反論した。だが、「デフォルト設定では情報を最小化すべきであって、本末転倒だ」(英誌エコノミスト5月22日号)など、厳しい批判を受け、5月26日には、記者会見で、ユーザーの個人情報管理の一部方針転換を発表せざるをえない事態に追い込まれている。
「ユーザーがわれわれのサービスを使うのは、情報を共有したいから。とはいえ、弊社がユーザーのプライバシーを尊重していないという認識が行き渡っている」(ザッカーバーグ氏)。
さしもの「自信家」で知られる若きCEOも、5月31日には、QuitFacebookDay.comのサイトをこっそりチェックするかもしれない。
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