肩こり
私は床屋が嫌いである。あの両手の出なくなるカバーを掛けられた途端に、何か悪さをし、逮捕された凶悪犯の気分になるのだ。おまけに、目の前に大きな鏡があってさ、「おまえの面をよーく見ろ!手も足も出ねえだろ、早いとこ吐いちまいな!」、という刑事の声が聞こえる妄想を抱き、今日はどんな罪で裁かれるのだろうと椅子に座っている。
しかし、そんな私の気持ちを察することなく床屋さんは、手鏡を片手に、「後ろはこんな具合でどうですかー」、と明るい声で問いかける。「いいに決まってるでしょ、何でもいいから一刻も早く釈放してください!私は無実です!」、と叫びたいの押さえてコックリ頷く私。もはや、我慢の境地である。
きっと床屋さんはこの後に及んでも、満足げにさらにちょんちょんと細かい調整をするのだろう。そして、例の両手が出なくなるカバーをかっこよくはずして「お疲れ様でしたー」、と声を掛けるはずだ。あと2分の我慢だ。私は心で秒読みを開始する。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ!やったー、俺は完全勝訴だ!無実は証明された!晴れて自由の身になったのだ!応援してくれた皆さんありがとう!まず、私は外に出て何かおいしいものを食べたいです(涙)。
ところが、私のココロの叫びは愛想のいい床屋さんには通じなかったようだ。床屋さんは後ろからいきなり私の肩を掴んだ!幸い私はゴルゴ13ではないので床屋さんの首を折るようなことはできない。私は逆転有罪判決を受けた被告人のようにうな垂れるしかなかった。そんな重大な局面を迎えている私の状況も知らずに床屋さんには私の肩を掴みつつ、また、あの明るい声で言うのだ。
「お客さん、肩こってますねー」
「そうだよ、俺は床屋が嫌いだからさ。あんたのせいだ!あんたが真犯人だ!」とは言えず、小さな声で「急用があるので…」とよろけながら立ち上がるのであった。