●タイトルについて

うーん、これはちょっとイマイチ。

同じ近年の卒業曲でいえば、「帰り道は遠回りしたくなる」、「しあわせの保護色」は惹かれるものがあるし、

「最後のTight hug」もまあ悪くない。

そう比べて「ここにはないもの」って何も説明していないし、無味乾燥な印象を抱いてしまいます。

「”ここにはないもの”を書こう」と決意して詩を書き始めるとはあまり思えなくて、

歌詞をダラダラと最後まで書いて結局他に妙案が浮かばずこのタイトルになったのではないか、と感じます。

 

●詞・曲について(曲:ナスカ 編曲:the Third)

とりあえず、「深読み」みたいな浅っさい飛鳥考察でなかったのは良かったです。

真面目に詞を書いたのは認めて良さそうですが、いかんせん文章量が過多ですね。

戯れに調べてみると、前作「好きロック」は460ワード、今作はおよそ800ワードに至ります。

言いたいことを取捨選択せずにすべて詰め込んで、更に「他人のそら似」の影響なのか、過去表題のタイトルまで詰め込もうとした結果、何言っているのかが分かりづらくなってしまいました。

多分、まともに聞いてすんなり言ってること理解できるのは1サビくらいなんじゃないかな?苦笑

「それ(長々と述べる割に中身があまりない)が齋藤飛鳥だ」と言われればそうなのかもしれませんが。

 

曲は冬らしくて悪くないんじゃないでしょうか。

言葉が多すぎて歌に乗っていないところは気になりますが(笑)

 

 

●MVについて(監督:小林啓一)

架空のフィクションを構築し、演じさせることで現実を物語る、という乃木坂の旧来からの映像作品の伝統に倣って制作されていて、好印象。

比較的あっさり薄味な味付けという感想を持ちました。「サヨナラの意味」MVは賛否があるのでしょうけど、「絶対にこの映像を、この瞬間のこの表情を収めなきゃいけないんだ」という製作陣のほとばしる情熱は確かに感じました。

多分こちらは「〇分×秒の誰々の表情が最高」みたいな見どころは無いでしょう。

唯一無二のアイドル人生を送った大エース・齋藤飛鳥の最後の作品だし、もっともっと特別な感傷に浸らせてほしかった、というのは欲張りすぎですかね。

 

浅草線渋谷駅の映像は、飛鳥の衣装と駅の色合いのマッチング、彼女の関節を感じさせないダンスと駅の曲線美の鉄骨の構造とのマッチングが絶妙で、とても素晴らしいと感じました。

ちょうど直前に「Sing Out!」の映像を見て、この曲の後継のセンターは誰になるのだろう。踊りが良い人が必須条件だから、筒井あやめなんか良いんじゃないか。と思っていたところ。この映像で特に印象的に描かれていたのが筒井あやめでしたね。

 

ダンスパートは、ここだけ突然カメラ目線、撮られている意識が強く見られて、アイドルと目線が合ってしまうことがやや違和感でした。ここだけ現実に引き戻される感じ。

「今誰」MVが物語に没入できるのは、鑑賞者はダンスシーンになっても最後まで誰一人とアイドルと目が合わないからだと思います。

 

ラストシーン。今までのどの卒業表題よりも、詞の主張に従って「去る寂しさよりも次に進む明るさ」を表現したのは優れた点だと思います。

何も残さず去っていった橋本奈々未に対し、齋藤飛鳥はひとこと書置きを残して旅立っていきました。

これが飛鳥なりのやさしさとは、なのかもしれないですね。