「年を取るにつれて、だんだんとやせにくくなってきた」「若い頃は体重キープしやすかったのに…」。こういった心当たり、あなたにもありませんか? 加齢とともにやせにくくなる現象については、食事量の調整で維持できていた体重が落ちづらくなったり、“食べた分だけ太って、そのまま戻らない”実感があったりと、切ない実体験に基づく声がさまざま聞かれますが、「なんでやせにくくなるの?」といった根本的な疑問を持っている人もいると思います。

 

 そこで、医学的観点でみたとき、「加齢とともにやせにくくなる」のは本当といえるのか、eatLIFEクリニック(横浜市旭区)院長で内科医・糖尿病専門医の市原由美江さんが解説します。

やせにくくなり始める目安は「50歳以降」

 そもそも、体重が減る(やせる)とき、人間の体内ではどのようなことが起こっているのかを正しく知っていますか。

 体内で過剰になったエネルギーは中性脂肪となって、体内に蓄積されます。この脂肪が皮下脂肪や内臓脂肪になって、太るわけです。逆に、体重が減ってやせるときには、脂肪細胞が分解される必要があります。

 運動などで体内のエネルギーが減少すると、「リパーゼ」という酵素が活発化して、中性脂肪が「遊離脂肪酸」と「グリセロール」に分解されます。この遊離脂肪酸が全身の筋肉に運ばれて、エネルギーに変換されます。これがいわゆる、脂肪が燃焼する状態です。

「加齢とともにやせにくくなる(体重が落ちづらくなる)」ことを実感している人は少なくないと思いますが、結論からいうと、これは事実です。

 人間の生命維持活動に必要なエネルギーである「基礎代謝」は寝ている間も消費するものですが、筋肉には体温を維持する働きがあり、これに多くのエネルギーを必要とします。つまり、筋肉量が少なくなると消費するエネルギーも減り、基礎代謝が落ちることになります。

 体温維持や、運動の際のエネルギー消費量は筋肉量に比例するので、加齢とともに筋肉量が減っていくと基礎代謝量も低下していきます。そのため、やせにくくなるのです。

 筋肉量が落ちて、基礎代謝量が低下するタイミングは個人差がありますが、50歳以降に目立ち始めるため、「やせにくくなった」と実感することが多くなってくるでしょう。やせにくくなり始めるタイミング(年齢)の、一つの目安となるかもしれません。なお、70歳以降では、さらに基礎代謝量は低下してきます。

 一方で、「年齢を重ねても体形がほとんど変化しない人」に心当たりがある人もいるのではないでしょうか。実際のところ、年を取っても体重を維持しやすい人もいると考えられます。

 加齢に伴う基礎代謝量の低下の主な理由に、「骨格筋量の減少」が挙げられます。運動習慣がある人は筋肉量が減りにくいので、やせにくくならない可能性が高いです。散歩などの有酸素運動に加えて、筋トレなどの無酸素運動を取り入れると、より筋肉量の維持・強化につながるので、おすすめです。