物持ちは良い方だけど、「とっておこう」と決めこんでいるのではなくて、単に捨てるタイミングが分からないからそうなっているのである。

でも今日、「絶対にとっておきたい」けど「毎日身につけていたい」と思うものがあることに気が付いた。
性格的に、大事なものは廃れないように仕舞い込んでおくタチだが、これは身につけていたいと思っちゃう代物なのだ。

同窓会に行くために新しく買ったコート。
形も素材も気に入ってるけど、もちろんそんなことが理由ではない。

あの日、日本酒で酔いまくって傍若無人に振舞ったあの日の一番最後。
朝方、みんなで乗り合ったタクシーから、あのひとは私の家の前で一緒に降りてくれて。
名残惜しくてぐずる私を、ぎゅっとしてくれたのだ。このコートにくるまった私を、ぎゅっとしてくれたのだ。

実際、そうされたいと、そうなりますようにと祈りながら用意したコートだよ。
企んでいたとも言えるだろう。
でもその瞬間は企みも雑念も何もなかったの。

あの感覚、感触が忘れられん。
幸福が弾けたと思った。弾けて、その破片が全身に染み込んだのだよ。

これを着ると思い出す。
これを着ると、あの出来事が事実だったことがわかる。
だから毎日着てしまう。
後生大事にしたい。
あの思い出か、あの感触か、このコートか、全部か、わからないけど。

身体中で感じていたいんだ。

この先もうあんなことが起こらないのなら、あたしは一生あの日の思い出にすがって浸って生きるね。

でもあたしは貪欲で、諦めの悪いずるずる女だから。
次の機会を虎視淡々と待つよ。

でもあのひとには迷惑を掛けない。
つまり、私のこの心の動きを少しも悟られてはいけない。
私は私で、他所で幸せにしているように思わせなければいけない。
だってそれがあの人の望みだから。

うまくやるの。

如何にも自然な形で次の何かがやってくるまで、数ヶ月か数年か、また身を潜めましょう。