朝日新聞2020年6月5日11面の紙面から
「富豪が憂える資本主義」ニック・ハノーアーさんのインタービュー記事が載っていました。富豪である氏にコロナ危機による世界的な株価の急落はダメージがあったかとの問いに「私も富豪仲間にも全く問題ありません。今も富を増やし続けています」と答えています。そしてここから氏の資本主義を憂うる話に入っていきます。米国社会が抱える最大の問題が格差です。全米の最低賃金は7・25ドル、物価と生産性が上がった分を反映すれば22ドルになっていてもいいはずです。低賃金は労働者の生み出す価値が低いからでも能力が低いからでもない。氏は労働者に交渉力がないせいだと言います。最低賃金を無理に上げると雇用が減る。又、リベラル派の経済学者も成長ではなくモラルの問題として最低賃金を見ていました。氏によればシアトルで最低賃金を時給15ドルに実現してからめざましい発展を遂げ、雇用も増え続けました。それでも、賃上げで閉店に追い込まれた経営者もいて怒りを買っている例もありました。それでも氏は言います、生活に困らない賃金を払えない経営者が退場させられるのは仕方が無いことです。むしろ一件廃業することに新たに三から四軒開業してきた資本主義の活力に注目すべきですと。
この間、アメリカも日本も「新自由主義」と言われる政策を推進してきました。税金を減らし、賃金を低く抑え、企業への規制を緩めて出来るだけ小さな政府を目指して実行してきました。三本の矢に例えられるアベノミクスは「トリクルダウン」と言われる、富裕層が富めば、いずれ庶民に滴り落ちるという考え方で、政治や経済を支配してきました。約40年にわたる新自由主義の政治や経済政策は極端な格差社会を生み出し、今回のコロナ危機で貧困層の悲惨な現状を出現させました。米国では家に閉じ込められて死を待つか、わずかな賃金のために死のリスクを覚悟して働きに出るかの2者択一を迫られたのでした。このことは黒人層により顕著に現れています。今回の危機で米国が3兆ドルの経済対策を打ち出しました。しかし、その内容は困窮する移民家族を給付対象から外す一方大企業にできるだけ多くのお金が流れるように画策してきました。その典型例は大企業の航空会社は手元資金がなくなったからと政府に駆け込み直接救済を受けています。このような新自由主義にもとずく政策は中間層の更なる減少を作り出し、貧困層の富裕層への反撃として現れて来ると考えられます。そのことは資本主義が99パーセントの普通の人により支えられ、一部の富裕層やCEOに支えられているのでないといえます。コロナ危機は大恐慌にせまる失業を生み出し、警察官の黒人殺害への抗議が全米に拡大していることなどはその端緒を示しているのかもしれません。氏は解決策の一助として、「累進規制」すなわち大企業ほど高い最低賃金や厳しい労働規制を課して、中小企業や小企業を有利に導く必要があります。そうすることで地方の疲弊や雇用の確保を実現し、資本主義にとって良好な循環が確保されるものとなる考えられます。
