「スリー・ビルボード」(2018)

個人的満足度(五つ星)

★★★★★

 

 ミズーリ州の田舎町エビングに住む女性ミルドレッドは、ある日道路沿いの3番の看板に広告を出す。殺人事件で娘を失っていた彼女は、なかなか犯人を捕まえられない警察への不満を、警察署長ウィロビーの名前入りでそこに公表したのだ。しかし、町の人々にはウィロビー側に同情するある理由があり、ミルドレッドは警察署、そして町の人々と対立するようになる。そんな中予想外な展開が次々と起こり…。

 当初あらすじと予告の情報からは、何が面白いのかまったく予想できませんでした。が、実際に見てみると脚本が本当に面白い。時にバイオレンスも交えながら、登場人物が暴れまくる予測不能のブラック・コメディーでありながら、そうした登場人物たちのメチャクチャな行動の裏には、切ない事情があるということも同時に描かれていきます。そして後半のある登場人物の変化と行動などを通じ、最終的には胸を打つドラマが立ち上がっていきます。普遍的なテーマが見事に表されていて、まさかこんなに胸にグッとくる感動的な映画であるとは思っていませんでした。

 

 

(以下、ネタバレあり)

 

 

 すごく良いなと思ったのは、「人の多面性」というテーマのもと、どの登場人物も脇役に至るまで一筋縄ではいかないように描かれていることです。ミルドレッドの暴走ぶりはリアリティラインぎりぎりのぶっ飛んだものではありますが、彼女の娘との最後のやりとり(挿入歌のJust Walk Away Reneeはこの場面のことを意味しているのでしょうか?)や、ひとりになったときの表情、燃えるビルボードを必死で消そうとする姿など、娘の死に対して大きな責任と悲しみを抱えていることが丁寧に描かれているので、暴走シーンとのギャップとフランシス・マグドーマンドの演技力もあり、真に迫るキャラクターになっていたと思います。

 あと個人的には、ミルドレッドの元夫のガールフレンドの女の子のバカだけど憎めない感じが最高でした。作品の大きなテーマとなる言葉が彼女から出てくるというのも良いですよね。

 

 そしてなんといっても、サム・ロックウェル。私は、前半は「何てクズ野郎なんだ」とムカムカするのでもうこのキャラクターは見たくないと思っていました。終盤、彼は変化するわけですがそのきっかけとなるウィロビーの手紙がとても良かったです。うろ覚えですが、「お前は根はいいやつだし、やればできるって信じてるぞ!」的なことを言っていた気がします(違ってたらすみません💦)。ディクソンが暴力的だったのは、母親に依存しているというコンプレックスなど(パンフで町山さんがABBAの選曲などから指摘されていた点については全く気づきませんでした!)で、自分自身を肯定できなくて自暴自棄になっていたからのような気がします。そんな彼も、慕っていたウィロビーから最期の言葉として「信じてる」と言われたことで、もう一度自分自身を信じてみようという気になったのだと思います。そんな風に、他者の内面を想像して想うことや、自分が相手を信じていると伝えることの大事さなどを考えさせられました。

 

 この映画で描かれている「赦し」というテーマはありふれたものではあるかもしれませんが、やっぱり大事なことですし、本作はそのテーマの「伝え方」や「物語り方」が丁寧で上手いため、単に言葉で言う以上の説得力と真実味が生まれているのだと思います。