「はじまりへの旅」(2017)

個人的満足度(五つ星)

★★★★

 

 「ロード・オブ・ザ・リング」などのヴィゴ・モーテンセンが、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたロードムービーです。山の中で外界と接触せず暮らす父親と子供たち。母親が亡くなったことから、彼らが彼女の葬儀に出るため初めて都会へと旅にでるという物語です。

 映画のテイストは基本コメディです。冒頭は山の中でのサバイバル・トレーニングの場面が続き、「なんだろうこの話…」という感じでしたが(でも、これはこれで面白いです)、葬儀に出るためバスで出発したところから物語の面白さも一気に加速した印象。爆笑する場面が連発されます。一方で、突飛な設定からいろいろ考えさせられたり、涙を誘うシーンもある映画でした。

 

 

〈以下、ネタバレあり〉

 

 

 笑えるシーン(スーパーから食料を盗むくだりや、ベンの妹の家での気まずい食事シーン、唐突な全裸など)も多くて楽しい本作ですが、一般的な価値観とは全く異質な家族を描くことで、人生にとって本当に大事なことはなんなのだろうかと、ぼんやりとは考えさせられる作品でした。彼ら家族が暮らしていた環境は、ある意味で無害化され、理想化された環境。でもそれだけでは体験できないこともあって、真に人生を謳歌することはできないということも両面描かれていますが、正直期待したほどそうしたことに対する斬新な視点や深い考察までは読み取れなかったかなとも思いました。

 

 物語の後半、ベンに従ったことでヴェスパーが危険な目にあい(このシーンはゾッとしました💦)、彼らは祖父の家に滞在することとなります。ここでベンは子どもたちに「森に行けば妻の病が良くなると思った」的なことを言います。これは、もともと結婚した当初からベンの妻は精神を病んでおり、森で暮らし始めたのはその治療のためでもあったということなのかな?と思いました(違うかもしれませんが…)。そう考えると、子どもまでも巻き込んでしまうほどの、ベンの妻に対する歪ながらも強い愛情の物語ともとれそうな感じで、「僕は君のものだ」というセリフにもグッときました。ひとり運転する横顔のシーンなど、ヴィゴ・モーテンセンはノミネートも納得の感動的な演技だったと思います。