宮下奈都さん著、羊と鋼の森。
二年前?ぐらいから読んでいたものの
引っ越したら本が見当たらず
読みかけのまま時が過ぎ、
最近やっと本棚から見つけて読了。
探したはずの本棚から出てくる、
探し物あるある。
賞を取った時から気にはなっていた作品で、
でも何となく読まないままでいて、
やっと読んで、
読んで良かったと思った。
ピアノの調律の話を
こんな風に彩り豊かに描けるんだな。
音を言葉で表すっていうこと自体が、まず、
面白いけど難しいことだと思う。
調律で変わるピアノの音を表すことは、
そもそもピアノの音の違いがわからない人にも
わかるように表すことは、
表現力が試される。
音そのものを書き表すだけではなくて、
主人公の心を描き、
ピアノの持ち主の演奏を描き、
先輩調律師の言葉を連ねて、
そういうことを重ね合わせることで
音が聞こえるように描かれている。
双子の姉妹のピアノの音。
明るく弾むような演奏と
落ち着いて美しい演奏と
それぞれの音楽を想像することができた。
音楽を文学で表現するって
想像の余地がとても大きくて
そこが魅力だなと感じた。
ピアノが弾けない調律師って
実際にもいるのかな。
ピアノに親しんでいなかった人が
急に調律師を目指すのって
とてもハードルが高いんじゃないかと思う。
それをやってのけて
失敗しながらも成長していく主人公。
特別能力が高いわけではない素直で実直な人…
のように描かれているけれど、
実はものすごいことだと思う。
というか、
作品に出てくるベテラン調律師のような
側から見てすごい人っていうのも、
コツコツ努力と経験を重ねて
すごいと思われるようになっただけで、
もともとはみんなそういうものなのかもしれない。
私はあまりかっこつけた小説が好きではなく
この表現オシャレでしょ?
この言い回しどう?すごいでしょ?
という著者の声が聞こえてくるような作品だと
冷めてしまう。
この本は
「明るく静かに澄んで懐かしい文体、
少しは甘えているようでありながら、
きびしく深いものを湛えているような文体、
夢のように美しいが現実のようにしたたかな文体」
という作中で引用されている原民喜の言葉を
目指している小説なのかなと感じる。
これは、
先輩調律師が
どんな音を目指しているか
という主人公からの質問に答えた言葉。
音も、文章も、
この言葉のようにつくることができたら、
とても心地良いだろうな。
音楽っていいな、と
本っていいな、と
どちらも感じさせてくれた作品。