Appleが次期iOSでようやく「おサイフ」機能を搭載するという噂を考察 | 難波のslowhandが物申す!

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●次期iOS「おサイフ」機能の噂を考察 (1)
米Appleが今夏に提供を開始するといわれるiOSの新版において、「モバイルウォレット」を搭載するという予測がある。この「iOS 7」は今年6月10日より米サンフランシスコにて開催されるWWDC 2013において公開されるとみられるが、実際にウォレット機能が搭載されるのか、その場合どういった機能になるのかについて検証していく。

○2人のアナリストがiPhoneへのウォレット機能搭載を予測

CNETが4月11日に報じた記事によれば( http://news.cnet.com/8301-13579_3-57579030-37/apple-could-unveil-killer-app-this-summer-says-analyst/ )、Morgan StanleyのアナリストKaty Huberty氏がiOS新版で"真"のモバイルウォレットを搭載してくると予測しているという。Huberty氏によれば「キラーアプリ」の名称が冠されており、iOS 7における目玉機能の1つとなるようだ。Apple関連の予測や投資推奨レポートで知られるPiper JaffrayのアナリストGene Munster氏もAppleが将来的にデジタルウォレット機能をサポートしてくることを予測しており( http://news.cnet.com/8301-13579_3-57578125-37/apple-to-develop-digital-wallet-in-next-year-or-two-says-analyst/ )、その点で両者の見解は一致している。ただしHuberty氏は間もなく登場するiOSの新バージョンでの搭載を予測しているのに対し、Munster氏はウォレット搭載まで1~2年ほどのタイムラグが存在するとしている点で異なる。

「モバイルウォレット」「デジタルウォレット」「e-Wallet」などさまざまな名称があるが、一般にモバイル業界における「ウォレット」とは、ペイメントサービスからクーポン/ロイヤリティ、身分証明書、チケット、鍵(アクセスコントロール)まで、さまざまな個人データをひとまとめにして持ち歩けるサービスの総称だ。財布(ウォレット)に「クレジットカード」「ポイントカード」「定期」が入っているのをイメージしてもらえばいいだろう。日本ではNTTドコモのサービスの商標として「おサイフケータイ」が用いられているが、これもウォレットサービスの一種だ。米国ではGoogleが「Google Wallet」の名称でサービスを提供しているほか、ISISが採用し、日本でも大日本印刷がライセンス提供しているC-SAMのウォレットがよく知られている。CNETのレポートでは2人のアナリストの予測について詳細を紹介していないため不明だが、iOSにおいてもこうしたウォレットに類似したサービスが準備されており、間もなく提供がされるのだと考えられる。

「Passbookはウォレットではないのか?」と疑問に思う方がいるかもしれないが、Passbookはウォレットではないというのが筆者の意見だ。ウォレットに関して厳密な定義はないが、PassbookそのものはiOSにインストールされた各種対応アプリのフロントエンドでしかなく、「チケットやストアカードをひとまとめに表示したもの」にすぎない。Starbucksアプリなどごく一部を除けばユーザーインターフェイスの使い勝手も必ずしも良くなく、将来的にPassbookの改良版と呼べるものをAppleが搭載してくることは容易に予想できる。

○ウォレット機能に関する疑問を検証する

2人のアナリストの予測について、もう少し詳しく紹介した記事がApple Insiderに掲載されているので紹介する。まずHuberty氏の話によれば( http://appleinsider.com/articles/13/04/11/analyst-says-apple-may-launch-new-internet-service-killer-ios-app-after-meeting-with-management )、Apple関係者の話として同社がWWDCで発表予定のiOS 7において、インターネットをベースにした新しいサービスと、前述「キラーアプリ」を提供する見込みだという。前者は「ストリーミング音楽配信サービス」だとApple Insiderでは説明しており、後者が問題の「ウォレット」アプリだという。ただし、ウォレットアプリの詳細については解説されていない。

Munster氏の話はもう少し詳しく( http://appleinsider.com/articles/13/04/05/itunes-accounts-with-credit-cards-a-tremendous-asset-for-potential-apple-e-wallet )、Appleは次期iPhone 5Sで「指紋認証」機能を搭載予定で、これが同氏のいう「ウォレット」機能と密接に結びついているという。また、このウォレット機能では「NFC (Near Field Communication)」をサポートせず、別のワイヤレス通信技術をサポートする可能性が高いとしている。その理由としてApple Insiderでは、NFCそのもののセキュリティ上の脆弱性が理由としてAppleが同技術の採用を避けていると説明している( http://appleinsider.com/articles/12/09/04/apples_passbook_strategy_ignores_nfc_technology_to_power_ios_6_retail_apps )。

順番に検証していくと、まずAppleがより洗練されたウォレット機能をiOSに搭載してこようと考えるのは順当であり疑問の余地はない。iOS 7がそのタイミングかはわからないが、むしろ争点は「どういった形や機能でウォレットを搭載してくるのか」という点だ。

一方でMunster氏の予測については疑問を挟む余地が多くある。まず指紋認証だが、システムデザインが大きく変更されないと予測される次期iPhone 5Sにおいて採用可能かという点、そして指紋認証は端末やアプリのロック解除には使えるものの、OSやアプリそのものの安全性を担保する技術ではなく、特にセキュリティ上の脆弱性については無力だ。そのため、クレジットカードや身分証などの個人情報を保存するウォレットアプリに必要なセキュリティ機能を実装する場合、指紋認証とは別レベルのセキュリティが要求される。それがNFC対応端末で搭載されている「セキュアエレメント(SE)」であったり、一部で実装が進みつつある「Trusted Execution Environment (TEE)( http://www.globalplatform.org/mediaguidetee.asp )」のような仕組みだ。ただし、TEEそのものはSEを代替する技術ではない点に注意が必要だ。

●次期iOS「おサイフ」機能の噂を考察 (2)
また、NFCではないワイヤレス技術という点も疑問の余地がある。NFCは別に必須のものではないが、SquareやPayPal Hereといった新しいPOS向けソリューションが登場したり、加速度センサーや位置情報を組み合わせてクラウド上で2つの端末をマッチングして擬似的にNFCと同様の機能をiOSに提供するBumpのようなサービス( https://itunes.apple.com/us/app/bump/id305479724?mt=8 )があるのも、iPhoneをはじめとしてNFC搭載端末が少なく、同機能が利用できないことに起因している。もしNFCが多くの端末で使えるのであれば、別にBumpの仕組みでNFCを利用しない理由はない。

また現在、米国では2015年までにEMVと呼ばれるクレジットカードへのセキュリティチップ搭載が義務化され、金融機関やバックエンドのネットワーク、リテーラー各社が対応を急いでいる。店舗に設置されるターミナル端末も入れ替えが発生するため、「このタイミングでEMVとNFC両対応を進めよう」という気運が高まっている。その場合、一気にEMV対応POS端末やNFC対応が進むことになり、「磁気カードしか使えない」という米国の状況は大きく変化することになる。その意味では、あえてNFC以外の技術をAppleが積極採用する必要性は薄くなる。Bumpのようにワイヤレス技術(3GやWi-Fi)とiTunesアカウントをマッチングさせる方法も考えられるが、iOSデバイス同士の通信ならともかく、広く利用されるウォレットでApple独自の仕組みを導入するのはナンセンスだ。

○Appleのウォレットサービスはどのようなものになるか

以上を踏まえたうえで、筆者なりにAppleのウォレットサービスについて予測してみる。まず筆者の意見として、NFC機能は少なくともマイナーチェンジ版といわれる次期「iPhone 5S」については搭載される可能性が低いとみている。現在iPhone 5が搭載しているBroadcom製のWi-Fi/Bluetooth/FMコンボチップ(BCM4334)はNFC非対応だが、BroadcomではNFCを含んだコンボチップも提供を行っており、移行自体は問題ないと思われる。問題はむしろ「アンテナ実装」と「セキュアエレメント実装」の部分にある。

iPhone 5Sでは筐体デザインが変更されないと思われるため、NFC用のアンテナは金属で被われた背面には配置できず、本体背面最上部または最下部のガラス部分に限定され、これではNFCのタッチ用途での使い勝手は大幅に悪くなる。実際、内部デザイン上の変更余地も少ないという話を聞いており、少なくとも次の世代でNFCを搭載する可能性は低いだろう。

セキュアエレメント(SE)については若干事情が複雑だ。SEは小さなプロセッサの一種で、内部でアプリが動作し、各種機密性の高いデータをハードウェア的に保護している。正攻法でデータを直接抜き出すことは非常に困難なため、十分に安全性が担保されていると考えていいだろう。一方で実装方式についてはSIMカード方式、組み込み方式(エンベデッド)、SDカード方式など複数存在し、どの方式を使うかでウォレットを含むセキュアなデータの制御権を誰が握るかが変化するため、NFC業界全体でもどの方式を採用するかで水面下の綱引きが続いている。

筆者があるキャリア関係者に聞いた話によれば、以前にAppleはSIM以外の方式を採用してペイメントサービスへの参入を計画していたものの、SIM方式を強行にプッシュする仏Orangeら欧州キャリアらの猛反対にあい、計画していたiPhone 4S前後の時期での採用を見送った経緯があるという。一方でSIM方式を採用することで、サービス提供にあたって携帯キャリア各社や世界のSIMカードシェアで6割以上を握るGemaltoといったベンダーの過剰介入を招く可能性があり、これを忌諱したのがNFC採用を見送った本音のようだ。実際、GoogleはGoogle WalletでのNFC採用にあたってエンベデッド方式を採用したことで、キャリア連合であるISISと激しく対立する結果となってしまった。

以上の経緯から、Appleはセキュアエレメント実装に関してかなりシビアになっていると考えられる。ゆえにAppleがペイメントサービスやウォレット機能をiOSに実装する場合においても、セキュアエレメントを採用してのNFC実装は可能性が低くなると筆者は予測している。AppleがセキュアエレメントなしでのNFC実装を模索している可能性については、複数の関係者から同種の話が出ており、かなり信憑性が高まっている。その場合、NFCのアンテナや通信機能を搭載してタグの読み取り(カードリーダモード)や端末同士のデータ交換(PtoPモード)は可能でも、セキュアエレメントはないため、端末を自動改札やPOSにタップしての買い物やゲート通過(カードエミュレーションモード)は利用できないとみられる。その場合、いかにSEなしでモバイルペイメントやウォレット機能を実現し、安全性を担保するのかという点が、Appleが準備しているといわれる「キラーアプリ」のキモとなる。

実現方式は不明だが、セキュアエレメントが本来担うデータ保持をiTunesなどのクラウド上に行い、PINコードと指紋認証などの2要素認証を組み合わせてセキュリティを高める方法が1つの案だ。これはGoogle Walletが似たような仕組みを実現している。ただしこのままでは通常のクレジットカードネットワークでは処理ができないため、何らかの工夫が必要になる。iTunesのクレジットアカウントを使っての買い物が可能になるという予測もあるが、これが実際にMasterCardやVisaといったクレジットカードと同様にどこでも買い物が可能なのかを考えると、比較的限定されたものになるだろう。いずれにせよApple 1社の力だけでなく、サードパーティらの広範囲での協力が必要になる。すでにPassbookで利用できるようなサービスは、セキュアエレメントを要求するようなセキュリティレベルをそのもそも必要としていないため、サービスへの対応はそれほど難しくないだろう。

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まとめると、ウォレット機能の改良は進むものの、そこで実装されるとみられるペイメントサービスは当初は地域的、あるいは機能的に非常に限定されたものになると考えられる。一方でハードウェア更新でNFC搭載の可能性は高まり、次々世代以降ではかなり可能性が上昇する。ただし実装については従来の方式とは異なり、当初はAppleのサービスや使い勝手を向上するものが中心となり、場合によってはウォレットサービスを一部拡充する形になるかもしれない。少なくとも、日本で利用しているおサイフケータイのようなサービスとは使い勝手が異なるものになるだろう。

画像等はこちら
http://news.mynavi.jp/articles/2013/04/28/ios/