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スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

新型コロナの感染症法上の位置づけについて、

岸田首相が原則としてことしの春に季節性インフルエンザと同じ

「5類」に移行する考えを明らかにしました。

 

これは本当に大きな変化のようです。

「5類」になると緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は出せなくなります。

感染者や濃厚接触者への「行動制限」もできなくなる。

そして、マスクの着用は屋外だけでなく、屋内でも原則求めない方向で

検討するそうです。

 

具体的な移行時期は4月1日か5月1日の方向で検討されているということなので、

大型連休の時期には「屋内でもマスクを外せる」ことになりそうです。

「人の表情が読めない」風景が変われば、

新型コロナに対する世の中の受け止めもかなり変わり、

解放感が広がっていくことでしょう。

 

そういえば、「表情のインパクト」が歌詞にあったな・・・・

ということで取り出したのがアン・バートン(vo)の「ブルー・バートン」です。

 

アン・バートン(1933-1989)はオランダ出身で、ヨーロッパ・アメリカで活動しました。

情感豊かな歌唱は日本人にもしっくりくるところがあったのか、

何度か来日して日本人ミュージシャンと作品を制作したこともあります。

 

「ブルー・バートン」は1967年に録音された彼女のデビュー作。

「歌詞で歌を選ぶ」と言われるだけあって、メッセージ性の強い曲が並んでいます。

アルバムのラストを飾るのは「サニー」。

ソウル歌手のボビー・ヘブが作った曲で、歌詞の中にこんな一節があります。


Sunny
Yesterday my life was filled with rain
Sunny
You smiled at me and really ease the pain
 

「サニー」は太陽のような輝きのある恋人、といったところでしょうか。

「雨模様の生活」だったのに、あなたの微笑で自分の痛みは癒された、という内容です。

「スマイル」には人の心を揺り動かすパワーがあるー

そんなストレートな歌詞をバートンはしっとりと歌い上げ、見事なジャズにしました。

 

1967年の録音。

 

Ann Burton(vo)

Louis Van Dyke(p)

Jacques Schols(b)

John Engels(ds)

Piet Noordijk(as)※2曲のみ参加

 

①I Can't Give You Anything But Love

よく知られたスタンダードで、軽快なテンポで演奏されることが多いと思います。

アン・バートンは意外なことに、非常にゆっくりとした展開にしました。

まず、あまり歌われることのないヴァースから入ります。

ピアノとヴォーカルのみでじっくりと落ち着いて語りかけてくる声。

まるで劇中のセリフのようです。

これが本編での「高いものは買えないけど、愛はあげられる・・・」

という内容の歌詞と見事につながっていきます。

ピアノ・トリオをバックに過剰な感情を排し、

一つ一つの言葉を大切にする歌唱は唯一無二のものと言えるでしょう。

相手に呼びかける「my baby」というワードまで

彼女の語りかけで忘れられない印象を残す、

「静かだがドラマチック」な歌唱です。

 

⑨Sunny

こちらも冒頭はピアノとバートンのみ。

「Sunny・・・」という呼びかけが少し切なく響きます。

そこにリズム陣が加わると、テンポが上がりアンの歌唱に変化が生まれます。

「Sunny・・・」に快活さが加わり、

聴き手としては穏やかな幸福に包まれているかのような感覚を覚えます。

先に紹介した「スマイル」のくだりから

「暗い日々が去り、輝かしい日々(bright days)がいまここにある」

といった歌詞が抑制された歌声で、しかし揺るぎない存在感で提示されると

「生きてて良かったなぁ」と思います。

アンの歌唱からピアノ~ベースのソロに至る静かな流れも

この曲にぴったりです。

 

他に⑧In The Wee Small Hours Of Morning も

朝のほの暗い光景が浮かんでくるような見事な歌唱です。

 

「5類」への移行があった時、マスクのない風景が広がっていくでしょう。

一方で、コロナに感染すれば重症化するリスクがある人たちは存在し続けます。

本日、コロナで亡くなった人は全国で398人。第8波の中でまだ高い水準です。

 

感染者が他の人に感染させない行動をとったりするなど、

最低限の「エチケット」は必要です。

これが「行動制限」ではなく「エチケット」レベルになることは喜びつつ、

「優しさ」もマスクと共に取り払わないようにしたいものです。

 

ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

 

ご挨拶が遅くなったのには理由があります。

何と、年始早々コロナに感染してしまったのです。

ここまでくぐり抜けてきましたが、とうとう捕まったか・・・。

 

幸い、年越しのため食料や生活必需品を事前に買い込んでいたのと、

症状が軽かったため自宅療養で特に不便を感じることはありませんでした。

 

問題は「どう過ごすか」です。

年始の東京は連日、すっきりとした青空が広がっていましたが

当然、出かけられません。

あり余る時間をどう過ごそうか?

 

そこで、世の中の流れから周回遅れで「Netflix」を見ることにしました。

いままで「ドラマが面白い」と言われても

「そんなにたくさんのエピソード、見る暇ないよ」と思って敬遠していました。

パートナーが契約して韓国ドラマにハマっているのを横目にしつつ、

自分には関係ないと思っていたのです。

 

今回見たのは「ザ・プレイリスト」。

実在する音楽ストリーミングサービス「Spotify」を題材にしたフィクションです。

ストーリーはスウェーデンの若きIT起業家が

「無料かつ合法」の音楽ストリーミングサービスを

開発しようとするところから始まります。

当時は音楽を違法にダウンロードできる海賊版サイトが横行していましたが、

もっと手軽にスピーディーに、「どんな曲でも聴ける」サービスを模索したのです。

 

この作品の優れているところは全6話の「視点」がそれぞれ違うところ。

第1話は野望を持つITエンジニア兼起業家、

第2話は無料配信に嫌悪感を持つレコード会社の経営者、

第3話は著作権などに詳しい辣腕弁護士、といった具合です。

それぞれの視点から理想と現実、新旧の価値観、

テクノロジーが変革する世界などが巧妙に描かれています。

 

(※ここからはネタバレになってしまうので、

 実際にドラマを見たいという方はご遠慮ください)

 

私が興味深かったのは「Spotify」側と音楽家の「決裂」が描かれていたことです。

第6話は「近未来(2024年以降)」の話で、

Spotifyで20万もの再生回数がありながら生活苦に陥っている

ミュージシャンの視点が登場します。

 

彼女は「音楽に対する正当な報酬が支払われていない」と

Spotifyに抗議する社会運動に参加し、ラストで創業者と対峙します。

しかし、結局、両者は物別れに終わるのです。

 

現実でも音楽家の組合がSpotifyに対し、

ストリーミングあたりの支払金額の上昇を求める動きがあります。

Musicians Are Right to Unionize Against Spotify, Streaming Apps (businessinsider.com)

 

Spotifyがクリアした「違法性」というのは、

結局、レコード会社と正規の取引をするようになったということで

音楽家への収入を約束したわけではありません。

しかし、音楽家への還元が微々たるものであれば

音楽そのものが衰退していきます。

再生回数がきっちり把握できる配信の世界で

音楽家が食べられなくなるというのは何とも皮肉な話です。

 

そんなことを考えていたら、

1枚のアルバムをCDプレーヤーにかけていました。

平倉初音(p)さんのデビュー作「Tears」です。

 

平倉さんの正確な年齢は分かりませんが、まだ20代。

このところ、活躍が目覚ましいピアニストです。

詳しい経歴はご自身のHP( Hatsune Hirakura )にある通りで、

大阪府出身、ベーシストの父親の影響でジャズを聴くようになりました。

高校卒業後、アメリカのバークリー音楽院に進み、

ジョアン・ブラッキーン(p)やラルフ・ピーターソン(ds)の教えを受けています。

2020年に帰国し、現在は東京を中心に活動中。

 

私は去年、下北沢のライブ・ハウスで彼女の演奏を聴いており、

非常に旋律が明快というか、いい意味で「分かる」ピアノだと思いました。

感性としては新しいものがあり、複雑なリズムや構造がある曲をこなすのですが

きちんと「伝わってくる」のです。

ご本人はウィントン・ケリー(p)のファンであるようで、

原体験でジャズの楽しさを知っているからこそのピアノなのでしょう。

 

なぜ「ザ・プレイリスト」というドラマを見た後に

平倉さんの作品を思い出したかと言うと、

ライブ・ハウスで「手売り」されていたからです。

「Tears」は六本木のジャズクラブ「アルフィー」が設立したレーベルの

第一弾として発売されました。

その作品を平倉さんはライブで自らPR、販売していたのです。

 

こちらとしてはライブで受けた感激の流れでCDを購入できますし、

販売店を介さない分、ミュージシャンの手取りも多いのではないかと考えて

喜んで支払いたくなります。

本当はそんな「感激」でつながる関係が配信でもあればいいのにな、

と思ったわけです。

 

まあ、あまり話が拡散しないうちに音楽に入りましょう。

 

2022年3月24日、六本木「アルフィー」でのライブ録音。

 

平倉初音(p)

若井俊也(b)

中村海斗(ds)

 

①Sea Raccoon

平倉さんのオリジナル。

タイトルは「アライグマ」を意味するらしく、

軽快でどこかチャーミングさもある曲です。

ミッド・テンポのスムーズな流れのままテーマからピアノ・ソロに入ります。

平倉さんのピアノは非常に音がクリアで一音一音がしっかり鳴っている。

ソロの序盤は特別に派手な部分があるわけではありませんが、

音がそれぞれくっきり迫ってきて何とも気持ちがいい。

やがてソロのスピードが上がってくると中村海斗さんのドラムもブラシから

スティックに持ち替えて快適なビートをたたき出し、

バンド全体にパワーが漲ってきます。

そんな中でも平倉さんからは時に歌いだしたくなるような

軽妙なフレーズが飛び出してきて、

ウィントン・ケリーの影響がこんなところにもあるのかなと思えてきます。

続く若井俊也さんのベース・ソロは音の選び方に意外性があり

こちらも若い奏者の感性を感じます。

最後はピアノとドラムの小節交換。

中村海斗さんは勢いがあるだけでなく、

ドラムをうまく鳴らし音楽全体を包み込むようなスケール感を出しています。

これから日本ジャズを背負う若手の活躍が楽しみになってくる演奏です。

 

④Tears-Ⅰ.Sob

⑤Tears-Ⅱ.Calm

⑥tears-Ⅲ.Breathe

アルバムタイトルになっている「Tears」は3つの楽章から成っており、

これも平倉さんのオリジナルです。

④は静かなピアノによるイントロから低音が響き、

リズムも不穏な性急さを帯びるところから始まります。

そんな危なっかしいところもあるテーマからピアノ・ソロへ。

ここは平倉さんのハードな側面が良く出ていて、

迫りくるリズムにキリッとしたピアノが切り込むように入ります。

後半の鍵盤を打ち付けるような激しさは圧巻。

続く⑤はまずドラムのみ。

重量感のあるドラムで先ほどの興奮が収まったところに

静かなピアノが加わります。

少しづつ歩むピアノを静かなシンバルが包み込み、

ベース・ソロにつながります。

このソロは旋律を感じさせるもので、

適度な流れがありつつ音の選びは①と同様、

なかなか読めないところがある知的なものです。

そしてピアノ・ソロ。

やや悲しみの陰がある音色でありながら後半には力強さが宿り、

どこか「再生」を思わせる展開でもあります。

そして⑥へ。

最初はピアノのみで美しくもどこか前向きなリズムがある

イントロが提示されます。

やがてベースとドラムが加わり、静々としながらも

より力強く進むようなイメージが喚起されます。

ピアノ・ソロはややキース・ジャレットを思わせる

「波打つ」ようなフレーズが顔を出し、

これにリズム陣が柔軟に対応して

エネルギーをまとまったものにしているのが見事。

これをライブで聴けたらもっと迫力が伝わるでしょうね。

 

それにしても、最近の若手が書くオリジナル曲は素晴らしいですね。

③Something for Charles Mingus はスタンダードになりそうな

美しいバラッドです。

 

Spotifyは当初、全てのサービスで無料をねらっていましたが、

レコード会社への支払いを確保するため

個人の「プレイリスト」を作成できる

有料の「プレミアムサービス」を開始しました。

実は私もこのサービスに入会しています。

 

Spotifyによって「いつでも、どこでも、ストレスなく」

音楽を聴けるようになったのはありがたいことです。

でも、ミュージシャンの恩恵が限られていては持続性がない。

ここまで優れたサービスであれば、音楽家にもっと利益が入るようにするか、

気に入った演奏に「投げ銭」をできるようにするなど

何らかの見直しが必要でしょう。

もしそんなサービスがSpotify以外から

新たに出てくれば、

私は喜んで乗り換えると思います。


新年、コロナのために見たドラマから

音楽の将来をあれこれ考えてしまうとは・・・。

今年もどうかよろしくお願いいたします。

 

今年もこのブログにお付き合いいただいたみなさん、

本当にありがとうございます。

 

今回はいつものように世の中の出来事から入るのではなく、

単純な作品紹介をしようと思います。

ことし「出会ってうれしい!」アルバムがあったのです。

 

クリスチャン・マクブライド(b)のトリオによる

「ライブ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード」。

2014年12月のライブを収録した作品で、

発売されたのは2015年ではなかったかと思います。

 

なぜ今ごろになって紹介するかというと、

ことし、中古店で出会ってCDを購入したからです。

サラリーマンゆえに資金が限られている私としては

新作をホイホイと買うわけにはいきません。

これはという作品もグッとこらえて中古市場に出るのを待つわけです。

 

そんな中でことし「音が輝いている」ように聴こえたのがこの作品でした。

宝石的な「キラキラ」があるわけではありません。

とにかく躍動感と音楽を演奏する喜びが溢れているのです。

現代ジャズはどうしても過去と違うことをやろうとして

アレンジに凝ったり、難しいアプローチをしようとしがちです。

本作でも凝った仕掛けはありますが、

クリスチャン・マクブライドの強烈なスイング感に押され

演奏全体に「歌がある」とでも言いましょうか、聴き手も素直に楽しめるのです。

 

これは必ず「聴き直し」をすることになる・・・・

そう思える作品に出会ったときは本当に嬉しいです。

1年の締めくくりにご紹介しましょう。

 

クリスチャン・マクブライド(1972-)は

アメリカ・ペンシルベニア州のフィラデルフィア出身。

1989年にニューヨークに渡り、ジュリアード音楽院で学びます。

そこでサックスのボビー・ワトソンのツアーに参加することになったのが

大きな転機だったようです。

膨大なギグとレコーディングに加わるようになり、

有力なミュージシャンとして注目を集めるようになりました。

現在はトリオ、クインテット、ビッグバンドでリーダーを務めるだけでなく

教育者としても活動しています。

また、ハービー・ハンコック、チック・コリア、パット・メセニー、

ジョシュア・レッドマンといった大物から声をかけられて

数多くのレコーディングに参加しているのはご存じのとおりです。

 

2014年12月12~14日、NYのビレッジ・バンガードでの録音。

 

Christian McBride(b)

Christian Sands(p)

Ulysses Owens,Jr.(ds)

 

①Fried Pies

ギタリスト、ウェス・モンゴメリーのオリジナル曲。

このアルバムのイントロダクションにふさわしい演奏です。

導入部でウェスらしいゴツゴツした手触りのあるテーマが提示されるのですが、

トリオはモード的なアプローチをこの曲に加えました。

ピアノ・ソロに入る前に浮遊感のあるモード的なブリッジが入り、

快調な4ビートが現れると共にソロが始まります。

これが明らかにモードの影響を受けた自由度の高い演奏になっています。

しかも、それが「流れてしまう」のではなく

ハードバップの情熱とモード的なとらえどころのなさが混然一体となった

聴き応えのあるものになっています。

ピアノ・ソロの後半、3分30秒辺りでピアノが自由に飛び跳ね、

そこにリズムが合わせていくスリルが聴きものです。

続いてマクブライドのソロ。ベースをこんなに自在に鳴らせるのかと

感嘆してしまうようなスピードと広い音域を使った「歌のある」演奏。

思わず聴衆が声を上げてしまうのもよく分かります。

これだけ飛び跳ねているのに低音がしっかり響いてくるのはすごい!

そしてユリシーズ・オーウェンズのドラム・ソロ。

非常に音がタイトで、一音一音に説得力がある。

ライブの始まりにこんな演奏が聴けたら、

一気にその世界に入り込んでしまうでしょう。

 

③Interlude

トロンボーン奏者のJ.J.ジョンソンによるオリジナル曲。

この曲はカッコいい!

こちらもモード的な味付けが施され、

ピアノによるテーマはスピードに乗っていながら

どこかエレガンスさえ感じさせます。

最初はピアノ・ソロ。高速リズムに煽られて

ピアノは球を転がすようにめくるめくような

「フレーズつなぎ」を行います。

もの凄いスピード感ですが、注目すべきはベースが前のめり気味に、

しかし恐ろしいほどに正確なビートを刻んでいることです。

ピアノが「低音攻め」で聴衆を興奮に巻き込んでも

リズムが絶対に崩れないのが驚きです。

この後はベースとドラムスのソロ交換。

ベースがドラムに全く負けないというか、

むしろスケール感で勝っているのではないかとさえ思わせる

存在感を示しています。

5~6分台のベースとドラムの応酬ではベースの「技」に

これだけのバリエーションがあるのかと圧倒されます。

 

⑥Cherokee

ジャズマンに古くから親しまれている名曲に新しい息吹を入れたのがすごい。

まず、アレンジが素晴らしい。

最初はベースとドラムのブラッシュワークによる高速のイントロ。

曲名を分かっている聴き手は「いつもの高速で来るな」と思うところですが、

いったんピアノが入ると、何とスローでテーマの提示が。

ん?と思わせたところで、再びベースとドラムが高速で唸り出し、

今度はピアノがスピーディーにテーマを提示します。

この後、「高速~低速」のリズムの流れがソロ部分も通じて続き、

これまでの同曲の解釈とは全く違う世界を作ってくれます。

ものすごい高速フレーズで目が回ると思ったら立ち止まり、

またスピードが上がり・・・まるでジェットコースターのようです。

ピアノのクリスチャン・サンズが「数珠つなぎ」の高速ソロ・フレーズで迫り、

スローなリズムのところでもちょっと勢いが余っているのが面白い。

それに勢いだけではなく、次第に中低音部と高音部をうまく組み合わせて

スケールを増していくような展開をしているのが素晴らしい。

続いてベースとドラムとのソロ交換。

最初はマクブライドがテーマを引用するなど少し余裕も見せます。

すると、オーウェンズがブラシで応酬し、まだ少し柔らかい交換です。

5分台半ばからマクブライドが溢れるようなフレーズで躍動感を増すと

オーウェンズもタムで鋭く応答します。

6分過ぎから7分台のマクブライドのソロは

リズム感がありながら内容にギター的な旋律を感じさせるものがあり、

まさに彼の「歌」になっていると思います。

特に最後のマクブライドのソロはウォ―キング・ベースで激しく迫ってくるので

一瞬バッキングに入ったのかと思うのですが、

リズムの強靭さで聴かせる超絶的なソロだと分かります。

ここでトリオの演奏全体に火が付き、

ドラム・ソロを経て終盤のテーマへと一気に流れ込んでいきます。

ふう、目が回る。

 

2014年の年末に行われたライブを聴くと、

当時のライブがいかに「密」で熱気のあるものだったかが分かります。

 

日本で新型コロナウイルスの感染が確認されてからもうすぐ3年。

このアルバムが胸に迫ってきたのは、

当時の熱気が「懐かしい」ものではなく

今では「新しい」とすら感じられたからかもしれません。

 

コロナが「普通の感染症」として残っていくという方向性が見えていますが、

そんな時代の「幸福観」はまだ掴めていません。

意外に長く続く感染症の時代に私たちはどんな生き方をするのか。

「熱狂的なライブ」が「歴史」になってしまわないことを願います。

 

来年もよろしくお願いいたします。