You Should Have Told Me/エレン・アンダーソン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

この1週間を振り返ると「ポーランドにロシア製のミサイル落下」という

15日(火)のニュースには本当に驚きました。

 

ミサイルがロシアから発射されたものならば、

NATO(北大西洋条約機構)の加盟国であるポーランドへの攻撃となる。

加盟国が攻撃を受ければ、「全加盟国に対する攻撃とみなして」

反撃するという集団的自衛権が北大西洋条約に明記されているので、

「NATO対ロシア」という戦争に発展する可能性があったのです。

もちろん、ミサイル一発でただちに集団的自衛権が発動されるとは限りませんが

第3次世界大戦になりかねない要素を持つ情報ではあったわけです。

 

その後、NATOの事務総長が「ウクライナ軍の迎撃ミサイルだった可能性がある」と指摘、

アメリカのバイデン大統領も「軌道から考えると、ロシアから発射されたとは考えにくい」

と述べて、緊張緩和が一気に進みました。

 

これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は

「我々のミサイルではない」と否定し、いまだにその見解を変えていません。

本当にウクライナからのミサイルであったなら、

ゼレンスキー大統領はポーランドにできるだけ早く謝らねばなりません。

NATOも「これはウクライナの責任ではなく不法な戦争を続けるロシアが責任を負っている」

と言っており、責める姿勢は見せていないのですから尚更です。

 

ゼレンスキー大統領には自分の非を認められない何らかの事情があるのでしょうが、

過ちは早く正した方がいい。

そうでないと、ウクライナを支援している国々が離れていくことにもなりかねません。

今回の事態がこの戦争をさらに混迷させることがないようにと願います。

 

「あなたは私に言うべきだった」ー今回はそんな歌詞のある曲を聴いてみましょう。

エレン・アンダーソン(vo)の「You Should Have Told Me」です。

 

エレン・アンダーソンは1991年スウェーデン生まれのヴォーカリスト。

取り上げる歌はスタンダードが多いのですが、

スタイルは非常に現代的で4ビートにこだわっているわけでもないようです。

このアルバムでは透明感を纏ったアンダーソンの声に

タイトなリズムと辛口のトランペット・ソロなどが入り

聴き応えのある内容となっています。

 

タイトル曲の「You Should Have Told Me」はドリス・デイが1946年に取り上げたナンバー。

そんな古い曲が見事に現代に甦っています。

 

2019年6月、Nilento Studios(スウェーデンのようです)での録音。

 

Ellen Andersson(vo)

Joel Lyssarides(p)

Anton Forsberg(g)

Niklas Fernqvist(b)

Johan Lofcrantz Ramsay(ds)

Peter Asplund(tp)

 

このメンバーに、いくつかの曲で弦楽4重奏が加わっています。

 

①You Should Have Told Me

ドリス・デイが取り上げた時はビッグ・バンドをバックに

「別の人を愛しているなら 私に言うべきだった」という歌詞が

しっとりと歌われていました。

それが、アンダーソンはやや不穏なピアノによるコードと

現代的なビートを取り入れたアレンジで全く異なる曲にしてしまいました。

女性が一歩引いて「言ってくれても良かったのに・・・」というドリス・デイの時代から

男女対等の立場で「どうして言わないの」とアンダーソンは迫って来るかのようです。

こう書くと「恐い」と思う方もいるかもしれませんが、演奏自体は非常にカッコよい。

ピアノのコードに導かれてアンダーソンが歌うと、バックのリズムが絶妙にチェンジし

程良い緊張感をもたらしてくれます。

そして、ヴォーカルがワン・コーラス終わるとすかさずトランペット・ソロが入り

一気に雰囲気がジャズになっていく。

最初はモーダルですが4ビートに切り替わって熱気が高まったところで

アンダーソンのスキャットとトランペットによる掛け合いに。

これがスリルのある展開で素晴らしい。

トランペットのフレーズに反応して声量を生かした素晴らしいソロが披露されます。

こういうカッコいい聴かせ方があるから現代ジャズも好きなんですよね。

アンダーソンは「歌」を聴かせることもできるし、

声を楽器的に使って音楽を引っ張るパワーも持っている。

これは「本当のことを言っている」音楽です。

 

⑧Blackbird

おなじみのビートルズ・ナンバーです。

これはアンダーソンの透明感がありつつ柔らかい歌声が素晴らしい上に、

3音符で変則リズムを刻み続けることでグルーブを生むベースと

要所で入って絶妙なアクセントをつけるギターとピアノもいい。

シンプルな編成ゆえにこの曲が持つ「闇の中の飛翔」というイメージが喚起されて

思わぬ拾い物をしたような嬉しさがある曲です。

途中で入る「手拍子」(?)も素朴さを生む効果があり好きです。

 

この他にも良い曲が多く、

③You've Got a Friend in Me でのドラムとの掛け合いに見られるユーモア、

⑤Too Young でのアンダーソンの独唱からギター・トリオをバックにしての温かいスキャット、

⑦’Deed I Do での強力なスイング感など、色々楽しめます。

 

きょう、ミサイルの問題でウクライナの専門家が現地の調査に参加するために

ポーランドに到着したそうですね。

 

今回の件では、これ以上の大きな戦争は望んでいないというアメリカの姿勢も見えてきました。

そうであるならば、周辺国も含め甚大な被害がこれ以上出ないように

何とか戦争を終わらせる方向に向かわなくてはいけません。

そのためにも、せめてウクライナには正直であって欲しいです。