ヒューブリス/リッチー・バイラーク | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

いやはや、大変暑いです。

 

きのう(27日)、気象庁が関東甲信、東海、九州南部で

「梅雨明けしたとみられる」と発表。

本日は九州北部と四国、中国地方、近畿、北陸で同様の発表となり、

いずれもこのまま確定すれば統計を取り始めた昭和26年以降、

過去最も早い梅雨明けとなるそうです。

 

実は私、デスクワークで身体が凝り固まってしょうがないので、

けさ「朝ラン」をしてみました。

「朝早くなら大丈夫かな」と思ったのですが

7時台には気温がぐんぐん上がってくるのが分かり、

終るころには汗びっしょり。ぐったりしました。

 

昼も少し屋外に出てみたのですが、

あっという間に汗だくになり「危険な暑さ」を感じました。

東京の都心では午後1時過ぎに35.1度を観測し、

6月としては初めて4日連続で猛暑日となったとか。

マスクを外して歩く人も一気に増えました。

 

厳しい暑さが続いている影響で、「電力需給ひっ迫注意報」まで出ている状況。

こうなると冷房を強くして、というのとは違う「涼み方」が必要です。

そこで取り出したのがリッチー・バイラーク(p)の「ヒューブリス」。

 

リッチー・バイラーク(1947ー)はニューヨークのブルックリン生まれ。

5歳の時にピアノを習い始め、まずクラシックからスタートしました。

13歳の時にマイルス・デイヴィスのアルバム「マイルストーンズ」収録の

「ビリー・ボーイ」でレッド・ガーランドのピアノに触れます。

「これこそ自分が探していたものだ」と感じたバイラークはジャズを志すようになります。

その後、バークリー音楽院を経てスタン・ゲッツ(ts)のレギュラー・メンバーとして活躍、

さらにデイヴ・リーブマン(ss)といった人と前衛色のある演奏も行いました。

 

そんなバイラークが1977年に初めてピアノ・ソロで

レコーディングしたのが「ヒューブリス」。

ECMという独特の透明感があるレーベルのため、

ここでのバイラークはクラシックの素養を感じさせる澄んだ響きを聴かせてくれます。

特に1曲目の「Sunday Song」はまさに週末の朝にぴったりの

落ち着きながらも清々しい曲で、聴いているだけで涼しくなってきます。

 

1977年、ドイツのルートヴィヒスブルクでの録音。全曲、バイラークのオリジナルです。

 

Richard Beirach(p)

 

①Sunday Song

このアルバム全体を象徴する1曲。

冒頭、淡々と提示されるリズムに被さるように

澄んだ高音によってテーマが提示される展開が、静かではありますがハッとさせられます。

音楽だけ聴いているとジャズピアニストとは分からないほど

音の響きがしっかりしており、遠くまで届くような強さが秘められています。

ジャケット写真もこの曲のために用意したのではないかと思えるくらい

北欧にあるような冷たい空気と水辺のようなイメージが広がっていく。

ゆったりとしたリズムのもと、緊張感を保ちながら進行する中で

ソロに入ってから2つのドラマが待っています。

一つは2分50秒くらいから鋭く入るクリアな高音の連なり。

しかし、この時は「これ見よがし」に長く続くことはなく、

音数もそれほど多くないままにサッとまとめられていきます。

ここから少しテンポが上がり、3分40秒ほどから第2のドラマである

「煌めく高音のシャワー」へとつながります。

静かな朝、まだ覚醒しきっていないうちに弱い太陽の光を浴びたような印象を与える、

美しい曲です。

 

⑥Hubris

「ヒューブリス」というのは「過剰な自信、尊大さ」を意味する

ギリシャ語由来の言葉なのですね。

曲から「尊大さ」を感じることはありませんが、

アルバムの中でもピリッとした緊張感があるのはタイトルと関係があるのでしょうか。

物憂いリズムを背景に、バイラークの右手が透徹したとでも言えばいいのか、

「混じり気のない」音色を響かせます。

ソロに入ると①よりは陰影のある音で内省的な展開に。

はかなく過ぎていくものの悲しさを描いているようにも聴こえ、

これは「野心の果て」をイメージしているのかもしれません。

 

この他、柔らかいタッチが聴ける⑤Future Memory もどこか夢見心地で良いです。

 

この暑さで特に午後3時から6時までは電力需給が厳しいと言われています。

まずは冷房を弱めにして扇風機と併用。

需給が厳しい時間帯を外して、音楽で涼んでみるとしましょう。

本当は企業を含めた社会全体のスローダウンに加え

コロナ禍で盛んに叫ばれた分散をしないと

猛暑の東京は到底乗り切れないような気がしますが・・・。