フォー・ザ・モーメント/バリー・ハリス | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

ビ・バップの精神を現代に伝え続けてきたピアニスト、バリー・ハリスが12月8日に亡くなりました。

91歳ですから大往生と言えるのでしょうが、

新型コロナウイルスによる合併症が死因と報じられています。

改めて、このウイルスの感染拡大は人類に大きな損失をもたらしていると思わざるを得ません。

 

私はバリー・ハリスに心酔していた札幌のジャズ・ピアニスト、

福居良さん(1948-2016)とのご縁でバリーさんのライブを3回に渡って聴くことができました。

福居さんがバリーさんの音楽にのめり込み、来日した際に個人的な関係を作った後、

札幌まで招聘してしまったのです。

 

最初は確か2005年。福居さんのお店「スローボート」でした。

狭い店内に人がすし詰め状態の中、バリーさんは76歳とは思えない元気さで

自らのトリオを率いて見事な演奏を聴かせてくれました。

サインにも気軽に応じてくれて感激したのを覚えています。

 

次は2012年で、この時は福居良さんとのユニットコンサートでした。

この時のことは拙ブログに記しています。

 

ライブ・イン・レンヌ/バリー・ハリス | スロウ・ボートのジャズ日誌 (ameblo.jp)

 

改めて読むと、バリーさんのブルージーな「音」がいかに確信に満ちているかが分かります。

これこそがジャズの醍醐味と私が思うもので、その人にしか出せない「音」に触れた時に

大きく心を動かされることになります。

バリーさんの音楽にはビバップの草創期を知るものならではの

「根源に迫っている」響きがありました。

 

そして3度目は東京で行われた福居良さんの追悼ライブでした。

2016年6月5日の新宿SOMEDAY、既にバリーさんは80代後半で

ステージに上る時には足取りが4年前よりさらに危なっかしい状態でしたが

演奏はしっかりしていました。

私のメモには「ウン・ポコ・ロコ」「神の子はみな踊る」など10曲以上を演奏したとあり、

集中力が最後まで途切れなかったのを覚えています。

 

この時、ドラムスを担当していた江藤良人さんに聞いたのですが

事前のリハーサルが一切ないまま演奏に突入したそうです。

私が聴いたライブは前日の大阪に次ぐ2日目だったのでまだ落ち着けたそうですが、

初日はドキドキだったとのこと。

 

何の曲かも打ち合わせないまま演奏するというのは素人には想像もつかないですが、

そこは「これぐらい知っているだろう」という巨匠らしい態度と

必死についていった若いミュージシャンの真剣勝負があったのでしょう。

 

今回は追悼ということでバリーさんのアルバムを1枚ご紹介しましょう。

1984年のライブ盤「フォー・ザ・モーメント」です。

 

数々の名作を残しているバリーさんだけに1枚に絞るのは難しいのですが、

3回のライブに接することができた自分としては、

生の演奏で力強さを発揮していたバリーさんの一端をお伝えしたいと思います。

 

1984年3月2日、ニューヨークのジャズ・カルチュアル・シアターでのライブ録音。

 

Barry Harris(p)

Rufus Reid(b)

Leroy Williams(ds)

 

②My Heart Stood Still

ロジャース~ハートの有名スタンダード。

まず、バリーさんによるピアノのみの美しいイントロで始まります。

そこからメロディをトリオで提示しますが、

ここで「黒光りした」強力な強い音を織り交ぜるのに驚きます。

かなり強いタッチでもう少しで音が濁りかねないのですが、

その一歩手前でバランスを保っている。

面白いのは続くピアノ・ソロでも強力なタッチが随所で顔を出すところです。

それも通常のフレージングとは違う、かなり意外性がある音の組み立てで迫ってくる。

ビバップの典型的なフォーマットを取りながら、独自の音と挑戦を継続している

バリーさんの一面を聴くことができる曲です。

 

⑦Monk Medley   Reflections~Light Blue~Well, You Needn't~Rhythm-a-ning

セロニアス・モンクの曲をメドレーでつないでいます。

ここもバリーさんの「音」をとことん楽しむべきでしょう。

まずピアノのみで「リフレクションズ」のメロディが弾かれます。

スローでゆったりと、しかし音の置き方にちょっと独特の間があり

メロディを崩してはいないのにバリーさんの解釈が感じられるところが面白い。

やや儚さすらある訥々とした音で、そのまま「Light Blue」に入ります。

ここまでは非常にしっとりしているのですが、

メロディの提示が終わったところで「ポーン」という音と共に一気に場面転換がなされます。

低音によって「Well, You Needn't」のコードが提示され、途端に雰囲気が不穏となるのです。

ちょっと怖い夢が迫ってくるような・・・この音の表情変化の見事なこと!

そして、いったんテンポを落として今度はコードを変則的に提示しながら

最後は静かにピアノ・ソロが終えられる流れも独特です。

一転、今度はベースとドラムスが加わりアップテンポで「リズマニング」へ。

急速調でバリーさんも不協和音っぽい音の組み立てを交えつつ

最もモンクに近い演奏をしているようです。

最終盤、ベースに呼応するようにブルージーなフレーズを連発するところは

テンポに負けずに一音一音の粒立ちがしっかりしていて唸らされます。

バリーさんのビバップ・イディオムに即した「音の万華鏡」を体感しているかのようです。

 

この他、バリーさんオリジナルのバラッド⑪Looking Glass で美しく落ち着いた響きを聴くことができます。

 

バリーさんは晩年、ニューヨークで毎週ワークショップを開いて後進の育成にあたりました。

理論的な面での指導もあったようですが、スキャットで提示したフレーズを生徒に弾かせるといった

「口述指導」もあったようです。

Barry Harris Workshop (tripod.com)

 

「音」を持っている巨匠は「音楽の本質」を後輩たちに伝えていこうとしていたのではないか。

ジャズ・ジャイアントの死を悼みたいと思います。合掌。