プレイズ・コルトレーン/片倉真由子 | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

明日は衆議院選挙の投票日。

今回はコロナ禍を経ての選挙ということで重要な選択の場になるはずですが、

盛り上がりはいま一つのように思えます。

 

NHKが今月22日から3日間行った世論調査では

投票に「必ず行く」と「期日前投票をした」という回答を合わせると61%。

これは、投票率が53.68%だった4年前の衆議院選挙の

同時期の調査と比べると同じ割合だそうです。

これぐらいの投票率ではコロナ対応で与党が議席を減らしたとしても

政権交代のような劇的な変化は期待できないでしょう。

 

盛り上がらない理由の一つに「女性候補の少なさ」があると思います。

立候補した人のうち女性は小選挙区で141人、比例代表単独では45人の合計186人。

全体の17.7%に過ぎません。

こちらも4年前の衆院選と同じ割合だそうです。

 

コロナ禍による生活への影響、「#MeToo」運動で取り上げられた女性の人権抑圧やジェンダーギャップ、

選択的夫婦別姓、地球温暖化対策など女性の視点が生きる課題が目白押しなのに

この状況は寂しい。

 

「家業」として立候補している「世襲政治家」や

既得権にしがみついているようなオッサン候補者の顔ぶれを見ていると

50代のオッサンである私も元気が出ない。

本来であれば政党(特に野党)が女性候補者の擁立に力を入れて

ムーブメントを起こすべきタイミングなのに、その視点が欠けているのではないでしょうか。

 

一方、ジャズ界ではこのところ女性プレーヤーの活躍が目覚ましい。

ということで、いまや日本を代表するジャズ・ピアニスト

片倉真由子さんの「プレイズ・コルトレーン」を聴いてみましょう。

 

片倉さんは1980年生まれ。仙台市の出身で幼少の頃よりクラシック・ピアノを学び

洗足学園短期大学に入学してジャズ・ピアノに転向します。

2002年にバークリー音楽大学に入学、アメリカでの活動を開始し

2005年にはジュリアード音楽院に入学してケニー・バロン(p)に師事。

2006年9月にセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・ピアノ・コンペティションで

セミ・ファイナリストに選ばれたことで知名度が高まりました。

現在は自己のトリオの他に数々のグループのメンバーとして活動しています。

 

片倉さんはマッコイ・タイナー(p)の影響を受けていることや

クラシックに裏打ちされた確かなテクニックのために「音が迫ってくる」演奏が持ち味だと思います。

この作品ではそれに加え、ベースとドラムとの間合いが強く感じられ、

3者によるコラボレーションが高いレベルに達しているのが特徴です。

ジョン・コルトレーン(ts)曲集というのは近年、意欲作を出し続けているレーベル・Days of Delightの

プロデューサー・平野暁臣さんのアイデアだそうですが、

管楽器がないにも関わらずコルトレーンの世界を新たな切り口で描いた作品が生まれました。

 

2020年2月12日~14日、福岡県うきは市白壁ホールでの録音。

 

片倉真由子(p)

粟谷巧(b)

田中徳崇(ds)

 

②Theme for Ernie

コルトレーンがアルバム「ソウルトレーン」で取り上げていた曲。

フランク・レイシ―の作曲です。

ここでは片倉さんが美しいバラッドを披露してくれますが、

何より強烈な印象を残すのは「音色」です。

凛としていながら、ややまろやかさがあると言いますか・・・。

冒頭からストレートにテーマが演奏され、

展開に奇をてらったところは全くないのに

説得力のある音が続くためにどんどん引き込まれていきます。

テーマの延長上でゆったりとしたテンポの中、ピアノ・ソロへ。

一音一音を慎重に置いていくかのような演奏で、

ドライブ感が持ち味の片倉さんが新境地を開いた感があります。

特に4分~5分にかけてのソロは切なさが満載でたまりません。

この「ゆったり感」を支えるのが粟谷巧さんのどっしりとしたベースと

田中さんの繊細なブラッシュ・ワーク。

特に粟谷さんは重たいのにスイングするベースに凄みがあり

このトリオのグルーブの原動力となっています。

 

⑦Love

コルトレーンの「First Meditations」に入っているコルトレーンの曲。

正直、私は知りませんでした。

スピリチュアルな時代のコルトレーンからの選曲ですが、これが美しい。

片倉さんの静謐な表情のあるソロ・ピアノがそろそろと入り、

そこにリズム陣が加わると祈りが込められたかのような広がりのある

旋律が放たれます。

コルトレーンの精神世界と現代的な感覚がミックスした独特との世界が始まります。

抽象性のあるピアノ・ソロにリズム隊が柔軟に寄り添い

フリーではないが解放感のある演奏となります。

これはジャズという狭い世界に止まらない音楽だと思います。

 

今回はスローな曲を紹介してしまいましたが、

スインギーなピアノが炸裂する④Resolution ⑤Bessie's Blues なども聴きものです。

片倉さんは間違いなく、これからのジャズ界をグイグイ引っ張ってくれることでしょう。

 

日本の政治も新しいアクターが欲しい。

女性や若い世代の意見を取り入れていくにはお金がかかる選挙のありようと

政界の古い価値を揺さぶり続けるしかありません。

一気には変えられないだけに、少しでもましな選択肢を探して投票しましょう。