日本の印象/デイヴ・ブルーベック | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

東京オリンピックの開会式がきょうの夜、行われます。

 

直前までバタバタが続いているオリンピックではあります。

最近だけで開会式の作曲担当者の1人だった小山田圭吾氏の辞任、

開会式と閉会式のショーディレクターを務めていた小林賢太郎氏の解任が相次ぎました。

 

ここまで来て改めて思ったのは、

オリンピックとは「腐っても鯛」と言うべきイベントなのだということです。

オリンピック自体は金儲けが優先され、腐敗の匂いが満載であるということが

延期以来の状況から明らかになってきました。

 

一方で、最近の辞任劇などを見ていると、腐ったイベントであっても

最低限は守らなければいけない一線があることも見えてきました。

差別や暴力に対して緩い認識を持つことは許されず、

ましてや主催者側がそうした行為を放置してはいけない。

これはオリンピックというものが長い間培ってきた「理念」というものが

かろうじて生きていることを示しています。

 

そんな「鯛」の側面があるイベントを、少なくとも政府は

かなり甘く見ていたのではないでしょうか。

新型コロナウイルスで異例の事態が続いたとはいえ、

「急ごしらえ」でも何とかなる、参加してくれる人材はいくらでもいる。

いろいろ大変だが、突っ走ろう・・・。

 

しかし、「鯛」のイベントであるからには、やはりそれなりの準備が必要だったのです。

まず、「何のためにやるのか」理念をはっきりさせ、

開会式ではそれに見合うメッセージと、伝えるべき人材を慎重に選ぶようにすべきでした。

そうでなければ選手たちも「単なる国際運動会」の域を出ないと感じるでしょう。

 

「急ごしらえ」で進む五輪を横目で見つつ、

今回は「時間の積み重ね」が光るグループの演奏を聴いてみましょう。

デイヴ・ブルーベック(p)カルテットの「日本の印象」です。

 

デイヴ・ブルーベック(1920-2012)を世に知らしめたのは

1951年に結成され、1968年まで続いたポール・デスモンド(as)とのカルテットでしょう。

ドラムとベースは変わってきましたが、ブルーベックとデスモンドは17年間の長きにわたり

タッグを組んで多くの名作を残しました。

ジャズ・ファン以外にも知られる「テイク・ファイブ」はその好例でしょう。

 

私見では、カルテットの中で最も勢いがあったのは

ベースにジーン・ライト、ドラムにジョー・モレロを迎えた1958年から1968年だと思います。

複雑なリズムへの対応力を持つライト、強力なスイング感があるモレロがいることで、

ゴリっとしたブルーベックのピアノと繊細なデスモンドの音色がより輝きました。

 

このメンバーになってから6年を経た1964年5月、カルテットは日本公演を行っています。

その時にインスパイアされた内容をまとめたのが「日本の印象」です。

当時、日本は「1964年東京オリンピック」を5か月後に控えていました。

 

高度成長の中で東京は活気と混乱に溢れていたのでしょう。

ブルーベックはこの時の強烈な印象を公演翌月に

アメリカでレコーディングしています。

描かれているのは喧騒と、オリエンタルな雰囲気の同居といったところでしょうか。

中には複雑なリズムなど難しい題材もあるのですが、

そこはカルテットが時間をかけて培った一体感で見事な演奏を披露しています。

 

1964年6月16日と17日、NYでの録音。

⑤のみ1960年1月、NYでの録音。

 

Dave Brubeck(p)

Paul Desmond(as)

Gene Wright(b)

Joe Morello(ds)

 

①Tokyo Traffic

ブルーベックの作曲。

オリジナルのライナー・ノートにブルーベック自身が書いています。

「東京の交通はNYのラッシュ・アワー映像を高速化したようだ」

これがブルーベックの来日最初の強い印象だったようです。

何と、来日翌日の公演までにはこの曲を書き上げて披露、好評を得ました。

メロディでは「ジャーン」という銅鑼の音が入っていたりで、やや中国風(?)です。

大丈夫か?と思いますが、聴きものはここから。

初めのソロはデスモンドで、急速調のリズムに乗って鋭角的なソロを取っていきます。

デスモンドにこれほどの切れ味があったのか!と思わせる快演で

彼の意外な側面を知ることができます。

続いてブルーベックのソロ。彼らしいゴツゴツとした中低音を生かした演奏です。

彼が受けた日本の印象の中に、伝統の重みと開発の喧騒があったのでしょうか、

軽い方向に向かっていないのが興味深いです。

その後はライトの野太いソロ、モレロとブルーベックの4小節交換で

このグループのメンバー全員の名人芸と、

まとまりを堪能することができるトラックになっています。

 

②Rising Sun

こちらもブルーベックの作曲。

ライナー・ノートによればブルーベックが日本で初めて見た日の出の印象を

描いたものだそうです。

ホテルには日本庭園があり、その向こうに高層ビル群が広がっていたそうで

ブルーベックはホテルの窓からそこに差し込む日光を眺めることができました。

詩的なバラッドはピアノのメロディで始まります。

静寂を感じる始まりは、穏やかな日本庭園に差し込む日光をイメージしているのでしょうか。

最初のソロはデスモンド。

ここは彼らしいリリカルな持ち味が光っており、

淡々としながらも緊張感を絶やさない演奏が素晴らしい。

続くブルーベックも音数を絞り込み、ひたすら静かな世界を描いていきます。

そんな中にわずかではありますが後半に低音を織り交ぜて

深みを与えているところもさすがです。

 

他にもロック調のリズムを取り入れた③Toki's Theme などは

このカルテットの幅広さと達者さを知る上でいい演奏となっています。

現代性を感じる内容なのに、ジャケットは失敗しているかな・・・。

 

さて、オリンピックの開会式が迫ってきました。

「腐っても鯛」であるオリンピックで、日本はどんなメッセージを込めるのか。

トラブルに翻弄された現場の方々には心より同情しつつ、

細かな演出よりも「何を伝えようとしているのか」だけは見届けようと思っています。