Promises Kept/スティーブ・キューン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

本日で大型連休は終わり。

ニュースを見ていると、緊急事態宣言下の人出は

「複雑な心のありよう」を示したものになっているようです。

 

きょうのJR新大阪駅では例年のような混雑は見られず、

始発から午前10時までに同駅を発車した新幹線の自由席の乗車率は

最高でも上りで30%、下りでは20%で空席が目立ったとのこと。

 

羽田空港は例年のような混雑はないものの、

緊急事態宣言が全国に出されていた去年と比べると多くの人出がありました。

航空各社によると大型連休中の空の便の予約状況は

去年の数倍だということです。

 

都内でも携帯電話の位置情報を使った分析で

1回目の緊急事態宣言期間と比べると日中・夜間共に

人出が増加しているという報道が出ています。

渋谷スクランブル交差点では土日祝日の平均が夜間は4倍(!)となっています。

 

 

簡単にまとめてはいけないのでしょうが、感覚としては

「できるだけ我慢して出かけないけど、状況によっては外出しよう」

という方が多かったのではないでしょうか。

 

私自身はふるさと・北海道への帰省を泣く泣く諦めました。

結果的には札幌市が今日、まん延防止等重点措置の適用を政府に要請するということで

「感染拡大につながる行動をしなくて良かった」とホッとしつつ、

「じゃあ、いつになったら親の顔を見られるの?」という思いがあります。

 

私のように緊急の案件がない場合でも鬱積したものを抱えているのですから、

切迫した用事があったり、小さなお子さんがいる家庭などは本当に大変だったことでしょう。

「とりあえず、感染対策をして出かけちゃおうか」という人を責める気分にはなれません。

 

多くの人が出かける背景には「緊急事態宣言が必ず延長される」という見通しもあると思います。

感染者の増加傾向が続いているため、今月11日に期限が迫っている宣言が

解除されることは不可能だからです。

 

緊急事態宣言の期間が情勢により絶対的なものでないことは

これまでの経験から痛いほど分かっています。

しかし、何度もズルズルと延長されると、

「どうせまた続くんでしょ」という気分になり、自粛要請に従いにくくなります。

 

「守られない約束」に振り回される私たち・・・。

いつになったらこの状況から解放されるのか、本当に気が遠くなります。

 

今回は「守られた約束」というタイトルがある作品を聴いてみましょう。

スティーブ・キューン(p)の「Promises Kept」です。

 

スティーブ・キューン(1983-)はニューヨーク生まれで、現在83歳。

子供の頃、ピアノをバリトン・サックス奏者であるサージ・チャロフの母、

マーガレット・チャロフに教わったということです。

そこで教えられたのが「ロシア・スタイル」のピアノだったということで、

キューンの透徹した音色や印象的な左手の使い方はその影響なのかと想像してしまいます。

 

ハーバード大学を卒業後(!)、多くのジャズ・ジャイアントとの共演を経て

リーダーとなったキューンですが、その作品はほとんどがピアノ・トリオでした。

それが2000年に制作した「Promises Kept」では

ストリングスとの組み合わせという意外な編成に臨みました。

 

これがキューンらしい知的で、甘さに流されないアプローチとなっています。

彼としては念願の編成だったということですが、

そんな高揚感は抑え込んで耽美的な、それでいて緊張感のある

独特の世界を描き出しています。

 

2020年6月と9月、ニューヨークでの録音。

 

Steve Kuhn(p)

Carlos Franzetti(conductor)

David Finck(b)

 

これにバイオリン、ビオラ、チェロで15人の弦楽奏者が加わっています。

 

③Trance

キューンのオリジナル曲。

ストリングスのみによるイントロはやや妖しい雰囲気を漂わせます。

そこに、キューンが耽美的なメロディを奏でながら入ってきます。

ストリングスがバックで静かな波のように寄り添う中、

キューンは磨き抜かれた音の世界に沈み込んでいくような演奏をします。

まず前半のソロ。音数は少なく、かといってスペースが空くほどの間を与えず、

宝石をちりばめていくかのような静かなソロを展開します。

ここでストリングスと共にブリッジが入り、少しだけ演奏に躍動感が増します。

しかし、勢いに流されることはなく、禁欲的な姿勢は保ったままなのがキューンらしい。

やがてメロディからキューンのソロが再び提示されますが、

ストリングスがベースとなっているおかげで、

ピアノは存分に自分の世界に没入しているように聴こえます。

 

⑤Promises Kept

こちらもキューンのオリジナル曲。

穏やかな表情があるメロディで、ピアノに導かれていくと

何かいいことがありそうな予感がします。

ストリングスがゆったりと寄り添うのですが、

スローな曲ながら甘さに流されないアレンジが見事。

まずキューンのソロ。

ゆったりとしたワルツを弾いているかのような展開で、

音色はキリッとしながらも幸福感に満ちているような印象を受けます。

牧歌的なストリングスの間奏が入りますが、

ここでも長すぎない演奏がいいバランス。

やがてピアノと共に静かに終わってきますが、

エンディングに近いところでキューンが鋭い連打を

さりげなく入れてくるところがピリッとした味付けとなりグッド。

こんな風に「穏やかに、しっかりと守られた約束」があるといいでしょうね。

 

連休の期間中はPCR検査の数が少ないでしょうから、

平日に入ったところで感染者数が急激に伸びる可能性があります。

そしてまた緊急事態宣言が延長され、人々がこの状態に飽きて出かけてしまう・・・。

これ、本当に悪循環です。

 

そして、いまの政府が罪深いのは

明確な解除の基準もないまま「守れない約束」を繰り返すことで

国民の分断を着実に増やしていることです。

「出かけた者」と「出かけなかった者」、「出かけて感染した者」と「医療従事者」、

「五輪アスリート」と「不自由さを強いられている国民」・・・・。

そのバリエーションはどんどん増えています。

 

せめて自粛の呼びかけを同じように繰り返したり、

緊急事態法制で国民を脅すばかりではなく、

「本気の約束」にするための手段を尽くすことが必要です。

本当に、そこだけは求めていきたいです。