レミニセンス/山中千尋 | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

週末、熊本県を集中豪雨が襲って大変なことになったと思ったら、

こんどは九州北部です。

 

気象庁は福岡県と佐賀県、長崎県のいずれも複数の市や町に

きょう大雨の特別警報を発表しました。

5段階の警戒レベルのうち最も高い「レベル5」にあたる情報で

最大級の警戒が必要だと呼びかけています。

 

そもそも大雨の特別警報は、土砂災害や浸水など

重大な災害が発生している危険性が極めて高いときに発表されます。

数十年に一度しかないようなかなりの緊急事態であることを示すものですが、

3年前からは毎年、発表されています。

それだけ地球が温暖化し、「線状降水帯」ができやすくなったということなのでしょう。

 

気になったのは気象庁の会見やマスメディアで行われている「避難の呼びかけ」です。

特別警報が出た地域の方々に向け、「少しでも命が助かる可能性が高い行動をとってください」とし、

自治体が避難指示などを発表する前であっても、安全な場所に避難する必要があるとしています。

その一方で、川が氾濫していたりすると外に出ることが危険だとして、

状況によっては無理に避難しないで建物の2階以上に上がるなど、

「自分の判断」で安全を確保するように求めているのです。

 

「自己判断」で、と言われると冷たい響きもありますが、

それだけいまの大雨はものすごいスピードで迫ってきているということなのでしょう。

もはや行政や自治会の指示待ちでは安全を確保できないという

非常に困難な事態が毎年のように起こるということです。

 

かつて梅雨時の雨と言えば「長く、シトシト」降るイメージがありましたが、

これほど凶暴な存在になってしまうとは・・・。

自然に翻弄されるのが人間の常とはいえ

毎年、泥水と土砂に襲われる家屋の映像を見るのは本当に辛くなります。

 

雨が脅威ではなく、心を癒したりするものであった頃が懐かしい・・・

今回はそんな思いから、ある曲を聴いてみましょう。

山中千尋さん(p)の「レミニセンス」に収録されている「Rain, Rain, And Rain」です。

 

山中千尋さんはコンスタントに意欲作を発表し続けていますが、

この作品は音楽活動10周年にあたる2011年に発表されたもの。

幅広い音楽を消化している山中さんだけにジャズマンだけでなく

バート・バカラックやキャロル・キング、ショーン・レノン、マルコス・ヴァーリといった

人たちの曲も取り上げています。

それぞれが見事なアレンジで、チャーミングでありながら

パワーもある「山中ワールド」に染まっています。

 

しかし、このアルバムで1曲だけを選ぶことを迫られたら、

私は冒頭の「Rain, Rain, And Rain」にします。

山中さんの個性として、「どこか懐かしさを感じさせるお茶目さ」があり、

それがよく出ている曲だからです。

 

2011年6月27日、NYでの録音。

 

山中千尋(p, Fender Rhodes, organ)

Yoshi Waki(b)

John Davis(ds)

 

なお、6曲目と8曲目には Larry Grenadier(b)、Bernard Purdie(ds)が参加しています。

 

①Rain, Rain, And Rain

「雨に心躍る子ども」の心情を描いたのではないかと思えるような

バウンド感と懐かしさが入り混じった曲。

山中さんのオリジナルです。

ドラムが刻む「タッタッタッ・・・」という単調なリズムに対して

ピアノがややソウルフルでシンプルなメロディを「揺れながら」投じてくると

「シトシト雨の中、水たまりをよけて跳ね回る子どもの高揚感」が

(少なくとも私には)伝わってきます。

メロディの後、ピアノ・ソロになるのですが、

その際にベース・ドラムが抜けてピアノがラグタイム調で軽快に響き、

続いてリズムと共に勢いを増す展開が素晴らしい。

こうなると山中さんは止まらず、縦横無尽・転がるかのように

広い音階を使ってピアノを「鳴らしきって」います。

それが力任せにならず、きれいな音になっているところは

クラシックの素養を感じさせ、さすがです。

再びメロディに戻ってからは簡単に終わらせずに

ドラムとのかけあいになるところも「子供の遊び」(?)のようで面白いです。

 

今回の九州の雨が大きな被害に至らないことを祈ります。

それにしても「数十年に一度」のはずの緊急事態をもたらす大雨を

本来の周期に戻し、「シトシトした平和な雨」の風景を取り戻すにはどうしたらいいのか。

温暖化に自分も明らかに加担しているだけにきれいごとは言えません。

新型コロナという「機会」も利用しながら人間の生活を縮小するしかないのか・・・。

何とも難しい問題です。