イントロデューシング・ケニー・ギャレット/ケニー・ギャレット・クインテット | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

今月1日、2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される予定だった

英語の民間試験について、20年度の実施が見送られることが発表されました。

 

この試験、様々な問題点が指摘されました。

まず、民間試験を取り入れられることで「採点の質が確保されるのか」、です。

従来のセンター試験は大学教員が試験監督や採点を担当することで

質の確保につとめています。

しかし、民間事業者は採点や試験監督を学生アルバイトに

委ねているケースが多いそうです。

これでは大規模な試験で採点にばらつきができるのは避けられません。

 

また、検定料が高額なため「経済的な格差を生んでしまう」ことも指摘されました。

各事業者の検定料は5800円ほどから高いものは2万5000円に上るということです。

裕福な家庭の学生は何度も試験を受けて対策を練ることができますが、

恵まれない学生は本番以外に受けることは難しく、おのずと不利になります。

 

この問題を明確にしたのは、言うまでもなく萩生田文科相の「身の丈」発言でした。

先月、BSフジの番組に出演した萩生田氏は試験に関するお金の懸念について

こう発言したのです。

 

それ言ったら、「あいつ予備校通っていてズルいよな」と言うのと

同じだと思うんですよね。

だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは

もしかしたらあるかもしれないけれど、

そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば。

(※筆者注:民間試験は年2回まで受けられる見込みだった)

 

ここで声を大にして言っておきたいのは「身の丈」という感覚と「教育」ほど

ミスマッチなものはない、ということです。

 

私は地方都市で育ち、小学から高校まで公立の学校で過ごしました。

振り返って考えると、正直、教員のレベルはそれほど高くなかったと思います。

しかし、「君たちの身の丈に合わせて勉強しろ」という考えの先生に

出会ったことはありませんでした。

むしろ、生徒たちが自分の手の届かないレベルにまで成長しそうであれば

それを喜ぶという姿勢があったと思います。

 

人間の成長があらかじめ本人が属する階層や地域で縛られてしまっては

社会の閉塞感は一気に高まります。

格差の拡大が叫ばれる中、実際に閉塞感は高まっているのですが

それでも教育で「逆転」が可能である、という機会は絶対に必要です。

政府の教育行政トップがその感覚を持ち合わせていないことは絶望的なことですが、

少なくとも彼の考えがあっさりと認められなかったことは喜びましょう。

 

特に恵まれた環境にあるわけでもない若者に惜しげもなく教育の機会を与える・・・・

今回はそんな環境に育ったミュージシャンの作品をご紹介しましょう。

ケニー・ギャレット(as)の「イントロデューシング・ケニー・ギャレット」です。

 

ケニー・ギャレットは1960年、アメリカのミシガン州デトロイトの生まれ。

彼の父親はテナーサックスを趣味にしている大工さんだったそうです。

本作のCDライナーによると、子どものころキャノンボール・アダレイの演奏に

衝撃を受けたギャレットはアルト・サックスをプレイするようになり、

15歳で地元ミュージシャンのワークショップに参加するようになります。

 

ここで彼はマーカス・ベルグレーブというトランペッターに出会います。

デトロイト在住のため地元でしか知られていない存在でしたが

非常に優れたミュージシャンで、やがてギャレットは一緒に演奏する機会を得ていきます。

ここで彼はベルグレーブから「デトロイトで経験しうる最良の機会を得た」と話しています。

音楽に関する知識、情熱、芸術性・・・。

「ビ・バップとハーモニーを学ばなければ誰もお前のことを真剣に扱ってくれない」

というアドバイスを受け、ギャレットは学び続けます。

 

この経験をステップに、ギャレットはマーサー・エリントン率いる

エリントン・オーケストラに18歳で迎えられ、その後NYへの進出を果たします。

波に乗る中で初めてのリーダー作となったのが

「イントロデューシング・ケニー・ギャレット」です。

その後、ギャレットはアート・ブレイキー(ds)、マイルス・デイヴィス(tp)、

フレディ・ハバード(tp)、ブラッド・メルドー(p)など多くのジャズ・ジャイアントと共演し

リーダー作も多く残していますが、「教育の成果」が素直に現れているのが

このデビュー作だと言っていいでしょう。

 

1984年12月28日の録音。

 

Kenny Garrett(as)

Woody Shaw(tp,flugelhorn)

Mulgrew Miller(p)

Nat Reeves(b)

Tony Reedus(ds)

 

①For Openers

ケニー・ギャレットのオリジナル。

管楽器のハーモニーを生かした現代的な曲で、

ビ・バップの伝統を受けながら斬新さを感じさせてくれます。

最初のソロは意外にもマルグリュー・ミラーのピアノ。

これが「ラウンド感がある」とでもいうのでしょうか、

コロコロとよく転がりながら、繰り出されるフレーズに同じものがない

実に見事なソロです。

続くウディ・ショーのトランペットは切れ味抜群。

鋭く空間を破るようなソロがビシバシと決まります。

これを受けてリーダーのギャレットのソロ。

ちょっと粘着性のあるダークな音色が持ち味で、

それでいながらスピード感があり、

リズムに対する反応も若手とは思えないほどスムーズです。

見事にビバップを消化した若者の姿があります。

また、ここではトニー・リーダスが終始

いまにも爆発しそうな力強いリズムを刻んでいますので

ぜひともお聴きください。

 

②Have You Met Miss Jones

ここでは一転、ロジャース~ハートのスタンダード。

ギャレットがミドル・テンポでストレートにメロディを吹き、

そのままソロに入ります。

伸びやかに気持ち良く吹いている様子からは

こういう伝統的なスタイルも好きなんだとホッとさせるものがありますが、

一方でうねるような節回しには彼の独特なスタイルが見え隠れします。

ショウのトランペットも溌剌としており、プロデューサーの

ジェリー・ティーキンスの趣味が反映した(?)ように思える愛らしい演奏です。

 

⑦Reedus' Dance

ギャレットがドラムのリーダスを活躍されるために書いた曲と思われます。

バスドラでしょうか、リーダスが継続的に繰り出す「バスッ」というリズムが

印象的なハード・バップ風の曲なのです。

最初のソロはギャレット。「ダンス」というタイトルにふさわしく、

踊り出しそうな勢いで連続フレーズをたたみかけてきます。

続くショウは意外にもフリューゲルホーンで、勢いに任せそうなこの曲に

柔らかい味わいを加えることに貢献しています。

さらにミラーのピアノは右手がいったりきたりの複雑なフレーズをまじえて盛り上げ、

リーダスにつなぎます。

このソロが非常に締まっていながら躍動的で、見事にリーダーの期待に応えています。

 

ジャズの世界でも2世の活躍が目立ちますが、

ギャレットのように地方都市の大工さんの息子が

大成するというのはうれしいことです。

 

日本という狭い国土で、現役世代も減っています。

騒動になった試験は5年後の実施に向けて改めて見直されるということですが、

若者が希望を持てる制度にしていかなくてはいけないと思います。