アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション/アート・ペッパー | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

きょう、久しぶりに強烈な「音響体験」をしました。

 

その現場は東京・千代田区の小川町にあります。

最寄り駅には「神保町」や「お茶の水」もあるので、

多くの人にとってはこちらの方が場所をイメージしやすいでしょう。

 

靖国通りから少し入った場所に「JAZZ OLYMPUS!」という

ジャズ喫茶があります。

以前からその店の音が素晴らしいという噂を

耳にしていたので訪ねることにしたのです。

きょうは私のパートナーが仕事で出張中。

ふだん「音が大きいジャズ喫茶に行こう!」などと言っても

間違いなく断られますから

こういう機会を有効活用することにしたのです。

 

店の入り口にある看板には「アナログ100%」という文字が・・・。

これはいやが上にも期待が高まります。

ドアに近づくと外でも演奏が漏れ聞こえてくるではありませんか!

神経質なこの時代に「大音響」を実現している店が

まだあるとは非常に心強いです。

 

ドアは意外にも自動ドア。

全開になると、カーメン・マクレエの歌声が響き渡ります。

と、目の前に驚きの光景が!

何と30人近くのお客さんでいっぱいだったのです。

土曜日の午後3時にジャズファンがこんなに集まるものなのか?

 

不思議に思って案内された席に着くと、その理由が分かりました。

お店のスタッフからメニューと共に3枚綴りの紙が配られたのです。

そこには「JAZZ OLYMPUS!オリジナル盤の昼下がり VOL.72」という

タイトルがありました。

 

この日はオリジナル盤をかけ続けるという名物イベントが行われており、

私はその真っただ中に飛び込んでいたのです。

しばらく座っているとお客のうち4分の1くらいは常連らしく、

あいさつを交わしているのが見えてきました。

ときどき「きょうは●●さんは来ないのか?」という会話も聞こえます。

こんなところにジャズファンのコミュニティがあるんですねぇ。

 

たまたまとは言え、オリジナル盤の観賞会に立ち会えたことは幸運でした。

私が入った時は既にイベントが終盤で、聴けたのは以下の4枚。

 

Carmen McRae Live At Sugarhill San Francisco(Time)

The Hawk Flies High / Coleman Hawkins(Riverside)

Cedar! /The Cedar Walton Trio,Quartet,Quintet(Prestige)

Basie Straight Ahead / Count Basie And His Orchestra

 

このうち、私になじみがあるのは「シダー!」のみでしたが、

我が家のオーディオと比べて音の差は歴然としていました。

2枚目のホーキンスの図太いテナー。

3枚目のドーハムの枯れたトランペットの息遣い。

そして、4枚目ではホーンはもちろんのことフレディ・グリーンの

リズム・ギターまでクリアに聞こえてくる立体感・・・

 

これがオリジナル盤の素晴らしさによるのか、それとも目の前に鎮座する

JBLスピーカー・オリンパス(店名の由来だそうです)をはじめとする

音響機器の力によるものなのか、次第に分からなくなってくる瞬間もありました。

まあ、相乗効果なのでしょう・・・・。

 

しかし、衝撃は「オリジナル盤イベント」が終わった後に訪れました。

名作「アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション」が

ターンテーブルに載せられたのです。

 

驚きました。

オリジナル盤ではなくても、その「生々しさ」が半端ではなかったのです。

私もLPを持っていますし、B面の「Tin Tin Duo」は大好きで

「耳タコ」と言えるぐらい聴いてきました。

ですが、ペッパーの「息の吹き付け方」が手に取るように分かったり、

フィリー・ジョー・ジョーンズのハイハットの音量が微妙に変化していることなど、

これまで聴こえてこなかったものがグワーッと迫ってきたのには

本当にびっくりしました。

 

オリジナル盤のすごさというのはもちろんあるでしょうし、

私もお金さえあれば踏み出してみたい世界ではあります。

しかし、スピーカーやアンプといったシステムをしっかりさせれば

1枚ウン万円を支払わずとも、かなりのレベルまではいけるという手応えを感じました。

もちろん、オーディオ機器も凝りだしたら底なしですし

私のように集合住宅に暮らしていると大音量は無理ですが、

「再生芸術」という言葉があることを思い出しました。

 

そんなわけで、レベルチェックのためにも「ミーツ・ザ・リズム・セクション」を

自宅で聴いています。やっぱり店の響きとは違うなあ・・・

 

1957年1月19日、ロサンゼルスのコンテンポラリー・スタジオでの録音。

おなじみのエンジニア、ロイ・デュナンが手掛けた「録音の名作」でもあります。

 

Art Pepper(as)

Red Garland(p)

Paul Chambers(b)

Philly Joe Jones(ds)

 

今回は表記も「LP式」で。

 

B-②Tin Tin Duo

学生時代から何回聴いてきただろう・・・

切れのいいドラムによるイントロからペッパーによるメロディに入ります。

ペッパーの愁い漂うアルト・サックスに対しリズムが辛口なのが

この演奏を傑作の域にまで高めているのだと思います。

まずペッパーがソロを取りますが、「泥臭く泣きそうで泣かない」

絶妙な展開が素晴らしい。

普通、このラテン・メロディなら「演歌」になってしまいそうですが

そこまで俗っぽくならないのがペッパーらしいところです。

また、バックでのフィリー・ジョーのドラムスは「爆発する」寸前で抑えているような

エネルギーの溜めがあり、そのグルーブに圧倒されます。

「JAZZ OLYMPUS!」で聴いたときには

フィリー・ジョーの手足の動きまで見えるかのように、

大小さまざまな打楽器を聴き分けることができました。

そうなると、スリルが一層増すので・・・いいオーディオが欲しくなりますね。

 

ジャズ喫茶というと「籠る」というイメージがあり、

完全に外と遮断された空間であることが多かったように思います。

「JAZZ OLYMPUS!」は通りの反対側が小さな公園という好立地もあってか、

大きなガラス戸があって外を眺めながらジャズを聴くことができます。

その開放的な雰囲気の中では、幅1メートル・高さ70センチはあろうかという

スピーカーが2つ並んでも威圧感を覚えません。

 

ジャズ喫茶の新しい可能性と自宅の音響システム改修の必要性を

しばし考えることができた休日。

多くの人にこの音楽の良さを知ってもらうには「聴き方のスタイル」に

こだわることが重要かもしれませんね。