今月8日、作家の堺屋太一さんが亡くなりました。83歳でした。
堺屋さんというと、政治や経済、文芸など幅広い分野での活躍で知られています。
第一次ベビーブーム世代が日本にもたらす影響を予測した小説「団塊の世代」は
ベストセラーになりました。
もともとは東大卒の官僚で、当時の通産省に入って昭和45年の大阪万博の開催に
関わったことでも知られています。
時代を的確にとらえ、その波に乗って大きな業績をあげてきた「巨人」と言えるでしょう。
私は堺屋さん死去の報に接した時、
「熱気を帯びた時代を主導した人がまた去ったな」と思いました。
たまたまなのですが、最近、同じ時代を生きていた作家・星新一
(1926-1997、享年71)の評伝を読んだからです。
その本とは『星新一 一00一話をつくった人』(最相葉月著、新潮文庫)です。
もうすぐ50歳になる私と同世代の人であれば、ショートショートという短い物語で
売れっ子だったこの作家のことを覚えているでしょう。
「教科書で読んだ」という方もいることと思います。
10~20ページほどの分量で、シュールで機知に富んだ作品群を生みだした星新一が
「SF作家」という位置づけだったことをこの本で知りました。
確かに、未来社会を描いた作品が多く、人間と会話するロボットなどが登場する世界は
現在のAI時代を彷彿させます。
昭和45年の大阪万博で星新一は、時代の先端を走るSF作家の一人として
三菱未来館の企画に参加しました。
・・・三菱未来館は「日本人の自然と日本人の夢」をテーマに
五十年後の日本の自然を想定し、展示映像の撮影ロケーション中に死去した
円谷英二の遺作ともいえる「ホリミラー・スクリーン」に映し出される
嵐や火山の臨場感あふれる仕掛けは来場者を大いに興奮させ、(引用者 中略)
アメリカ館とともに一千百五十五万六千二百六十八人を動員する
最大の人気パビリオンになった。・・・
(『星新一 一00一話をつくった人』下巻より引用)
ここから伝わってくるのは「未来への熱気」です。
万博の前にはアポロ11号が月にまで行っていますし、日本は高度成長の真っただ中。
星新一たちは「映像アトラクション」という当時としては珍しいやり方で未来を示し、
1155万人(!)という多くの人が胸を躍らせたのです。
「時代が新しいものに向かって進んでいる」という前向きの感覚は
いまでは遠いものになっています。
SF作家や堺屋さんのような「知的エリート」が時代を引っ張り、
新しいビジョンを見せてくれるという期待も萎んでいると思います。
経済成長に限界がある時代とはそういうものなのでしょうし、
若い世代はそんな時代の雰囲気に違和感を持つこともないでしょう。
しかし、万博当時の盛り上がりを知るにつけ、
「未知のものにワクワクできる感覚」を持てた時代は
ちょっとうらやましく感じられます。
今回は「ワクワク感」のあった時代のジャズを聴いてみましょう。
チック・コリア(p)の「リターン・トゥ・フォーエヴァー」です。
この作品を「ジャズ」というジャンルに入れることに
いまだに抵抗感がある人もいるかもしれません。
1972年録音のこの作品は従来のジャズの枠から飛び出し、
エレクトリック・ピアノ、ラテン・リズム、女性ヴォーカルによるスキャットなどを
大胆に導入した「フュージョン」という側面を持っています。
これが歴史に残る名作になったのは、ジャズの持つスリル感は大切にしつつ、
音楽としての楽しさ、爽やかさを加えて「新しい可能性」を切り拓いたからでしょう。
マイルス・デイヴィス(tp)のバンドでエレクトリック・ピアノの流儀を学び、
新たな自己のグループを結成したばかりのチック。
彼の持つポップなセンスと「前向きな時代」の波に乗り、
このアルバムは世界的なベストセラーとなりました。
1972年2月2~3日、NYのA&Rスタジオでの録音。
Chick Corea(p)
Joe Farrell(fl,ss)
Flora Purim(vo,per)
Stan Clarke(e-b,double-b)
Airto Moreira(ds,per)
①Return To Forever
バンド名でもありアルバムのタイトルでもある「リターン・トゥ・フォーエヴァー」。
この曲はバンドの「いま」を思い切り盛り込んだ12分にわたる大作です。
イントロからバンドのサウンドが非常に新しいものであったことが分かります。
キーボードのトツトツとした信号的なフレーズに女性ヴォーカルがユニゾンし、
そこにフルートが温かい響きを加える。
「何が起こるのだ?」と思ったところでリズムがアップテンポになり
躍動的なメロディが提示されます。
キーボード~ヴォーカル~フルートが一体となった
編成の妙と軽やかな響きにどんどん引き込まれていきます。
最初のソロはフルート。
キーボードの電子的な響きのバックに対し
ジョー・ファレルの生々しい音色が音楽に活力を与えています。
いったん、イントロと同じ静的な展開をはさんで再びリズムが躍動。
この組曲的な構成も斬新です。
キーボードの長いソロが始まりますが、ベースとパーカッションが
攻撃的にからんで「対話」状態に入ります。
このあたりは響きこそ違えど、ジャズの流れに沿ったインタープレイです。
9分ごろからはヴォーカルの「叫び声」(?)も入り、
バンドのテンションは一気に頂点へ。
これを初めて聴いた人たちはびっくりしたでしょうねぇ。
②Crystal Silence
後にECMでコリアがゲイリー・バートン(vib)と演奏することになる名曲。
リズムの参加はほとんどなく、ここではファレルがコリアのバックを受けて
ソプラノ・サックスでメロディを提示しています。
①と違って抑制されたプレイが素晴らしいです。
続くコリアのソロはエレクトリック独特の響きを大切にしながら
音数少なく、リリカルな演奏に徹しています。
この編成でこれだけ抒情性を持たせた二人に拍手です。
有名曲④「ラ・フィエスタ」も含め、全曲が聴きどころとなっているこのアルバム。
本人たちも「未知の領域に入っている」という感覚を持っていたことが窺え、
いい緊張感と新鮮さにあふれています。
挑戦を怖れない姿勢が生んだ音楽だと言えるでしょう。
実は堺屋太一さんは2025年に開催が決まった「大阪・関西万博」の誘致にも関わっていました。
いまの時代にどんな万博を考えていたのか、記事を検索してみると
去年の3月の「プレジデント・オンライン」にインタビュー記事があり、
大阪での開催が決まっていない段階での発言が収録されていました。
堺屋さんは大阪の計画を「発想が小さい」としています。
半年も続く万博であれば、入場者を計画の2800万人から5000万人レベルに変更し、
内外からの出展・集客を呼びかけるべきだと。
そして、次のように述べています。
(質問者)てこ入れのためにはどうすればいいですか?
(堺屋)叡智を集めることです。当代一流の人をプロデューサーに起用する。
(引用者 中略)いまでいえば、建築なら伊東豊雄さん、坂茂さん、
西沢立衛さんといったところでしょうか。そして大きな計画を描くのです。
大阪万博のような5年に一回の登録博はスポーツでいえばオリンピックです。
国体レベルの小さな大会をイメージさせてはダメなのです。
一時代を画した堺屋さんが言うとおりにすると新たな万博は成功するのか?
正直、肝心のオリンピックのビジョンさえグダグダな状況の中、
万博で部分的に「一流の人」を入れても結果は厳しいのではないでしょうか。
かつてと違い、いまは社会が余裕を失って「持てる者」「持たざる者」が分断された時代になっています。
「大きな夢」を語るだけではなく、新たな「融和のビジョン」こそが求められている、そんな気がします。
「未来への熱気」があふれていた時代にノスタルジーを感じつつも、
別な「挑戦の仕方」をしなければいけない。
そうした意味でも昭和後半から平成にかけて続いてきた
「熱気を望む時代」は終わったのかもしれません。
