昨日、渡辺貞夫さんのクリスマス・コンサートに行ってきました。
「Christmas Gift Vol.25 SADAO WATANABE Re-Bop Night」と
題されたコンサート。
タイトル通り、ビ・バップへの回帰を思わせるシンプルで
アコースティックな編成でした。
メンバーは以下の通り。
渡辺貞夫(as)
Cyrus Chestnut(p)
Christopher Thomas(b)
Brian Blade(ds)
演奏は非常に素晴らしいものでした。
84歳(!)のナベサダは長いソロこそなかったものの、
艶やかな音色は健在。
「アイム・オールド・ファッションド」といったナンバーでは
アップテンポでグイグイとバンドを引っ張っていました。
バックのメンバーは40代後半から50代半ばで
世代差がありましたが、息はピッタリ。
特にブライアン・ブレイドはウェイン・ショーターの
バンドに参加しているのを聴いた貞夫さんが聴き惚れたというだけあり、
音の大きさ、キレは非常に説得力のあるものでした。
心にすっと届いてくる「本物の」音楽を聴きながら、
何となくこの1年のことを考えてしまいました。
流行語に「フェイクニュース」が挙げられた2017年。
この言葉はトランプが大統領選に出馬した去年から
話題になっていましたが、
現職の大統領が多用しているとなると重みが違います。
しかも彼の発言自体に嘘が混じっているという複雑さ。
トランプに始まったことではないのかもしれませんが、
いまは大切にすべき価値が脇に追いやられ、
嘘を使ってでも「取り引き」に勝ち抜いたものが気を吐く時代です。
グローバル化の中で大きな変化が個人を直撃するだけに
この流れはアメリカだけでなく日本でもしばらく続くでしょう。
そんなやるせない年の瀬に互いを尊重する「共感」の響きを耳にすると
非常に安心します。
聴き手としては大切なクリスマス・プレゼントを贈られた気分になりました。
今回は貞夫さんがいまに続くクリスマス・コンサートを
初めて行ったときの音源をご紹介しましよう。
1992年のライブを収録した「ナイト・ウィズ・ストリングス」です。
東京・渋谷のオーチャード・ホールでの演奏で、
カルテットと14人のストリングス・セクションが参加しています。
当時、生演奏でジャズとストリングスが組むというのは
あまりなかったのではないでしょうか。
25年前にこのコンサートのことを耳にしたとき、
新鮮で豪華な印象を持ったのを覚えています。
1992年12月25日のライブ録音。
渡辺貞夫(as)
野力奏一(p)
Marc Johnson(b)
Peter Erskine(ds)
①I Thought About You
実際のコンサートとCDの曲順は一致していないと思いますが、
このトラックは冒頭に置くにふさわしいものです。
というのは、貞夫さんのソロで始まるアルト・サックスの音が
コンサート全体の雰囲気を象徴しているからです。
柔らかく、伸びがあり、温かい音色。
簡単に「腹に落ちてくる」この音が全てのトラックで
貫かれています。
提示されたメロディを包み込むようにストリングスが続きます。
野力奏一によるこのアレンジが絶妙。
カルテットに寄り添うようなアレンジは「和」のテイストとも言え、
作品全体の成功を支える大きな要素になっています。
貞夫さんのソロは後半、男性的な力強さを見せますが、
これもストリングスにふんわり包まれ穏やかな気持ちで聴けます。
⑦Echo
貞夫さんのオリジナル。
嵐の予感もあるスケールの大きなナンバー。
ここではストリングスによる空間の広がりと
ビッグ・バンド経験者、ピーター・アースキンの
迫力あるドラミングが大きな効果をもたらしています。
メロディの後にまずアルト・サックスのソロ。
後半、ドラムの煽りに乗ってサックスがどんどん熱を帯びるのが
聴きものです。
続くピアノ・ソロではドラムがいったん規則的なビートに戻して
テンションを戻し、アクセントをつけます。
そしてドラム・ソロ。細かいビートとバスドラを無駄なく組み合わせた
短いソロで、あっという間に終わりますがインパクトが大きいです。
⑧Here There And Everywhere
レノン~マッカートニーによるビートルズナンバー。
スローテンポでアルト・サックスがメロディを歌いあげます。
これほど自然にビートルズナンバーを
ジャズ・バラッドにしてしまったケースも珍しいでしょう。
メロディを大切に、「じっくりと」したテンポに徹したことが
最大の成功要因だと思います。
間奏でのストリングスによるメロディ提示も美しい。
昨夜のコンサートで貞夫さんは
「来年(のクリスマス)はストリングスと一緒にやります」
と語っていました。
もう予定が決まっているのか!と驚くとともに
非常に期待が高まりました。
来年の年末の世の中と自分がどうなっているのか
全く想像がつきません。
ただ、少しでも穏やかにその時を迎えられたら、
そしてこのホールに戻ってくることができたらいいなと
思わずにはいられませんでした。
