ロンドン五輪まであと4日。
メダルの予想や特集番組などが目立つようになってきました。
先日、私が見た中で驚いたのは
「NHKスペシャル ミラクルボディー
ウサイン・ボルト 人類最速の秘密」でした。
ご存じ、陸上男子100メートルの王者、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)。
実は彼、生まれつき「脊柱側わん症」という病気で、
背骨がS字状に曲がっているというのです。
この病気で走りが不安定になり、
足の筋肉に負担がかかるボルトは、
「肉離れ」の危険と隣り合わせの競技生活を送ってきました。
そんな弱点を乗り越えるために、筋肉を鍛え続け、
ついに世界の頂点に達したというのです。
ボルトは天才肌のランナーだと思っていただけに、
「肉離れ」による挫折の経験があったことは意外でした。
同時に、高い目標を持っている人間の強さを
教えてもらった気がしました。
ジャズでもハンディキャップを乗り越えてきた人がいます。
その一人、ホレス・パーラン(p)のアルバム
「ムーヴィン・アンド・グルーヴィン」を聴いてみましょう。
オリジナルの英文ライナーによると、
パーランは5歳のときにかかったポリオのため、
右手が麻痺してしまいました。
ピアノを弾き始めたのはその後で、
音楽を楽しむためというよりは、
リハビリという側面が強かったようです。
やがて、両親の反対を押し切ってプロのミュージシャンになった彼は、
1957年にチャールス・ミンガス(b)のグループに参加。
注目を浴びるようになり、「ムーヴィン・アンド・グルーヴィン」で
ブルーノートからデビューを果たします。
ライナーでは右手が治らなかった彼が
どのような弾き方をしているのかが記されています。
「ホレスは右手の薬指と小指を全く使わない。
人差し指と中指、そして時には親指も使って
左手で押さえた基本的な和音に音を足して
コードを完成させる・・・」
(筆者:レオナルド・フェザー)
ジャズで右手をうまく使えないピアノ演奏というのは
本当に想像しにくいのですが、
実際に聴いてみると「違和感」はありません。
確かに、流れるようなタッチはありませんが、
一音一音に説得力があり、
パーカッシブなプレイに引き込まれます。
これだけオリジナルなブルースを弾ける人も
まずいないと思います。
1960年2月29日録音。
Horace Parlan(p)
Sam Jones(b)
Al Harewood(ds)
①C Jam Blues
おなじみのエリントン・ナンバー。
何といってもレッド・ガーランド(p)の演奏が有名ですが、
こちらも大したものです。
非常に重く、ねばっこいタッチでメロディを弾くパーラン。
そのバックをサム・ジョーンズ(b)とアル・ヘアウッド(ds)の
ビンビン迫ってくるリズムが後押しするのですから、
蒸気機関車(?)的な重厚な迫力があります。
パーランのソロは音数は多くないのですが、
右手の短音に対し、左手が絶妙なコードで追いかけたり、
時には重なり合ったりすることで、独特のグルーブを生み出します。
冒頭から3分40秒ぐらいの「コード攻撃」の「黒い」こと。
彼がいかにブルースを愛しているかが分かります。
②On Green Dolphin Street
有名スタンダード。ミドル・テンポで、①と比べると優雅な展開です。
ヘアウッドの快調なブラッシュ・ワークに乗り、
パーランは右手中心の「スペースをあけた」プレイを披露。
弾きすぎないことがこれだけのスイング感を
生み出せるのかと驚きます。
そして、そんなハンディキャップを知らなくても、
十分に楽しめる演奏であることも重要です。
⑥Stella By Starlight
こちらもおなじみのスタンダード。
冒頭のスローで美しいイントロから、ドラム・ソロをはさんで
スピーディな本編に入る展開が何ともスリリング。
ここでのパーランのピアノはいい意味で「黒光り」しています。
簡潔な表現で一つ一つ音を置いていきながら、
曲の雰囲気に合わせたのか、一貫した「品」が感じられるのです。
ブルースに沈んでいくよりも、快活さと美しさを優先させたピアノ。
こういうパーランも魅力的です。
もうすぐ、五輪の熱狂が始まります。
アスリートたちは様々な挫折や負担を乗り越えて栄光の舞台に立つ。
本当のプロフェッショナルは、そんな苦労を感じさせないから
すごいのでしょうね。
