大王製紙の井川前会長が、グループ企業から引き出した
巨額の資金を海外のカジノで使っていました。
会社に損害を与えた容疑で、昨日、逮捕されています。
このニュースを知り、久しぶりに「人間が堕ちていく怖さ」
を感じました。
新聞やテレビでの報道によると、井川前会長は
海外のカジノで一度に数億円負けることもあったそうです。
どうしてそこまで入れ込んだのか?
本人のコメントは以下のようものです。
「株の先物取引やFX取引で大きな損失を出し、
たまたま訪れたカジノで儲けたために深みにはまってしまった」
一度吸った「甘い蜜」の恐ろしさー
井川前会長は、単なる「ドラ息子」ではなかったと聞きます。
ビジネスのセンスは良く、商品の売り出しに熱心だったという
社内の声も紹介されています。
もし、これが本当なら、その転落は悲しいものだと
言わざるを得ません。
ジャズマンが堕ちていった時、理由の筆頭に挙げられるのが
「ドラッグ」や「アルコール」です。
特にドラッグに関しては、チャーリー・パーカー、
バド・パウエル、チェット・ベイカーといった大物が
はまってしまい、その地獄から抜け出せませんでした。
ずば抜けた才能を持っていただけに、残念です。
麻薬の地獄に陥った「大物」の一人に
ハワード・マギー(tp)がいます。
「大物」とカッコがついてしまったのは、
彼が麻薬のために二度も音楽シーンから遠ざかり、
偉大なスタイリストでありながら、
あまり評価されていないからです。
ディジー・ガレスピーらと並び、
「最初のビ・バップ・トランペッター」と
言われたこともあったのですが・・・
今回、ご紹介する
「ノーバディ・ノウズ・ユー・ホエン・ユーアー・ダウン・アンド・アウト」、
タイトルからして何とも示唆的です。
ジャケットには、楽器店の前にたたずむマギー。
ところが、よく見ると楽器店には「BUY AND SELL」と書かれており、
マギーは楽器を「売りに来た」ようにも見えるのです
↓
このアルバムはマギーが二度目のカムバックを
果たした後に録音されたもの。
ジャケットはマギーがジャズから遠ざかっていたときの
様子を再現したのでしょうか?
ここまで「堕ちた」雰囲気のジャケットもなかなかありません。
ただ、音楽は円熟の味わいがあり、
不思議な説得力を持っています。
ワン・ホーンで、オルガンをバックにした
セッションが多いことも、良い方向に働きました。
「堕ちた」人間が立ち直ったときの
「枯れ具合」と「希望」が混在した忘れられない作品です。
1962年録音。
オルガン・トリオとピアノ・トリオをバックにした
二つのセッションが収められています。
Howard McGhee(tp)
Jimmy Jones(p)
Phil Porter(org)
Ron Carter(b)
Larry Ridley(b)
Arthur taylor(ds)
Dave Bailey(ds)
①Nobody Knows You When You're Down And Out
冒頭、オルガンをバックに鳴り響くミュート・トランペット。
その妖しさと物悲しさに、
「まずい!B級サスペンスのテーマか?」と
思ってしまうのですが、安心してください。
続くバラッドのメロディは非常に温かく、
ほんのりと楽観性も感じられます。
原曲に歌詞があるのか分かりませんが、
マギーはタイトルに反し、
「落ち込んだ内容」にはしないように
努めたと思われます。
短いオルガン・ソロをはさんで、
再びマギーによるメロディに戻ります。
トランペットによるソロはありません。
そこに、マギーの曲に対するこだわりが
あるようにも思えます。
④Why Run Away
こちらはピアノ・トリオをバックにしたナンバー。
マギーとボサノヴァ・リズムという
意外な組み合わせです。
メロディも甘めで、普通なら「軽い歌もの」として
「流れて」しまいそうです。
しかし、マギーの哀感が背後からチラチラと顔を出し、
不思議と「ジャズ」になっています。
⑥Blue Bell
これはオルガン・トリオがバックです。
デイブ・ベイリーが刻む小気味よいリズムで、
バンド全体がスイングしています。
マギーのオリジナルということもあってか、
大らかに「歌う」トランペットがいい。
オルガンのフィル・ポーターも
それまでの抑制的なスタイルを解き放ち、
エネルギッシュなプレイをしています。
⑦Tenderly
バラッドでのマギーの本領が発揮されています。
メロディをストレートに、じっくりと吹くマギー。
そこには迷いがなく、確信に満ちた
柔らかい音色が響き渡ります。
ソロで朗々とした吹きっぷりを楽しめるのも
このトラックのいいところです。
マギーがカムバックするにあたっては、
プロデューサーのジョージ・ウェインの
支えがあったようです。
思えば、バド・パウエルやチェット・ベイカーも、
多くの人の助けによって作品を残せました。
井川前会長がグループ企業に金を要求したとき、
創業者一族に配慮して誰も逆らえなかったと言います。
そういう意味では、本当の「支援者」がいなかったことが、
井川前会長を深みに落としてしまったのでしょう。

