ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド/クリフォード・ブラウン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


今月5日に亡くなったアップルの創業者、

スティーブ・ジョブス氏に関する報道が絶えません。


きょう読んだニュースによると、

アメリカで今月7日から始まった「アイフォン4S」の

予約販売が絶好調だとのこと。

一日50万台に迫る販売実績となっており、

これまでのアイフォンと比べ最も多い数字だとか。


こうした動きの背景には、アイフォンの生みの親である

ジョブス氏への追悼ムードがあります。

中には「アイフォン4S」の「4S」を「For Steve」の略字と

解する向きもあるとか。

カリスマ経営者の影響力、恐るべしです。


マウスやiPod、アイフォンやアイパッドを世に送り出した

スティーブ・ジョブス氏。

正直、私は彼について詳しいわけではありません。

ただ、その死がこれほど惜しまれている原因の一つに

「絶頂期で亡くなってしまったこと」があると思います。


いま、彼が世に送り出したものが

人々のライフスタイルを根本的に変えています。

スマートフォンを持っていればネットはもちろん、

自分の現在地を知ることができる地図も手に入ります。

動画を撮影して編集してしまう人もいるでしょうし、

株価をチェックするビジネスマンもいるでしょう。

気軽にできるようになったツイッターは

時に世論さえ形成してしまいます。


まだ56歳だったジョブス氏。

病に冒されなければ、さらにものすごいものを

私たちに見せてくれたかもしれません。

歴史に「もし」という仮定を投げかけても

意味がないとよく言われます。

しかし、ジョブス氏の無限の可能性を考えると

惜しまざるを得ない、というところがあるのです。


絶頂期に亡くなり、多くの人が「もし彼が生きていれば・・・」と

思ったジャズマンと言えばクリフォード・ブラウン(tp)。

ハード・バップ初期の花形プレイヤーであり、

残した作品に駄盤が一切ない人です。

プレイヤーとして乗りに乗っていた時、

交通事故のため25歳の若さで亡くなってしまいました。


クリフォード・ブラウンの死後、彼の未発表音源が

いくつか発表されました。

その中で最もインパクトがあったのが

「ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド」でしょう。


このアルバムはブラウンのキャリア上、

「始まりと終わり」のライブを収めています。

一つは1952年、シカゴでリズム・アンド・ブルースの

バンドに加わっての演奏。

まだ初リーダー作を吹き込む前のものです。

もう一つは「終わり」。

1956年、フィラデルフィアで録音されたジャム・セッションで、

アメリカ盤のライナーノートによると、

この演奏を終えた数時間後にブラウンは

自動車事故で亡くなったことになっています。


実は、この「終わり」については諸説あり、

1955年の録音ではないか、という意見もあります。

ただ、ファンとしては音質などの状態が

比較的良好な記録が発表されればそれでいい。

天才の貴重なドキュメントであることは間違いないのですから。


作品全体を聴くと、①②の「始まり」の部分は

「レア音源」という域を出ていないと思います。

魅力的なのは③④⑤の「終わり」。

フィラデルフィアの地元ミュージシャンの

レベルは高くないのですが、

ブラウンの熱いプレイに刺激されているのが分かります。


今回は「終わり」部分をご紹介しましょう。


1956年6月25日(かも)、フィラデルフィアでのライブ録音。


Clifford Brown(tp)

Billy Root(ts)

Sam Dockery(p)

Ace Tisone(b)

Ellis Tollin(ds)


④Night In Tunisia

おなじみ「チュニジアの夜」。

冒頭から素晴らしいのがブラウン。

メロディでは、いつもの安定したビッグ・トーンと、

温かみがあるプレイが聴けます。

メロディからソロに入るまでに

一瞬のリズムのブレイクがあるのですが、

そこを見事に吹き抜ける様も爽快です。

ソロは非常に「熱い」もの。

彼が残した録音の中では比較的長いものだと思うのですが、

最初の「様子見」から次第に「燃えていく」のが圧巻です。

頭から2分14秒くらいのところで高音ヒットが出始め、

これを呼び水に力強いフレーズが泉のごとく出てきます。

かなり体力を使うプレイだと思うのですが、

音がかすれることもなく、むしろ説得力が増してくるのは

どうしたわけでしょう?

その後テナー~ピアノのソロを経て、再びブラウンに戻ります。

ここでも高音ヒット連続!

それでいながら機械的にならずに、情熱がビシビシ伝わってくる。

ハード・バップの良質な部分が凝縮したプレイと言えるでしょう。


⑤Donna Lee

チャーリー・パーカーの作曲。

急速調のメロディをブラウンが難なく処理しています。

それにしても、なぜ彼が吹くと、どのフレーズも「歌」に

なってしまうのか?

「音の連打」を受けても、あまり疲れないのです。

単なる「手癖」で音をつなげているのではなく、

伝えたいメッセージがあるからなのでしょう。


ブラウンの未発表音源が発掘されたのは、

「夭折の天才」が残したものを少しでも多く聴きたいという

ファンやレコード会社担当者の熱意があったからでしょう。


そういえば、きょう読んだ別のニュースでは、

スティーブ・ジョブス氏が今後4年間のアップル製品の

「コンセプトと計画」を残していた、とありました。

詳細は明らかになっていませんが、次に出るアイフォンなどに

その思想が反映されるのでしょうか。


「天才が伝えたかったメッセージ探し」はどんなジャンルでも

行われるのでしょうね。