読書の秋、到来。
3連休、本を読み続けました。
その中で、一番インパクトがあったのが
「困ってるひと」(大野更紗著、ポプラ社)でした。
この本、釧路の某書店でも平積みになっていました。
2か月くらい前から新聞の書評などで話題になってしますし、
ご存じの方も多いかもしれません。
内容は本の帯にある「難病女子による、エンタメ闘病記!」
という言葉がぴったり。
24歳の女性があるとき、日本でも稀な難病にかかってしまった。
免疫システムが暴走するために、全身に炎症が出てしまう。
熱や倦怠感、痛みが途切れることなく、
服用する薬は一日30種類前後。
その副作用にも悩まされ、動くこともままならない。
幸い、良心的な病院に入院するも、
長期入院が病院経営を圧迫する仕組みから、
退院を余儀なくされるといった困難が続く。
どう考えても「暗い」話なのですが、
著者は鋭い自己観察力と、持ち前のユーモアで
この状況を「エンターテインメント」として
エッセイにまとめてしまった。
非常に分かりやすい文章で、著者と共に泣いたり
笑ったりしながら、一気に読んでしまいました。
この文才、20代の女性とは思えません。
本の中で特に印象に残ったのは、
著者と友人が緊張関係に陥る場面です。
大学院生で、実家が病院と離れている著者は、
入院中、様々な「支援」を友人にお願いしていました。
細かな日用品の買い物、行政手続きのための書類コピー、
追いつめられた気持ちをぶつける「カウンセラー」的な
役割まで・・・。
しかし、快く引き受けてくれていた友人たちが
「もう、無理だと思う」と告げてきたのです。
献身的な「支援」に疲弊して・・・
ここから著者は、個人的な「支援」の限界を悟ります。
ひとは、自分以外の誰かのために、
ずっと何でもし続けることは、できない。
わたしの存在が、わたしの周囲のひとたちにとって
次第に重荷になってきていることを、
心の底ではわかっていたけれど、
見て見ぬふりをした。
まるで、わたしのお見舞いが「義務」や「責任」のように、
みんなの肩に重くのしかかっていた。
(「困ってるひと」209ページより)
著者は、やがて「特定の誰か」ではなく、
「社会」の公的な制度に頼るしかないと考えていきます。
その「セーフティーネット」を引き出すにあたっても
壮絶な闘いがあるのですが、
これについては本を読んでいただきましょう。
「公的なものの重要性」にたどり着いた著者に、
私はハッとさせられました。
震災以後、「政府に頼れない」という気分が
世の中にあるように思えます。
不安から家族の価値や人との絆が見直されている、
などという話もありました
(「結婚したい」と考える女性が増えたという報道も!)。
私も「そうだよな、頼れる家族が多いほど安心かもな」と、
バブル世代とは思えない(!)考えを持つようになっていました。
しかし、私的なつながりにしか頼れない社会は、
「つながり」を持たない人をばっさりと切り捨てます。
それは難病の人に限りません。
私のような転勤族で、住んでいる地域に
ほとんど知人がいないようなひとも同様です。
ささいなきっかけで「生きられなくなる」現実が、ある。
震災を経て、私たちは再び「生存権」を堂々と
主張しなくてはいけない。
津波が来ても、放射線がばらまかれても、
難病になっても生存が確保できる制度を。
そうでなくては、「困ってるひと」が増えるばかりです。
「困ってるひと」を読み終えて、最初に聴いたのが
フレディ・レッド(p)の「アンダー・パリ・スカイズ」でした。
これには理由らしい理由がない・・・・
とにかく、聴きたくなったのです。
ひょっとすると、レッドの「酸いも甘いも知っている」
かのような風情に引きつけられたのかもしれません。
レッドはペーソス漂う曲を書くことで知られています。
それでいて、悲しさにズブズブ沈み込むようなことはない。
どこかに芯があるというか、「あきらめていない」のです。
そのしぶとさ、「困ってるひと」の著者のようでもあります。
フレディ・レッドはややマイナーなので、簡単に経歴を。
1928年5月29日、NY生まれ。
有名な仕事は音楽劇「ザ・コネクション」の作曲でしょう。
ブルーノートに同名のアルバムを残しています。
アメリカだけでなく、ヨーロッパでも活動しましたが、
実力の割にリーダー作が少ないのが残念。
時に物憂げな音色は、日本人好みなのかもしれませんね。
1971年7月26~29日、パリでの録音。
Freddie Redd(p)
Didier Levallet(b)
Didier Carlier(ds)
④This Heart Is Mine
このアルバムでは全ての曲が
レッドのオリジナルとなっています。
冒頭、スローなワルツ風に始まるこの曲。
ゆったりと進むのかなと思ったところで
テンポ・アップし、哀愁のメロディが飛び出します。
このメロディが何とも、いい。
派手さは全くありませんが、悲しみを乗り越えた後の
すがすがしさも感じられる、不思議な曲です。
その後のピアノ・ソロもメロディの延長としか思えない
フレーズが続きます。
レッドは根っからの作曲家のようです。
⑤You
ピアノとベースによるデュオです。
このバラッドも非常に哀感があるのですが、
④と同様、どこか「突き抜けた」感じがあります。
哀しみはあるのですが、
そこに浸ってばかりではいられない、という印象。
人生、いろいろあるんだからさ、
辛いことも背負いつつ、一歩を踏み出さないか・・・
文字にしてしまうと非常にクサイのですが、
そんなメッセージがあるような感じで、
哀しい曲調にも関わらず、聴くと勇気が出てくるのです。
レッドの曲は通常のスタンダードのように、
「伝えたいこと」が単純ではない。
人間が「弱さ」と「強さ」を兼ね備えた、
複雑な生き物なのだと感じさせてくれるところに
魅力があるのだと思います。
図太い音色のベース・ソロも立派。
このソロを受けた、ピアノの力強い美しさも、
特筆すべきものです。
不安定な時代。
迫りくる金融不安を持ち出すまでもなく、
「困ってるひと」になる可能性は広がっています。
様々な試練を誰とも共有できないもどかしさ、寂しさ。
自分で道を切り開かなくてはいけない辛さ。
くじけそうになることもあると思います。
しかし、そんな弱い人間が、何らかのきっかけで
強く生きていくこともできる。
「困ってるひと」の序文のサブタイトルは
「絶望は、しない」となっています。
ご一読をおすすめします。
