アローン・アット・モントルー/レイ・ブライアント | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


転勤に伴う忙しさに追われ、

重要な事実を知らないままに過ごしていました。

ピアニストのレイ・ブライアントが今月2日に

亡くなっていたのです。79歳でした。


これは追悼しなくてはと、

彼の代表作「アローン・アット・モントルー」を

棚から取り出しました。

彼が作曲した「クバノ・チャント」で

いい演奏があったよな・・・

というぐらいの認識だったのですが、

日本版ライナーを読んで、

ブライアントの道のりを改めて確認しました。

実は「苦労人」だったのです。


1950年代後半からカーメン・マクレーの伴奏や

ジョー・ジョーンズ・トリオの一員として

活動していたブライアント。

この当時、彼が残したプレスティッジ時代の作品は

日本で根強い人気を誇っています。

当然、本国でもかなりの名声を得ていたのだろうと

私は思っていました。

しかし、ライナーには、相当数の吹き込みをしても

「人気的には二流に甘んじていた」(油井正一氏)

とあります。


ブルージーで、ゴスペルを思わせる独特のタッチがある

ブライアントですが、「スター」になるきっかけがない。

そんな彼に、めぐってきたチャンスが1972年6月の

モントルー・ジャズ・フェスティバル。

何と、ブライアントはオスカー・ピーターソン(p)の

代役だったのです。

ソロで出演することになっていたピーターソンが

「準備不足」を理由に辞退。

代わりに呼ばれたのがブライアントでした。


このチャンスに彼は見事に応え、

素晴らしいソロを披露しました。

その模様はライブ・レコーディングされ、

彼は一流ジャズピアニストとしての評価を得るのです。


自分の腕を磨き続けた職人が、

たった一つのチャンスを逃さず、

次第に聴衆を巻き込んでいくドキュメント。

その圧倒的な迫力をお楽しみください。


1972年6月23日、

スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルでの

ライブ録音。


Ray Bryant(p)


①Gotta Travel On

ポール・クレイトンという人が作曲した民謡調のナンバー。

飛び跳ねるような躍動感がある右手と、

ぐっと重しをかける左手。

全体的に非常に軽快なのですが、

低音部分でのブライアントのタッチが重く、

ゆっくりと機関車が進んでいく様子を思わせます。

薪を燃やして走るSLに圧倒的なパワーを感じるように、

この演奏には内部から迸るエネルギーがあります。

演奏中、観客が一言も発していない様子からも、

ブライアントが会場の空気を支配していることが

窺えます。


③Cubano Chant

ブライアントの代表曲の一つ。

哀感がありながら、

どこかユーモアも感じさせるメロディ。

意味は「キューバの聖歌」なのでしょうか?

そういえばラテンの味わいもあります。

ソロに入ると、力強く、はっきりとしたタッチが

明確に現れます。

感心するのは、ブライアントがリラックスしていること。

これだけ鍵盤に力が込められると、

テンションばかりが高くなってしまいそうですが、

息苦しくなる前に絶妙のブレイクが入ります。

3分過ぎに盛り上がりが来るのですが、

これも流れに任せず、最後は踏みとどまっている。

我を忘れずに、「熱さ」と「構成」のバランスをとっていることが、

このアルバムを名作にしたのでしょう。


⑦Greensleeves

おなじみのイギリス民謡。

ブルージーな感覚を生かし、素早く弾く部分と

スローにして「溜め」を作る部分とを

見事に組み合わせたプレイ。

わずか2分ほどですが聴きごたえがあります。


他に⑨Until It's Time For You To Go

もチャーミングな演奏です。


黒いノリが濃厚にもかかわらず、

どこか安心感があるブライアントの演奏。

本当に惜しいスタイリストを亡くしたと思います。

ご冥福をお祈りします。


そして、わずかなチャンスを逃さなかった

彼の生き方に学びつつ、

私は転勤先で働こうと思います。

あと2週間ぐらいで引っ越しでしょうかね・・・・