アウト・オブ・ザ・クール/ギル・エヴァンス | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


東京に雪が降りました。

それも、少し強めに。

都心では2年ぶりに1センチの積雪となったそうです。


北海道生まれの私にとって、雪は遠い存在ではありません。

夜、同僚から「雪が降ってるよ!」と報告があった時も、

「まあ、冬に一回ぐらい降ってもいいよね」と

ゆったり構えていました。


ところが・・・・

周りの人たちが急にソワソワし始めたのです。

足早に外の様子を確認しに行く人、

仕事を慌てて片付けようとする人。

何だろうと思っていたら、みんな交通機関の乱れを

心配していたのです。

「帰れなくなったら大変だ」と。


そう、東京は雪に弱いんですよね。

北国の人間から見ると、いとも簡単に

電車が止まってしまうのが驚きです。

雪が「脅威」になりやすいというのは、

それだけ普段は温暖な気候であり、

特別な備えは必要ないということ。

恵まれた環境の裏返しでもあるのでしょうが・・・


ジャズに「雪がもたらす脅威」を感じさせる曲があります。

アレンジャーのギル・エヴァンスがビッグ・バンドを率いて

吹き込んだアルバム「アウト・オブ・ザ・クール」。

その中の一曲に「ラ・ネヴァダ」があります。

スペイン語で「雪が降ること」を意味する言葉ですが、

非常に繊細で複雑に迫ってくるサウンドが、

雪の持つ静けさ・不気味さを表しているように

私には聴こえます。


1960年11月~12月、ニュージャージーでの録音。

メンバーは多いので割愛しますが、

48歳で脂が乗り切っていたギル・エヴァンス(p,arr,cond)をはじめ、

ジョニー・コールズ(tp)、ジミー・ネッパー(tb)、

バド・ジョンソン(ss,ts)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)

といった人たちの参加がきいてます。


①La Nevada

エヴァンスのどこか心もとないようなピアノのイントロが

この曲の持つ妖しさを象徴しています。

続いてリズムとギター、それにミュート・トランペットが加わることで、

しんしんと降る雪の印象が描かれ始めたように感じます。

しかし、実はここまではほんの導入に過ぎない。

曲が始まって2分過ぎから、ピアノ~ホーン陣によって

ようやくメロディが提示されるのです。

ここでの「雪」の印象は、強烈にプッシュしてくるエルヴィンの

ドラムのせいか、クールでありながら、どこか威圧感があります。

リズムが転調してから、ジョニー・コールズ(tp)のソロ。

最初は冷静なソロをとっていくのですが、

次第にホーン陣やピアノ、ギター、ドラムによって煽られ、

熱さを帯びてきます。

まるで静かに降る雪が、次第に勢いを増し、

大雪になっていくかのようです。

これを受けてのトニー・スタッド(tb)のソロは

最初からやや力を帯び、押しては引く波のような展開をします。

前衛的にも聴こえるソロのバックでは、

ホーンが非常にいいタイミングでからんできて、

迫りくる雪の迫力を奏でます。

このあたりのアレンジはどこまでが計算されていて、

どこまでが自由なのかはっきりしません。

まさにバンドを楽器にしてしまうギル・エヴァンスの

「マジック」が現れた演奏です。

ラスト、一旦静寂さが現れて「雪が弱まった」後に、

レイ・クロフォード(g)のソロが登場します。

ここで再び盛り上がり、

ビッグ・バンドがフルートの繊細さから、

トロンボーンによる荒々しさまでフルに使って

迫ってくるのが圧巻です。

この「読めない」全体構成も、

雪の変化の激しさを表現しているようで、印象に残ります。


いま、窓の外を見たら、木が雪を被っていました。

予報では明け方にはやむそうです。

気温さえ上がればすぐに溶けてしまうという繊細さを持ちながら、

時に暮らしを脅かしもする雪。

「クールに威圧してくる存在」が、

東京という人工的な場も、しょせんは自然の中にあることを

少しだけ思い出させてくれます。