いまやノーベル文学賞候補の常連であり、
最新作「1Q84」は200万部を超えるという、
作家・村上春樹さん。
彼はジャズ・ファンとしても有名ですが、
先日、ある雑誌で久しぶりにジャズについての
記事を書いていました。
中身はNYのジャズクラブめぐり。
実際に秋のNYに足を運んで、
新旧のクラブでジャズを聴いた印象を
飾らない文章で書いています。
「タイムマシンがあったら、1950年代に戻り、
クリフォード・ブラウンとマックス・ローチの
クインテットを聴きたい」
という辺り、「素直なジャズ・ファン」(?)と
言えるのではないでしょうか。
この記事には写真がふんだんに盛り込まれているのですが、
そのうちの1枚に私の眼は釘付けになりました。
それは、名門ジャズ・クラブ「ヴィレッジ・バンガード」の
現オーナー、ロレイン・ゴードンさんの写真。
彼女は夫のマックス・ゴードン氏が1989年に亡くなってから、
80歳を越えた今も店を守っているというのです。
実は私、彼女と会っているのです。
それも、そんな有名人とは全く知らずに。
1年半ほど前、仕事でNYに行く機会がありました。
ジャズ・ファンとしては当然、ヴィレッジ・バンガードは外せません。
1950年代から数々の名ライブ盤の舞台となっているところで、
いわば「ジャズ・ファンの聖地」なのですから。
その日、私は一人で店を訪ねました。
さすがに一人の客は珍しく、
店の方も「どこに座らせようかな?」という感じでしたが、
幸運にもぽっかり空いていた最前列の場所に
相席で座ることに。
演奏を心待ちにしていると、シャンとした老婦人がやって来て、
注文を取ってくれました。
「飲み物は何に?」
「赤ワインのグラスを」
-それだけのやりとりでした。
恥ずかしながら、私はこの老婦人がロレイン・ゴードンさんとは
思ってもみませんでした。
事前のリサーチが甘く、顔写真をチェックしていませんでしたし、
高齢のオーナーが「注文取り」をしているとは
予想できませんでした。
雑誌の写真を見て「あ!あの時の!」と驚いたわけです。
後悔があるとしたら、
彼女に「このクラブに来ることができ、本当にうれしいです」
という一言が言えなかったこと。
村上春樹さんの文章によると、
この名門クラブも設備の老朽化や景気の悪化で
存亡の危機があったそうです。
バブル期には日本企業から「クラブを売ってくれ」
という申し出もあったとか。
様々な困難を乗り越えて店を守ってきた
オーナーに敬意を表したかったのですが、
惜しいことをしました。
ヴィレッジ・バンガードでは、ビッグ・バンドを聴くことができました。
その名も「ヴィレッジ・バンガード・ジャズ・オーケストラ」。
始まりは、1966年にサド・ジョーンズ(tp)とメル・ルイス(ds)が
結成したビッグ・バンドでした。
このバンド、毎週月曜日にヴィレッジ・バンガードに出演し、
人気を博します。
リーダーが亡くなったり、メンバーの入れ替わりはありますが、
今も基本的に月曜日にライブを行うスタイルを守っています。
私が聴いた夜も息の合った演奏を行っていました。
感激し、店で買ったCDがこれです。
サド・ジョーンズの曲を中心に演奏しています。
1999年、スタジオでの録音。
Earl Gardner(tp)
Joe Mosello(tp)
Glenn Drewes(tp)
Scott Wendholt(tp)
John Mosca(tb)
Ed Neumeister(tb)
Jason Jackson(tb)
Douglas Purviance(b-tb)
Dick Oatts(as,ss,fl)
Billy Drewes(as,ss,cl,fl)
Rich Perry(ts,fl)
Ralph LaLama(ts,cl,fl)
Gary Smulyan(bs)
Jim McNeely(p)
John Riley(ds)
Dennis Irwin(b)
③Quiet Lady
サド・ジョーンズの曲です。
このビッグ・バンドらしく、
非常に軽快なアレンジが光ります。
曲の冒頭、少しホーン・アンサンブルが入った後は、
しばらくピアノ・トリオで展開します。
これが実におしゃれ。
時にシンプルさに徹する潔いアレンジが素晴らしいのです。
フルートを中心としたホーン・アンサンブルが
さわやかに流れた後は、バリトン・サックスのソロ。
現在、リーダー作を次々に発表している
ゲイリー・スマライアンの演奏です。
ゴリゴリしたバリトンが軽快なリズムに乗っているのは
なかなか気持ちいいです。
ビッグ・バンドのスケール感と、ミニ・コンボ的な性格が
交互に現れる、心憎い曲となっています。
⑦Groove Merchant
サックス奏者のジェローム・リチャードソンが作曲。
サド~メル時代からの代表的なレパートリーで、
私の学生時代は確かNHKのFMジャズ番組で
この曲がオープニングに使われていました。
タイトル通り、ご機嫌なグルーブにあふれた曲で、
寄せては引いていく各種ホーンのアレンジを
心行くまで楽しみたいところです。
1分20秒過ぎから、
サックス陣~トランペット陣へとメロディ提示が
移り変わりますが、その転換も実にスムーズ。
ホーンの役割がめまぐるしく変わっても
まったく違和感がなく
むしろ、気持よく「流れ」ていくことに
このバンドの底力を感じます。
もう一度NYを訪ねることがあるでしょうか。
村上春樹さんも書いていますが、
実はNYにジャズを聴きに行くのはけっこう大変なのです。
昼夜がちょうど逆転しているので、
時差ボケが激しく、夜にジャズを聴いていると
必ず眠たくなるのです。
本当は出張で体を慣らしてからクラブに行くぐらいが
ちょうどいいのですが、
会社の中での仕事が多い今、
なかなかそういう機会はないんだろうなあ・・・・。
今度はロレインさんに
「クラブを守ってくれてありがとう」
と言いたいのですが。
