ドミノ/ローランド・カーク | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Domino


アメリカの国際ピアノ・コンクールで優勝した

辻井伸行さんの話題が盛り上がっています。

先の週末に行われた凱旋公演ではチケットが

完売だったそうですね。

全盲というハンディキャップがありながら、

曲を完全に暗譜し、表現力豊かなプレイをするというのは

驚くべきことです。

まだ20歳という若さ。

これから周囲がうまく配慮して

彼が才能を伸ばせる環境を整えていくことを願います。


辻井さんをめぐる華やかな報道を見ていて、

ふと盲目の黒人ジャズ・ミュージシャンのことを思い出しました。

サックスを中心としたマルチ・リード奏者、ローランド・カーク。

ジャズ界の中でも異彩を放つ才人です。


1936年の8月7日、アメリカのオハイオ州に生まれた彼は、

2歳の時に目薬の事故で失明しています。

その後、音楽に興味を持った彼は、

トランペットやクラリネット、サックスを演奏。

16歳になったとき、彼の運命を決定づける出来事がありました。

3本のサックスを自分が吹いている夢を見たのです。

早速、楽器店に駆けこみ、

彼がテナーと同時に吹くようになる

マンゼロという楽器(ソプラノ・サックスの一種)を見つけた、

ということです。


細かな事の真偽はともかく、

彼はテナーに加え、マンゼロ、ストリッチという3つの楽器を

同時に吹くという離れ業を身につけてしまいました。

さらに演奏でサイレンを使ったり、

鼻につけたホイッスルを鳴らしたり、

パーカッションを体にくくりつけたりと、

その姿は相当異様に見えたそうです。

実際、私も彼の有名なリーダー作「溢れ出る涙」

↓のジャケット写真を見たとき、「恐い」と思いました。


The Inflated Tear



見た目のインパクトで時にゲテモノ扱いされたカークですが、

音楽は実に真摯なものです。

聴いていると、「表現したい音」がひしひしと伝わってきます。

彼がマルチ・リード奏者になったのは「受け」を狙ったのではなく、

この方法でしか伝えられないものがあるからなのでしょう。

そういう意味で、非常にまっとうなジャズなのです。


今回、ご紹介する「ドミノ」は彼の代表作の一つ。

カークは、この作品が録音されたのと同じころ、

ロイ・ヘインズ(ds)の「アウト・オブ・ジ・アフタヌーン」にも

参加しています。

ここでのカークのプレイも有名で、

波に乗っていたころだと言えるでしょう。

「ドミノ」ではへインズがサイドで参加していて、

時に「アウト・オブ・・・」と似たような雰囲気が

漂うのも興味深いところです。


1962年4月と9月の録音。


4月のメンバーは

Roland Kirk(ts,stritch,manzello,fl,siren)

Andrew Hill(p)

Vernon Martin(b)

Henry Duncan(ds)


9月のメンバーは

Roland Kirk(ts,stritch,manzello,fl,siren)

Wynton Kelly(p)

Vernon Martin(b)

Roy Haynes(ds)


①Domino

もともとシャンソンの曲らしく、

カークのフルートでメロディが提示されると

エキゾチックな独特のムードが漂います。

ソロに入ると、カークはマンゼロに持ちかえ、

ややアグレッシブな演奏をしますが、

これも曲調にぴったりと合っています。

曲のラストで様々なリード楽器を使って一気に

盛り上げる手法は賛否が分かれそうですが、

彼らしい激情が表れていて、

私は面白いと思いました。


③Time

ピアニストのリッチー・パウエルが残した名曲。

こうした曲を選ぶところにカークのセンスを感じます。

美しいバラッドの魅力をそのままに、

フルートで吹いていく。

いい演奏のために、こうしたストレートな

アプローチを辞さないところが

彼の良いところでしょう。

緊張感あるプレイはエリック・ドルフィー(sax,fl)を

思い出させます


⑦Get Out Of Town

ここからはウィントン・ケリー(p)らが入った

グループでのセッション。

コール・ポーターの曲を快調に料理しています。

ケリーの転がるようなピアノと、

へインズの押しの強いドラムに乗って、

カークがメロディを歌いあげる。

まるでレギュラー・グループであるかのような

一体感のある演奏です。

カークはソロの途中でマンゼロ(?)からテナーへと持ちかえ、

さらに得意の「同時吹き」へと展開することで

独特のサウンドの厚みを出すことに成功しています。


⑨I Believe In You

カークの緊張感とリラクゼーションが

適度なバランスで表れた快演です。

ここでのカークのテナーは「安心できる厚み」があって、

実に心地よい音を響かせる。

ソロの流れが実にスムーズで、

いつまでも聴き惚れていたくなるのです。

ゲテモノどころか、実に正統的なテナーです。


ピアニストの辻井さんとは違い、

生涯にわたって名声とは縁遠かったカーク。

しかし、彼の異様な出で立ちや盲人という

ハンディキャップについて距離を置くことができる今、

その音楽は冷静に評価されるべきでしょう。

ジャズ界の巨人として殿堂入りしてもおかしくないと

思うのですが。