長い間ジャズ・ファンをやっていると、
必ずぶちあたるのが「日本制作盤問題」
ではないでしょうか。
「問題」と表現してしまうと申し訳ありませんが、
日本のレコード会社によってプロデュースされた
海外ミュージシャンのジャズ作品には、
いくつかの傾向があります。
一つ、録音に「強さ」がない。
なぜなのか分かりませんが、
腹に響くような力強さに欠ける録音が多いのです。
ジャズの大きな魅力の一つに、
人間の肉声を感じさせる生々しい音色というのがあるので、
これはかなり減点になります。
強烈な個性が好まれる欧米と、
繊細な感性を持つ日本人の違いかもしれません。
ただ、海外の録音と比べると、同じミュージシャンの演奏でも
日本制作盤の方がスケールダウンしたような感じがして、
がっかりしてしまいます。
二つ目。ジャケットが安易。
最近はヴィーナスレコードが
ミュージシャンを問わず、
ヌード写真をジャケットにしています。
まあ、ここまで徹底してやられるとポリシーなんだな、
とあきらめもつきますが・・・・・・
それでも、自社のポリシーに対する「愛」はあっても
ミュージシャン及び音楽への「愛」は足りないような気がします。
本当に音楽内容が好きなら、
それに合致したジャケットを作りたい、
と思うのが自然ではないでしょうか?
ヴィーナスに限らず、安易な写真の使用などが
日本制作盤には多いことに、落胆してしまいます。
三つ目。曲の選び方が偏っている。
私もそうなのですが、ジャズ・ファンには「スタンダード好き」が多い。
そんな固定層をねらっているのか、スタンダード集が非常に多いのが
日本制作盤の特徴です。
確かに、「このミュージシャンがどう曲を料理するのか」
という関心はありますし、しばし購入を検討したくなります。
しかし、だいたいの「出来高」が読めてしまうと、
結局、買うまでには至りません。
ジャズ・ファンにはミュージシャンの試行錯誤や
個性のぶつかり合いによる「化学反応」が
楽しみな人も多いはずです。
「この曲が入っていれば売れるだろう」という
レコード会社の意図が見え見えで、
「安全パイ」をねらった作品では、
買う意欲がわかないのです。
先日購入したフレディ・ハバード(tp)の「バラの刺青」。
これは、典型的な日本制作盤です。
録音は有名なエンジニアであるルディ・バン・ゲルダ-が
アメリカ・ニュージャージーの自己のスタジオで行っているので、
一つ目の傾向はあてはまりません。
しかし、ジャケットはフレディのポートレイトが
テーブルに置かれているという、超安易なもの。
しかも、その写真は日本のジャズ雑誌「スイング・ジャーナル」の
表紙ではありませんか!
雑誌とのタイアップ企画であることが一目で分かり、
「もう少し芸はないのか?」と落ち込みます。
さらに、例の如く「スタンダード集」。
「星に願いを」「マイ・ロマンス」「マイ・フーリッシュ・ハート」・・・・・
いかにも売らんかな、ではありませんか。
じゃあ、なぜ買ったのか。
それは、メンバーが気になったからです。
ご紹介しましょう。
Freddie Hubbard(tp)
Ricky Ford(ts)
Kenny Barron(p)
Cecil McBee(b)
Joe Chambers(ds)
この強力なメンバーが1983年の12月に
どんなプレイをしていたのか?
それだけが知りたくて、購入しました。
といっても、中古で見つけていなければ
買っていなかったかもしれません。
私としては「安物買い」をした気分だったのです。
すると・・・・なかなかいいではありませんか!
おそらく、成功のカギは一つだけ、
しかし重要なトライをしたことにあります。
それはハバードにミュート・トランペットを吹かせたこと。
ご存知のようにハバードはオープン・トランペットでの
力強く、派手な演奏を得意とします。
それが、ここではミュートで全編バラッドを吹くという、
かなり無理な要求をつきつけられ、相当苦労しています。
ですが、「この不安定感」がベテランに初々しさをもたらし、
独自のサウンドが生み出されているのです。
彼のバラッドにおける意外な側面を引き出したという一点で
評価される作品でしょう。
①When You Wish Upon A Star
良く知られるディズニー映画「ピノキオ」の主題曲。
メロディを聴くだけで、ミュートを使うハバードの新鮮な気分が
伝わってきます。
マイルス・デイヴィスとは違い、力が少々入り、明るい音色。
ソロに入っても、ハバードは力を抑えきれないようで、
時に息がオーバー気味なのが分かります。
でも、ミュートがみんなマイルスのように繊細でもつまらない。
こういう明るいミュートがあってもいいではないですか。
ソロでついついスピードが出てしまうところがいかにも
彼らしくおかしい(笑)。
ケニー・バロンのピアノも落ち着きながら楽しい雰囲気があり、
なかなかです。
⑤The Rose Tattoo
アルバムの中でもスローに徹し、かなりマイルス的(?)な
アプローチをした一曲。
①の軽快さとは異なり、
集中した演奏をするハバードを聴くことができます。
メロディをじっくりとハバードが吹いたあと、
バロンの威厳あるトーンのソロが続きます。
そこから、闇夜から浮かぶがごとく、
渋いミュートが響き渡ります。
うーん、「マイルス風か?」と思わせるのですが、
影響は受けていても、やはりうねり方、
内に秘めたパワフルさが違う。
ミュートであっても楽器を「鳴らし切る」スタイルが
ハバードなのでしょう。
⑥Time After Time
シンディ・ローパーの曲ではありません。スタンダードです。
①と⑤では、ホーンはハバードだけですが、
ここではリッキー・フォード(ts)が加わります。
くつろぎのミドル・テンポで、ソロはピアノ~テナーと続きます。
リッキー・フォードはどちらかというと「おとぼけ」テナーで、
リラックスしたソロ。
そう言えば、最近、こういうつかみどころのない味わいがあるテナー、
少ないですね。
テナーからソロを引き継いだハバードの、最初の数音が素晴らしい。
実に愛情とユーモアにあふれた音色で、語りかけてくるようです。
こんな音を出してくれただけで、ハバードに感謝したくなります。
日本制作盤にも宝がありますね。
できれば、この作品のようにジャケットが悪くてもいいから、
「こんなトライをした!」というものがより多く出てくることを願います。
日本はジャズに対する愛情が深いことは間違いないのですから、
きっとできるはずです。
