ラーメンのことを考えていました。
私の仕事は時間が不規則なので、
食事もしないまま夜遅くなってしまうことがよくあります。
そうなると、帰りがけに開いている店は居酒屋かラーメン屋ぐらい。
一人で居酒屋に入るのは苦手なので、おのずとラーメンになります。
数多くの店がある中で生き残らねばならないのでしょうが、
スープの能書きが長々と書いてあるところが多いですね。
「○○と□□を▽日間煮込んだ秘伝のスープ」などなど、にぎやかです。
しかし、正直なところ「これはうまい!」というお店は
なかなかありません。
「なるほど、凝ってるなあ」と思うことはあるのですが、
それが「美味しさ」と結びついているかというと、
ちょっと違うような気がするのです。
それでは、自分が今まで食べてきた中でいちばん美味しかった
ラーメンは何か、と考えました。
すると、「子供の頃に祖母が作ってくれたラーメン」という結論に
たどり着きました。
家庭で作るラーメンなので、祖母がすごく凝ったことをした
はずはありません。
スープだって、売っていた粉末スープに
ちょっと手を加えた程度だったでしょう。
しかし、おそらく子どもの好みを考えた上で、
「濃すぎず、薄過ぎず」の味付けをしてくれたのだと思います。
たかがラーメンですが、やはり「万人のために作られたもの」と
「相手を思って作られたもの」では違います。
愛情が込められているものが一番美味しいのでしょうね。
音楽も、時代と共に古びていくか、輝きを失わないのかを決めるのは、
演奏に込められた「愛情」によると思います。
私が中学生時代から聴いているトランペッターのクリフォード・ブラウン。
この人の愛情あふれるプレイはどれほど時代を経ても新鮮です。
一音一音に気持ちが入っていて、鋭いのに温かい。
今回ご紹介する作品は、ブラウンがドラマーのマックス・ローチと
組んでいたクインテットのもの。
私をジャズの世界に引きずり込んでしまったアルバムの一つです。
1956年の録音。
Clifford Brown(tp)
Max Roach(ds)
Sonny Rollins(ts)
George Morrow(b)
Richie Powell(p)
①What Is This Thing Called Love
一曲目にふさわしい、ドラマチックな構成が組まれています。
最初、おどろおどろしい(?)イントロで始まるのですが、
ここで既にブラウンの気合いの入ったトランペットが響き渡り、
すごいことが始まりそうな予感がします。
イントロから絶妙の間を置いて、
感情を抑えながらブラウンがメロディを吹く。
これに続くソロの一音目、その響きのすごいこと!
爆発しそうな破壊力なのですが、力任せではなく、
実に安定しています。
それでいながら火が付きそうなほどの熱い音色。
短いソロなのですが、いつも圧倒されます。
続くロリンズもなかなかのソロを取るのですが、
ブラウンの前にちょっと影が薄いのはやむを得ないでしょう。
ピアノ・ベースのソロを経て、ホーンとドラムによる応酬となります。
ここでのローチとブラウンのソロがまた熱い。
この時代のジャズの熱気を伝える名演でしょう。
③I'll Remember April
ラテン・リズムによるイントロが斬新です。
明るいリズムに乗ってブラウンとロリンズが吹くメロディが
実に気持ちいい。
ブラウンから始まるソロは①のような攻撃的なものではなく、
やや穏やかで、伸びやかなものです。
しかし、気持ちの入り具合は相変わらずで、
淀みなく高速フレーズを連打しながら、
あったかさを感じさせる演奏になっています。
ロリンズのあえて速度を落としたと思わせるソロに入ると、
バックで正確なビートを刻むローチの存在が気になってきます。
熱いブラウンに対して冷静に応えるドラマーがいたことが
このバンドの成功した理由なのでしょう。
⑦Gertrude's Bounce
ピアノのリッチー・パウエルが作曲した、とても明るい曲。
個人的に大好きです。
ブラウンはここで非常に演奏を楽しんでいるようで、
空間を自在に飛び回るようなソロを鮮やかに吹き切っています。
飾り気がないのに説得力がある、すごいですねえ。
他のメンバーも楽しげで、いいバンドだったんだろうなと
想像します。
ブラウンが自動車事故で亡くなったのはわずか25歳の時。
演奏を聴いていると、
彼よりもはるかに歳を重ねてしまった自分が、
ここまで情熱を打ち込んだものがあっただろうかと
恥ずかしくもなります。
「愛情」が持つ力を改めて実感した作品でした。
