ジェル/ジェリー・マリガン | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Jeru


バリトン・サックス奏者、ジェリー・マリガン。

私にとってこの人は初めての出会いからずっと「眩しい存在」です。


マリガンとはまず、映像で出会いました。

もう20年以上前、高校生だった私は、札幌の「act」というジャズ喫茶に

たまに顔を出していました。

札幌・ススキノの中心部からほど近いところにあったジャズ喫茶で、

地下にある扉を開けると、店内は照明が最小限の渋い雰囲気。

高校生にとっては「隠れ家」のようで、非常にワクワクしました。


このお店には大きなスピーカーがあり(JBLだったかな?)、

かなりの音量でジャズがかかっていました。

マイルスの「リラクシン」を初めて聴いたり、

当時大きな反響を呼んでいたギル・エヴァンス・オーケストラによる

「ライブ・アット・スイートベイジル」の不思議なサウンドに

びっくりしていたものです。


この店にはモニターもあり、ある時、レーザーディスク(懐かしい!)が

かけられました。

ディジー・ガレスピー(tp)のオーケストラを収めたもので、

節目節目で豪華ゲストが参加する、という内容。

ここに登場したのがマリガンでした。

確か、ガレスピーが「アメリカ合衆国の宝です・・・・」

というような紹介をしていたことを覚えています。

既にマリガンは「髭もじゃ」の人になっていましたが、

私は初めて見た彼のプレイに衝撃を受けました。


あの重たく、複雑な形をしたバリトン・サックスをいとも軽々と操っている!

しかも、その音色は驚くほど軽快で、非常にスイングしている。

「この人は何者なんだ?」と思いながら、見とれてしまっている自分がいました。

カッコいい・・・・


それから、レコード店でマリガンの作品を探し始めたのですが、

当時の札幌では今ほど彼の作品が店頭になく、思うように聴けませんでした。

そうこうするうち、映画「真夏の夜のジャズ」をテレビで見て、

若きマリガンのカッコよさにノック・アウト!

1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルの様子をドキュメントした

この映画には、マリガンが随所に出てきます。

昼間の練習でピアノをつまびくマリガン、

「ジェリー・マリガンを聴きにきた!」と語る観客、

夜のカルテット演奏・・・・

これらを見て、ますます私は彼の音楽を聴きたくなりました。

「視覚」から入ったという意味で、「ビジュアル系」というか、

ちょっとミーハーな入り方をしたのかもしれませんね。


彼の作品、お気に入りのものがたくさんありますが、

その一つがこの「ジェル」です。

スイング、軽快さ、率直さ・・・・

最初の彼との出会いで聴いた(見た?)印象に近い気がするのです。


1962年、ニューヨークでの録音。

マリガンが35歳の時の作品です。

メンバーは以下の通り。


Gerry Mulligan(bs)

Tommy Flanagan(p)

Ben Tucker(b)

Dave Bailey(ds)

Alec Dorsey(conga drums)


①Capricious

最初のメロディーを聴いただけで、

マリガンが肩に力を入れず吹き切っていることが分かります。

あの楽器でこれだけのリラックスした雰囲気を出せる、

やはりすごいなあと思います。

ソロでも音は太いものの、軽快さは変わらず。

コンガのリズムとバリトンの音色が溶け合い、

何とも気持ちいい音空間が生まれています。


⑤Get Out Of Town

この曲ではマリガンの音色がさらに軽く感じられます。

メロディに合わせ、重さを排除したかのような音色なのです。

そして、曲に複雑なアレンジは施さず、ストレートに吹き切る姿勢。

変な言い方ですが、覚悟ができているというか、

悟りを開いているかのような潔さです。

フラナガンのピアノと呼応しながら進む後半部も魅力的です。


⑥Blue Boy

バリトンをよくぞ歌わせた!というバラッド。

途中テンポを変え、「おや?」と思わせるテーマ部。

そこから再びスローなテンポに戻し、

ピアノ・ソロに移行する組み立てもうまい。

マリガンのソロは音数の少なさを生かした、訥弁タイプのもの。

説得力があります。


⑦Lonely Town

タイトルとは裏腹に、サンバ調のリズムが一番よく利いた、

楽しいトラック。

マリガンは後にボサノヴァに興味を示した作品も残していますが、

こういう快楽的なアレンジも好きだったのでしょう。

ここでも軽妙な味わいで演奏しています。


やはり、いま通して聴いてもマリガンはカッコよく、古びていない。

「永遠の青春映画スター」みたいな人です。

ジャケット写真もなんだか映画のワンシーンみたいではありませんか。