インドのムンバイでテロがありました。
事態は沈静化の方向に向かっていますが、
犯人グループの背景はいまだにはっきりしていません。
世界がまだ「テロの時代」にあることを改めて
思い知らされた事件でした。
年末になるというのに、暗い話題が続き、
やるせない気分になります。
時代が揺れている時に聴いた音楽、
なかなか忘れられないものです。
私にとっては、ノラ・ジョーンズのデビュー作となる
このアルバムがその一つとなっています。
最初にお断りしておくと、
この作品はジャズではありません。
ヴォーカリストであり、ピアノも弾くノラ・ジョーンズ。
今年は彼女が主演した映画
「マイ・ブルーベリー・ナイツ」が公開されたことから、
その存在をご存知の方も多いと思います。
音楽のジャンルとしては「カントリー・ロック」(?)でしょうか。
このアルバムでは、ラブ・ソングや
子ども時代への郷愁といったものを淡々と歌っています。
本作がジャズ・レーベルのブルー・ノートから
発売されたのは2002年の2月。
私は、たまたま輸入盤店で、
彼女の中低音を生かしたハスキーボイスと、
素朴な曲を聴き、何となく気になってCDを購入しました。
メジャー・レーベルからの発売だったとはいえ、
その頃はまだ、彼女の存在は
本国でもあまり知られていませんでした。
ところが・・・・その1年後、事態が大きく変わっていました。
私は仕事で2003年の2月にアメリカにいたのですが、
その時、ニューヨークの街中で
彼女の歌声を頻繁に耳にしました。
何と、彼女はこの年のグラミー賞で
最優秀アルバム賞をはじめとする
8部門を受賞したのです。
新人として、いや大物ミュージシャンでも
なかなか真似ができない、ものすごい快挙でした。
しかし、この受賞を伝える
テレビニュースを見た私には、疑問がありました。
「確かに、センスのいい音楽だけど、
内容はどちらかと言えば地味。
なぜ、ここまで評価されているのか?」と。
その答えは正確には分からないのですが、
おそらく大きく影響していたのが
「迫りくる戦争」だったのでは、と思っています。
ノラ・ジョーンズの受賞が報じられた時、
アメリカはイラク戦争の準備を進めていました。
当時、ニューヨークやワシントンにいた者の目からすると、
多くのアメリカ人は
「戦争はイヤだけど、ここまできたらしょうがない」
という受け止め方をしているようでした。
まだ2001年9月の同時多発テロが
記憶に色濃く残っていた時。
「アメリカの安全を守る」という大義に
どこか胡散臭さを感じながらも、
多くの人々は「戦争やむなし」という方向に傾いていました。
そんな時、人々の心を打ったのが、
穏やかなハスキーボイスでした。
平凡な愛情や、子供への温かいまなざし。
恋人に「偽りで誘い込もうとする人々がいないところへ行こう」と
呼びかける歌詞(“Come Away With Me”)。
国民の中に嫌なムードが漂う中、
非常に真っ当な幸せを歌うノラの曲は、
一服の清涼剤となっていたと思えるのです。
私が好きな曲があります。
⑭The Nearness Of You
ピアノとヴォーカルだけで演奏される、
ジャズ・スタンダードとしても知られる曲。
「あなたが側にいさえすれば幸せ」という意味の、
どちらかと言えば他愛のない歌詞が続きます。
しかし、静かなピアノに乗せて歌われるこの歌詞が、
あの当時、人々の心をとらえて離さなかったのでは、
と想像してしまいます。
戦争で愛する人と一緒にいられる
幸せが続かなくなるのでは、
という不安を抱えた人々に。
もちろん、ノラ・ジョーンズ自身には
そんな意図はなかったでしょうが、
「時代が音楽を選ぶ」時があると思います。
あれから5年、その後の世界の混乱を考えると、
「あの戦争は何だったのか?」と思わざるを得ません。
そして、ノラ・ジョーンズの歌も、グラミー受賞の時ほど
熱く迎えられていないような気がします。
いま、アメリカ大統領も変わることになり、
世界もまた変わろうとしている。
いまだ困難なこの時代に
受け入れられる音楽とは何なのでしょうか。
