親分がうっとうしい。
どんな組織でもリーダーというのは部下からすると「重たい」もの。
リーダーからは「何でも言ってくれたまえ」とか言われますが、
そんなに簡単に打ち解けられるわけはありません。
うっかり本当のことを言おうものなら、大変なことになります。
それでは、親分が急にいなくなったらどうなるか。
そんなことが現実に起こったのが、今回ご紹介する作品です。
1957年、ディジー・ガレスピー(tp)楽団でウエスト・コーストのツアーに
参加していた7人のメンバーが、リーダーの目の届かないところで
セッションをしたのです。
「今日は俺たちが主役だぜ!」とばかり、張り切っているのが
サウンドからビシビシ伝わってきます。
それでは、集まったメンバーが解放感で騒ぐだけ騒いで、
おもちゃ箱をひっくり返した状態になったかと言うと、そうでもないのです。
このアルバムには、ロジャー・スポッツとベニー・ゴルソンが
アレンジャーとして参加していて、
暴れん坊たちの手綱を引いているのです。
その結果、元気ハツラツの演奏もあり、
アレンジが生きた完成度の高いものもありと、
面白い作品になりました。
メンバーは以下の通りです。
Lee Morgan(tp)
Al Grey(tb)
Billy Mitchell(ts)
Billy Root(bs)
Wynton Kelly(p)
Paul West(b)
Charles Persip(ds)
①Dishwater
冒頭、アルバム全体でもハイライトとなるソロがいきなり始まります。
ウイントン・ケリー(p)のピアノから繰り出される急速調ソロ。
メロディーも弾かず、いきなりソロをとるのは難しいはずですが、
親分のいない解放感からか、フレーズが出てくる出てくる。
それも、後期のケリーに見られる、お得意の節を重ねるタイプのソロではなく、
湧き出るアイディアをポンポン放つ感じで、まるで泉のようなのです。
他のメンバーが「あいつ、いっちゃったな・・・・」と
目を丸くしている光景が浮かんでくるようです。
その後、ホーン群がメロディーを奏で、ソロを取るのはリー・モーガン(tp)。
ここでの彼はケリーに触発されたのか、非常に攻撃的です。
次第にテンポを上げていき、高音をどんどんヒットさせる。
かなり高度なことを難なくやっているように聞こえ、憎たらしいぐらいです。
当時、若干18歳。全く、信じられません。
このトラックではビリー・ルート、アル・グレイも続き、
メンバーでソロを回していく、典型的なジャム・セッションのスタイルを
とっています。
「好き放題できる」喜びが爆発した、最も生きのいいトラックです。
④Whisper Not
おなじみのゴルソンによる名曲。
モーガンの演奏としては、ブルー・ノートに残したものの方が
はるかに有名ですが、この演奏もなかなかです。
ミュートをつけたモーガンが、ひねってみたり、飛び跳ねてみたり、
いろいろな表情で迫ってきます。
一体、どうしたらこういうセンスが身に付くんでしょうね。
続いてのケリーは①とは打って変わって曲調に合った渋いソロ。
全体にミュージシャンがゴルソン・ハーモニーに染められ、
統率のとれた演奏となっています。
⑥Day By Day
アル・グレイののんびり・ほんわかトーンが光るバラッド。
メロディーからそのままソロにつながるグレイのプレイは、
本作の中で彼が最も生きている部分だと言えるでしょう。
「あんまり細かいこと考えなくてもいいや」と思いたくなるほど、
トロンボーンの包容力に救われる演奏です。
⑧Over The Rainbow
有名なスタンダード。
ホーン群による印象的な音のさざめきから、
ビリー・ミッチェルのテナーが立ち上がってきます。
曲への愛情が感じられるじっくりとしたアプローチで、
ビッグ・バンドで鍛えられた上質の展開力もあります。
これを聴くと、彼はもっと評価されていいミュージシャンではないかと
思ってしまいます。
全体を通じて、個々のミュージシャンがリラックスしながらも
一生懸命プレイをしています。
「親分の仕事」だけじゃないんだ、自分を聴いてくれー
日頃から磨いていた技を披露する絶好の機会を大切に
したのかもしれません。
考えてみると、親分の庇護がない時にでも実力を発揮できる、
それが本当のプロなのかもしれませんね。
