秋。
ジャズ・ファンで秋と言えば、
「枯葉」と「ニューヨークの秋」を思い出す方、
多いのではないでしょうか。
デクスター・ゴードン(ts)が「ニューヨークの秋」を演奏する。
年季の入ったジャズファンなら、このシチュエーションは特別な意味を
持っています。
映画「ラウンド・ミッドナイト」(1986年公開)で
デクスター・ゴードンはジャズマンを演じました。
落ちぶれたテナー奏者が、友人の助けを借りて再起するという物語は、
麻薬で浮き沈みのあった彼の人生とあまりにも重なりすぎて、
私などは半分ドキュメンタリーとして見てしまいました。
この映画で、重要な役割を果たしているのが「ニューヨークの秋」です。
デクスター扮する主人公が、一時コンディションを崩し、
「歌詞を忘れたから吹けない」と言ったのがこの曲。
落ちぶれたとはいえ、「うた」を大切にしていることを印象付けるセリフ、
じーんとくるものがあります。
その後、映画の中では、じっくりとこのバラッドを歌い上げるシーンが出てきます。
主人公が回復したことを象徴的に伝える演奏で、
このシーンにも胸が熱くなりました。
今回、ご紹介するのは映画よりはるか前、1955年に録音された
「ニューヨークの秋」です。
しかし、演奏内容は、30年後の映画のそれと驚くほど似ています。
正直、ちょっとだらしなくも聞こえる、ハリのない雰囲気。
それでいながら、メロディーを慈しんでいる者にしか出せない、
温かく、「うた」をかみしめるかのような一つ一つの音。
微妙にメロディーを崩しているところもありますが、
奇をてらっているのではなく、愛情をこめて「うた」を生かそうとしている。
この人は曲を理解し、大切にしていたんだなあと、納得してしまいます。
ジャズの評論ではよく「進歩」が求められますし、
この曲に限ると、デクスターにはそれがなかったのかもしれません。
でも、私は彼が「一本筋の通った」ジャズマンだったのだと
改めて評価したくなりました。
おそらく、「音楽への愛」という基本がずっとぶれない人だったのでしょう。
それにしても「ラウンド・ミッドナイト」のサントラ盤に「ニューヨークの秋」が
収録されていないというのは、どうした訳なのでしょう?
「ラウンド・ミッドナイト」のコンプリート版サントラが出ることを強く望みます。