私はいま、「ものづくり」に近い仕事をしています。
製造業ではないので、ちょっと誤解を招く表現かもしれませんが、
会社のスタッフと共に理想の「もの」を模索し、
何とか形にする、という日々を送っています。
こうした仕事をしていて認めざるを得ないのは、
「毎日、ベストのものを作るのはムズカシイ」ということです。
私のような凡人の場合はもちろんのこと、
相当優秀な人でも、常に高得点をだすのは大変です。
アイディアが出てこない、体調などのコンディションがすぐれない、
キーパーソンと連絡が取れない、天気が悪かった、
モノが調達できない・・・・・
いろんな障害が立ちはだかる中で、
「これで手を打つか」ということになるのもしばしばです。
前置きが長くなりましたが、ジャズの巨人ソニー・ロリンズ(ts)が
1956年にレコーディングした「ツアー・デ・フォース」。
「力作」を意味するタイトルが示す通り、
ロリンズが非常にがんばっているのですが、
「ベスト」にはたどり着かなかった作品です。
この作品の半年ほど前、ロリンズは大傑作である
「サキソフォン・コロッサス」を吹き込みました。
乗りに乗っている時期ですし、このレコーディングでは
ピアニストのケニー・ドリュー、ドラマーのマックス・ローチという
素晴らしいサイドマンもいます。
当然、ある程度のレベルには達しているのですが、
わずか一日のレコーディングの中で、
ロリンズはなかなか「突き抜けた」演奏をすることが
できなかったのではと推察します。
一曲目から骨太なブロウをするものの、「サキソフォン・コロッサス」のような
絶妙なテンポ・抑制・バランスがないのです。
何となく「流れてしまっている」とでも言うのでしょうか。
決定的な聴きどころがないトラックが多いのです。
勝手な想像ですが、ロリンズは乗り切れない中で、
「きょうは、ほどほどの演奏で終わってしまうのか・・・」
という焦りを感じていたのではないかと思います。
しかし、そこは偉大なジャズマン、結果を残したトラックがありました。
2曲だけ男性ボーカルのアール・コールマンが参加しているのですが、
バラッドで歌伴を務めるロリンズのプレイが見事です。
おそらく、ピアノトリオ+テナーという、
典型的なカルテットでは発揮できなかった歌心が、
渋いボーカルによって刺激されたのでしょう。
「つかず離れず」という、お手本のような歌伴をしています。
ジョニー・ハートマン(vo)との組み合わせでジョン・コルトレーン(ts)が
名作を残したことを考えると、
ロリンズにも全編「ヴォーカルもの」の作品があったらなあ、と思います。
③Two Different Worlds
アール・コールマンがゆったりと、温かみのあるノドを聞かせるバラッド。
彼が歌う間、ロリンズは聞こえるか聞こえないか、ギリギリの音量で
バックをつけていきます。
その後の少々長めのテナーソロは、ヴォーカルの雰囲気に合わせた
スローで抑制の利いたものです。
最後、やや感情が入ってきますが、無理に歌いあげずに
ピアノソロに渡すところに、当時20代半ばという、
若き天才の成熟を感じます。
⑤My Ideal
ロリンズのヴィブラートが少し利いた、印象的なイントロから始まる一曲。
アール・コールマンがここでも魅力的な低音で歌います。
ロリンズのソロは短いながら、スピード、音の選び、アクセントの付け方が
実にうまい。
「もっと聴きたいな」と思わせるところで終わってしまうのがまたいいのです。
基本的に手を抜くことができないのが、「ものづくり」の宿命です。
うまくいかない時も、試行錯誤の中で結果がついてくることがある。
そんなことを思い出させ、元気を取り戻させてくれる作品です。
