ツアー・デ・フォース/ソニー・ロリンズ | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Tour de force


私はいま、「ものづくり」に近い仕事をしています。

製造業ではないので、ちょっと誤解を招く表現かもしれませんが、

会社のスタッフと共に理想の「もの」を模索し、

何とか形にする、という日々を送っています。


こうした仕事をしていて認めざるを得ないのは、

「毎日、ベストのものを作るのはムズカシイ」ということです。

私のような凡人の場合はもちろんのこと、

相当優秀な人でも、常に高得点をだすのは大変です。

アイディアが出てこない、体調などのコンディションがすぐれない、

キーパーソンと連絡が取れない、天気が悪かった、

モノが調達できない・・・・・

いろんな障害が立ちはだかる中で、

「これで手を打つか」ということになるのもしばしばです。


前置きが長くなりましたが、ジャズの巨人ソニー・ロリンズ(ts)が

1956年にレコーディングした「ツアー・デ・フォース」。

「力作」を意味するタイトルが示す通り、

ロリンズが非常にがんばっているのですが、

「ベスト」にはたどり着かなかった作品です。


この作品の半年ほど前、ロリンズは大傑作である

「サキソフォン・コロッサス」を吹き込みました。

乗りに乗っている時期ですし、このレコーディングでは

ピアニストのケニー・ドリュー、ドラマーのマックス・ローチという

素晴らしいサイドマンもいます。

当然、ある程度のレベルには達しているのですが、

わずか一日のレコーディングの中で、

ロリンズはなかなか「突き抜けた」演奏をすることが

できなかったのではと推察します。

一曲目から骨太なブロウをするものの、「サキソフォン・コロッサス」のような

絶妙なテンポ・抑制・バランスがないのです。

何となく「流れてしまっている」とでも言うのでしょうか。

決定的な聴きどころがないトラックが多いのです。


勝手な想像ですが、ロリンズは乗り切れない中で、

「きょうは、ほどほどの演奏で終わってしまうのか・・・」

という焦りを感じていたのではないかと思います。

しかし、そこは偉大なジャズマン、結果を残したトラックがありました。

2曲だけ男性ボーカルのアール・コールマンが参加しているのですが、

バラッドで歌伴を務めるロリンズのプレイが見事です。

おそらく、ピアノトリオ+テナーという、

典型的なカルテットでは発揮できなかった歌心が、

渋いボーカルによって刺激されたのでしょう。

「つかず離れず」という、お手本のような歌伴をしています。

ジョニー・ハートマン(vo)との組み合わせでジョン・コルトレーン(ts)が

名作を残したことを考えると、

ロリンズにも全編「ヴォーカルもの」の作品があったらなあ、と思います。


③Two Different Worlds

アール・コールマンがゆったりと、温かみのあるノドを聞かせるバラッド。

彼が歌う間、ロリンズは聞こえるか聞こえないか、ギリギリの音量で

バックをつけていきます。

その後の少々長めのテナーソロは、ヴォーカルの雰囲気に合わせた

スローで抑制の利いたものです。

最後、やや感情が入ってきますが、無理に歌いあげずに

ピアノソロに渡すところに、当時20代半ばという、

若き天才の成熟を感じます。


⑤My Ideal

ロリンズのヴィブラートが少し利いた、印象的なイントロから始まる一曲。

アール・コールマンがここでも魅力的な低音で歌います。

ロリンズのソロは短いながら、スピード、音の選び、アクセントの付け方が

実にうまい。

「もっと聴きたいな」と思わせるところで終わってしまうのがまたいいのです。


基本的に手を抜くことができないのが、「ものづくり」の宿命です。

うまくいかない時も、試行錯誤の中で結果がついてくることがある。

そんなことを思い出させ、元気を取り戻させてくれる作品です。