痛みというのは、とても単純なシグナルだ。
迂回せず、素早くダイレクトに、脳の視床へ届く。
危機回避を促す信号が高度な読解を求めるようじゃリスクは増すのみだから、それも当然か。
しかしどうやらその作用については、なかなか複雑な面もあるようです。
― 五反田 華〇 ―
120分:¥17,000(オイル1h:+¥2,000含)
うつ伏せと仰向け前半までの時間。
シンプルながら気の休まる完全個室で、巧みな指圧とオイルマッサージが続いていた。
黒のパンツに黒のシャツ。
黒髪のセラピスト。
記憶は曖昧だが、上着はシースルーであった気がする。
しかし透けて見える先の着衣は、いたって健全だった様な気もする。
セラピストの愛嬌ある笑顔だとか、適度な会話の距離感覚だとか、
なにより指圧もオイルも抜群の腕前であったし、
肘を使ったツボ押しの際には「やむを得ず」の優しいふくらみとの接触があったりもしたから、
コスチュームへの関心は薄れてしまったのだろう。
和室に敷かれた床ベッドの上、とても心地よい時間が流れていた。
行く前から健全店だとの割り切りもあったから、「どっちなの」というストレスとも無縁だった。
120分の施術も終わりに近づいた頃。
みんな大好き、“リンパ”の時間が始まった。
快楽の源泉を覆うものはタオルのみ。
内腿の最深部にまで届くセラピストの両手。
少し、強揉みか。
痛気持ちいい。
とここまでは、頭上に漂っていたものは、只のまどろみ一つだったのだが。
なんせ回..春の隠語である「リンパ」しか知らなかったオイラである。
あの悦びの泉のすぐ脇に、激痛の航路となる大河が流れているなど、このときは知る由もなかった。
「詰まってますね、リンパ」
そんなセラピストの声を耳に感じた次の瞬間、下半身に巨大な痛みのカタマリが炸裂した。
彼女の親指が肌を突き破らんばかりにオイラの内腿へ喰い込み、一気に上方へ流れた。
本気のリンパ施術が始まった。
瞼の裏で星が散った。
ミゾオチがきゅんと固まり、それまで柔らく霧雨状だった痛みが、連続的な豪雨となって頭蓋骨の内側で爆ぜた。
なんつって大袈裟に言ってのけたくなるくらいの感覚だった。
リンパは続く。
「ぐ、 ご、 げ・・・・・」
ぐごげって何だ?なんて思う間もない。
リンパ工場の苦痛生産ラインはフル稼働で、オイラの口からは、
意味を成さない濁音が立て続けに景気よく出荷されてゆく。
セラピストの指先に、未だ減速は見られない。
恐るべし本気のリンパ。もう耐えられそうにない。
オイラは歪み痙攣する瞼を一生懸命に開き、セラピストに憐みを乞う眼差しを向けた。
目が合った。
「少し痛いですけど、我慢してくださいね(はあと)」
少しじゃないよ!!って叫びたかったがやめた。
今の彼女に憐憫の情を期待できる筈がない。
なぜなら彼女はデトックスという正論の下、健康という正義に向かってひた走っているからだ。
正論を身に纏い、正義なる目的地へ進む人が、止まるわけもなく、止まれるわけもない。
というのはもちろん嘘だ。
無理だと言えば手加減をしてくれる、優しいセラピストであったのは間違いない。
ただのくだらないヤセ我慢。
不要な意地っ張り。
ついついオイラは耐えてしまい、リンパ帝国の処刑台へ磔にされてしまった気分で眉間にシワを刻み続け、
セラピストがリンパ管を流し終えるまでの時間、最後まで悶え苦しんでしまったのです。
「よく頑張りましたね(はあと)」と言わんばかりの、晴れ晴れとしたセラピストの笑顔とともに、
リンパ管施術は終了し、痛みの雨は嘘のように退いていった。
オイラはその微笑みを目にしてようやく、渇き切った喉へゴクリと唾を送ることが出来た。
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ビルを出て最初に感じた外の風。ふわりと暖かく、とても冬のものとは思えない。
あまりにも軽く感じるこの体は、そのふわりとした微風だけで、フワリと持ちあがってしまいそうだ。
あれだけ痛かったのは、詰まりに詰まったオイラのリンパが相当悪かったのだろうと思い、
少し不安になったが、この軽さならば心配いらない・・・・・気がする。
そしてやっぱり痛いの作用は複雑だ。
細かい気配りやマッサージの腕前も勿論なんだけれど、どうもあのリンパ管への強烈な流しが、すでに恋しくなっている。
周回遅れのMっ気なのか。
はたまた再びコリが溜まったいま、肉体がまたあの軽さを欲しているのか。
理由はよく分からないが、そんな想いに囚われている。
【備考】
施術前に「強揉み」が好きと宣告したのは、ワタクシです。
もちろんそのへんは、リクエスト可能でしょう。
足裏やリンパがあまりに痛く、ついクローズアップしてしまいましたが、トータルではすごく気持ちよかったです。
ビルは古めかしいですが、店の清潔感は問題なし。
オイル付きだと、120分とはいえ最安値が17Kなので、貧乏なオイラにとって巡回店にするのは困難。
ただ不定期にでも、ぜひ再訪したい店(嬢)です。