鋸山に登る為浜金谷へ向かった


駅でジイサンとコンさんが来るのを待つ。


「お昼はどうするかは会ってから考えましょう」

とジイサンは言っていた。


ジイサンが考えたスケジュールでは、お弁当を持って行ってどこかで食べる以外に考えられないのだけど、事前に尋ねてもみんなで合流してから考えましょうとしか言われなかった。

ということは、2人ともお弁当は用意をしていない。浜金谷駅の近くにはコンビニしかないからそこで買うか…。


食いしんぼうの私はずーっとぐるぐるぐるぐるお昼ごはんについて考えていた。

ロープウェイ山頂駅で食べるという方法もあるけれど、やっぱりアジフライを食べたいな。


10時過ぎ、ジイサンとコンさんの乗った電車がやってきた。

無事合流。


「いやー遠いなぁ、もう疲れちゃったよ」

とコンさん。

ジイサンよりは話が通じるし会話も成り立つコンさんだけど、食べること以外では他の人に任せっきりになりがちで、ジイサンがしつこく送ってきた予定もおそらく読んでいなかったのだろう。想定外に遠い上に電車が混んでいて疲れたようだ。


当たり前である真顔


「お昼どうする?アジフライ?」

とコンさん。

「アジフライのお店はさっき見たら10人くらいが外で待ってる状態でした。どのくらいの待ち時間かわかりませんが」

「とりあえず行ってみよう!」

食通のコンさんは食べる気満々である。

昨晩、登山に参加はしないクニヤンと私がアジフライの話をしていたのが気になっていたみたい。


お店の前ではやはり数人が座って待っていた。


「最後尾はどこですか?あ、名前書くの?」

コンさんが待っている人に声をかけて、素早く名前を書いた。そしてさらに周りの人に話しかける。

「ここ有名なの?」

「どこからいらしたの?」

「アジフライを食べるために横浜から!?あーそうなの」

コンさんはグイグイと周りの人に声をかけるけれど、嫌な感じは全然しない。いわゆる人たらし系ジイである。


知らない人達に声をかけまくって情報を集めてくる。


思ったよりも早く順番は来た。


はまべ定食


お店の名前がついた定食。アジフライとお刺身のセット。

すごく肉厚なゴロッとしたアジフライだった。

黄金アジではなさそう。黄金アジはそんなにたくさん獲れないらしいから。

お酒が欲しくなっちゃうけど、これから山に登るから我慢。

おいしかったデレデレ

お茶だけは水が臭いのか不味すぎて飲めなかった。だいたいどこの水道水でも平気な方なんだけど、ここのお茶は無理だった。ま、いいけどさ。


お店を出た後、外にあるメニューをもう一度チェック。

「スナコ、何見てるの?」

とコンさん。

「メニューにカジメ汁が付くって書いてあったけどワカメのお味噌汁だったから、見間違いだったかなぁと思って」

「そうだよなぁ、あれワカメだったよなぁ」


食いしんぼう2人が語り合っているそばで、ジイサンは興味なさそうにソワソワしている。

食に興味がないジイサンは片肘をついて掻き込むように食べてたものね。汁がなんでもいいのだろう。そういえばメニューすら見てなかったな。

「同じもので」

って言ってたから。


満腹になったところでいよいよ山へ向かう。


ロープウェイで山頂駅へ


鋸山は標高329メートルの山だ。

ロープウェイを降りたところは「山頂駅」となっているし「山頂展望台」があるけれど、本当の鋸山の山頂ではない。


という説明を何回しても理解しないジイサンとコンさん。

日本トップクラスの大学を出て、日本有数の企業で働いてきた人々とは思えないこれ以上、どうわかりやすく説明すればいいのかわからない。

高卒のうちの親の方が理解力があるような気がする。


正直なところ、この時点で私は山頂到達は諦めていた。

だって、私が計算したよりも既に1時間の遅れが生じている。この人達との山登りはゆる〜く行けるところまで行って下山すればいいや。


幸いジイサンは、私の話をまったく理解しないおかげで「山頂展望台」で山頂を極めたと思っているようだ。

コンさんは日本一の大仏を見たいと言う。

大仏を見ることは計算に入れていなかったけれど、いいでしょう、行きましょう!


階段をひたすら下る。


「これ、山頂駅と麓の間に向かっているのでは!?ロープウェイに乗った意味があまりないような…」

とスナコ心の声。


日本寺大仏


日本寺は「にほんじ」と読むようだ。

コンさん情報によれば、奈良、鎌倉の大仏よりも大きいらしい。


大仏を見た後はひたすら階段を登る


登る


ジイサンは、私がこの階段で行けますよと言っても信じない。すれ違う人に何度も道を聞いて確認している。そうして自分が誘導している気分になっているようだ。

「はい、あの曲がり角まで行って休憩ねー」

と仕切っている。


まったくイヤになっちゃうよ〜


コンさんは、任せると決めたら全て任せてドーンと構えているタイプ。さすが元社長。でも私からのメッセージはちゃんと読んで!

ジイサンはジイサンなのに幼稚園児みたいだ。そういえば4人兄弟の末っ子だもんなぁ。なんか小さい子の遊びに付き合ってあげている気分になってくる。


地獄のぞき


飛び出した岩の先端に、人が1人立てるくらいの展望台がつくられている。


地獄のぞきからの眺め


鋸山は、江戸時代から大正時代にかけて石切場だったそうだ。凝灰岩でできた山で、切り出した石は房州石と呼ばれ、蔵や石塀、灯篭や七輪などに使われていた。


凝灰岩と聞くと私の頭に浮かぶのは、イタリアのアルベロベッロやマテーラ。


マテーラの景色


この建物はみんな凝灰岩でできている。


旅行をする時、私は寄り道がとても多い。

だからなかなか前に進まない。それは山登りでも同じなのだけど、ジイサンがやたらと急かす。

もう鋸山山頂に到達したと思っているジイサンが次に目指すのは浜金谷駅である。猪突猛進タイプというのか、途中の景色は目に入らないようだ。


百尺観音


昭和41年に造られた観音様。戦没者病没者、空と海の事故犠牲者の供養のために造られたそうだ。


百尺観音を眺めていたらコンさんが声をかけてきた。

「あのさぁ、スマホ見てるとエロ広告ばっかり出てくるんだけど何でだろうなぁ」

「そういうサイトばっかり見てるからですよ!この人はそういうのが好きなんだろうなーってAIが判断して教えてくれるんですよ」

「おぉーそうなのかぁー」


清々しい青空の下、なぜエロサイトを見ようとするのだ?


地獄のぞきを下から眺める


下から見た方が迫力がある。


だんだんと標高を下げて行くのだけど、まだまだ見所が多い。

サクサク下山しようとするジイサンだが、私とコンさんは寄り道しまくり。


ラピュタの壁


石が切り出された後の垂直の壁。この景観がラピュタの世界観に似ていることからラピュタの壁と名付けられたそうだ。

「ラピュタだラピュタだーキラキラ

と喜ぶのは私だけ。ジイサン&コンさんは世代ではないので全然ピンと来ないようだ。

「えー何回もテレビ放送されてるのにー。パズーが目玉焼きを乗せたトースト作ってくれるシーン知りません?」

わからないだろうなーと思いながら力説する。力説する部分がちょっとおかしいけど。


車力道(しゃりきみち)


切り出した石は、女性達が下まで運んだそうだ。その時に使ったルートが今回の下山道だ。

とても歩きにくく、ボロッボロの階段もあってなかなか怖かった。自分一人運ぶのも大変なのに切り出した石を運ぶなんて、昔の人は体力がある。


車力道をひたすら下って、膝が痛くなってきた頃にようやく下山完了。そこから駅までさらに20分ほど歩いて浜金谷駅に到着した。

「駅まであと20分くらいです」

と私が言った時、

「えっ!?そんなにあるの?」

とジイサンもコンさんも驚いていたけれど、私がいなかったらこの2人どうするつもりだったんだろう。

まあとりあえず無事下山できて良かった。


本物の山頂は、またいつか登ってみたい。


さて、この日はこれで終わらない。なにしろ計画性のないジイサンが立てた計画だから、電車でさらに移動する。

私だったら登山の後は近くの温泉でのんびり汗を流すんだけどなぁー。


と、ブツブツ心の中で呟きながらも久しぶりの登山はとても楽しかった。またどこかの山に登りたい。その時はちゃんと自分で計画を立てよう。



つづく