ピクルドエッグの存在を知ったのは、この映画がきっかけだった


年末に忘年会でナミさんのパートナーのジェームズと、その息子のジェームズJr.と話した時、私はこんな質問をした。


「ピクルドエッグって知ってる?食べたことある?」


2人はスコットランド人だ。


「ピクルドエッグ…

Oh~Nooo~~~~!

あれはやめといたほうがいい」


それほど美味しいものではないのだろうということは薄々わかっていたけれど、私はずっと気になっていた。


「ジェントルメンっていう映画があって、その映画の中でマシューマコノヒーがパブでピクルドエッグを注文するの。ビールとピクルドエッグ。食べる前に撃たれちゃうんだけど。

その映画のホームページに日本人シェフが考案したピクルドエッグの作り方が紹介されていて1回作ったんだけど、本場のものはどんな感じか気になってて」


おいしくないよ、というのが2人の意見。

スコットランド人もおいしくないっていうピクルドエッグって、どれだけまずいんだ?

余計に気になる


仕事で久しぶりにイギリスへ行くことが決まった時、最初に頭に浮かんだのはピクルドエッグとラグビーだ。

シックスネーションズの真っ只中、スポーツパブでイングランド人と盛り上がれちゃうかしらデレデレと一瞬思ったけれど、タイミング悪く私がイギリスに滞在中は試合はお休み。

そんなわけで、私の渡英目的は仕事ではあるが、裏目的は本場のピクルドエッグを食べることになった。


今回お世話になったドライバーのネビルに聞いてみた。

「ねぇねぇ、ピクルドエッグって、好き?」


「好きだよ」


意外なほどあっさりと、ネビルは答えた。


「エールとピクルドエッグの組み合わせ最高だ」


「私、パブは好きだからいろいろ行ったことがあるけど、映画で見るまでピクルドエッグを知らなかったんだ。どこのパブでもあるもの?」


「うーん、土曜日の夜には置いてたりするけど、どこにでもあるわけでもないかも」


なぜ土曜日?

そこはよくわからなかったけれど、土曜日にパブに行くのはスケジュール的に無理かも。


とりあえず、忙しいツアーだとは言っても私は時間があればパブに潜り込むニヤニヤ


シェークスピアゆかりの街で


シェークスピアよりまずビール生ビール


適当に入った小さなパブは、扉を開けたら店主のおじいちゃんが1人で座ってた。

こんなところにアジア系の女が1人で入っていったからちょっとビックリした顔をしてた。


「ビールを1杯飲みたいんですが」


おじいちゃんは黒板に書かれた4種類くらいのビールを一つ一つ説明してくれた。

私はビター(エールの一種)を選んだ。

仕事中の昼間だったのでハーフパイントにしておいた。


こじんまりとした店内


ビールを味わっていると、次々と地元のお客さんがやって来た。みんなおじいちゃん。

店主が先程説明してくれた黒板の前に立ってメニューを確認して、それぞれオーダーしている。

このお店はあの黒板に書かれているのがその日のメニューらしい。


このビールは苦味と香ばしさがバランス良くてとてもおいしい。


店主が時々気を遣って声をかけてくれる。

どこから来たのか聞かれて日本と答えると、日本のどこから?と聞かれる。


Shizuoka


と答えてみるけれど、わからないみたい。わかる外国人のほうが少ないからいつものことだ。


「東京と名古屋の間」

と答えたら

「Toyohashiなら知ってる」

と言われた。


え?なぜ豊橋?

豊橋は愛知県にあるけれど、私にとっては地元と言ってもいいくらい昔から馴染み深い場所だ。


「何十年も前に日本人の女の子と付き合っていた。何度も豊橋へ行った。名古屋にも行った」

と、懐かしそうに店主は言う。


「じゃあ日本語できる?」


「いや、挨拶と数字しか覚えてない。」

と言って、1から10まで数えてみせた。

「何年も昔だから」

と言って懐かしそうにしていた。

豊橋の女の子も今頃おばあちゃんになっているのだろうなぁ。昔イギリス人の彼氏がいて…なんて近しい人に話したりしているのだろうか。


お店を出る時、店主は扉を開けて

「アリガトウゴザイマシタ」

と笑顔で言ってくれた。


ツアーには食事が含まれていることが多く、イギリスの場合はパブレストランを利用する機会も多い。

私はパブでの注文の仕方をお客様に伝授する。


お客様の注文が一通り終わってふとカウンターの端を見たら、シックスネーションズラグビーの日程を書いたお知らせのボードが置いてあった。

このお店で全試合見られるみたい。


私がそのボードをじっと見つめていたら、お店のおねえさんが

「今週はラグビーやらないんだよ」

と声をかけてきた。

「知ってる。イギリスに来るから見られるかと思ったら今週は試合がなくて残念だよ」

「ラグビー好きなの?」

「うん。去年フランスのラグビーワールドカップ を観に行ったよ。イングランドと日本の試合も見たよ。日本は負けたけど」


当然と言う顔でおねえさんはニヤリと笑った。

そして言った。


「ラグビービールならあるよ」


「ラグビービール?」


「今年のシックスネーションズのためにウチで作ったシックスネーションズラグビービール。ちょっとアルコール度数が高いんだけど試飲してみる?」


飲むちゅー

もちろん飲む!


パブでどのビールにするか悩んでいると、よく試飲をさせてくれるのだけど、この時も小さなグラスに少し注いで飲ませてくれた。


おいしいデレデレ


「これ飲みます!ところでアルコール度数はどのくらい?」


「6%くらい。3分の1パイントもできるよ」

と言われたけれど、6%ならノープロブレム!

1パイントでも全然いけるが、お客様もいるので、ハーフパイントにしておいた。


クレームするお客様にとってはサイズの問題ではなく飲んでること自体がダメなんだけど(そもそも仕事中に飲むことがダメなのはわかってる)、そこは大丈夫そうかダメそうか、空気を読んでビールを飲む。

この時は、今を逃したらこのビールは一生飲めないと思ってクレーム覚悟で飲んだ。

幸い気にしないお客様ばかりだったから良かったけど。


シックスネーションズラグビービール


ピクルドエッグは置いてあるか聞くのを忘れてしまった。この日のメニューはボリューム満点のコテッジパイだったから、エッグといえどもお腹には入らなかっただろうけど。


今回、初めて訪れる街が1箇所だけあった。

ひととおり観光して、少しのフリータイムに入った時、ガイドのキャシーに聞かれた。

「スナコはどこ行きたい?」


お客様は、この街でしか買えない紅茶を買いに走って消えて行った。


フリータイムは30分くらいしかない。

「いい感じのパブでローカルビールが飲みたい!」

OK!と言ってキャシーがパブに連れて行ってくれた。中が見えない重厚な扉を開けると、昼間なのにたくさんの人で賑わっていた。


オススメのローカルビールを注いでもらう


ブラックシープという名前のビターだ。

私がご馳走しようと思っていたのに、スナコはお客様のだから、といってキャシーが払ってくれた。


入れたてのビール


イギリス人のマネをしてやたらLovelyって言いたくなっちゃうキラキラ


パブでは仲間の1人が全員分のビールを買って、2杯目は別の誰かが全員のビールを買うのだと、昔教えてくれたのはアイルランドのドライバーさんだった。

だけど2杯目を買いに行くほどには時間が無くてご馳走されっぱなしだ。

そういえばまたピクルドエッグがあるのか聞き忘れていた。


旅の最後はロンドン。

ようやく本格的にフリータイムだ。

パブホッピングへGO!


昔、ニュージーランドのクインズタウンに滞在してイギリス人と夜な夜なパブホッピングを楽しんだ時、そのイギリス人が教えてくれたのは、ナイスなパブの見つけ方。

「3人以上の意見は聞け」

ということ。


私はその教えに従って、ホテルのフロントの人とかレストランの人などに近くにいいパブがあるか聞いて回った。


この、ナイスなパブの見つけ方を教えてもらったのは、まだ世の中の人がスマホを持つようになるよりも前のことだから、今はもっと効率の良い探し方があると思うけれど、私は割とこの教えを守っている。

通りすがりの人に尋ねたこともあるニヤニヤ

見た目で判断できるものではないけれど、なんとなくガタイが良くてビールいっぱい飲みそうなお兄さんに聞くと、皆さん親切に教えてくれる。


お店の人オススメのロンドンのラガー


「ところでピクルドエッグはありますか?」


「ピクルドエッグ!?

残念ながら今日はないよ」


あー残念。今回はパブでピクルドエッグは無理そうだな。また次回に持ち越しだ。

ピクルドエッグはなかったけれど、おいしいビールを飲み干して、次に向かったのはガストロパブ。

昔ながらのパブではなくて、食にもこだわったパブ。


ブリティッシュビア&カレー


インド系住民が多いから、ロンドンのインド料理はおいしい。

ベジカレーとナンを頼んだ。

辛さはどうするか聞かれてスパイシーでと頼んだら、本当にちゃんと辛かった。イギリスだから、ぬるい辛さかなと思ったのだけど、インドの観光地レストランよりも本格的で辛さの中に奥行きもある味わいであっという間に食べちゃった。

オクラがゴロゴロ入っていて食べ応えもあった。このパブはまた近くに泊まることがあったら行きたい場所だ。


結局、ピクルドエッグを食べるチャンスがなかったのだけど、最後にドライバーのネビルが

「スナコにプレゼントがあるよ」

と言ってドライバー席の後ろからガサガサと取り出したのは、瓶に入ったピクルドエッグ!!


「酸っぱ過ぎたら砂糖を加えて食べて。ブラックペッパーを振って食べるのがオススメ。ピクルドエッグを食べるときにはエール(ビール)とラグビーを忘れるな!

ラグビーを見ながらエールを飲んでこれを食べれば君も英国人だ」


と、食べるシチュエーションまで教えてくれた。


ネビルがくれたピクルドエッグ


こんなに食べ切れるだろうか滝汗


散々イギリスのパブで飲みまくったけれど、帰りの飛行機で飲んだキリンビールのおいしさに感動。


飛行機に乗ってしまえばもう日本


しっかり冷やしてベストな状態で出してくれる日本のビール。おいしかったぁニヤニヤ