トミコと舞台を観に行った後にサクッと飲もうということになった。

私は東京に滞在中だったけれど、トミコはどうしてもお休みが取れなくて日帰りになってしまった。だからサクッと飲むだけのつもりで東京駅近でお店を選んだ。


とりあえずビールだ


「スナコ、注文してー」


トミコは私たちのテーブル担当の人が外国人のウェイターさんだったのでビビっている。


「いやいや、普通にあの人だって日本語話すよ。ここ日本だよ!私が注文するけどさ」


「私にとってはもはや東京は海外旅行だよ。ずーっとどこにも行ってなかったから」


「4年ぶりに国境超えてきたんだ笑い泣き


そんな話をしつつ、舞台の話でも盛り上がる。


トミコが言う。

「舞台が始まるのお昼だったじゃん。ロビーでおにぎり食べてる人がいて、地図のファンはそういう年齢層なんだなぁって改めて思ったよ。しかも家から持ってきたっぽい手作りのおにぎりだった」


私は答える。

「多分さぁ、日々仕事や子育てや家事に追われていたりして、節約して節約して、時間を調節してチケット買って、すごく楽しみにして舞台を観にきたんだろうね。絶対そのおにぎり作るついでに子供とか旦那さんの分も作ってるよね」


「わかるー。あとさぁ、遠いところから上京してきている人はカレーとか作って、お父さん夕食は温めて食べてねとか言って家を出てきているよね」

と、私達の妄想はどんどん膨らんでいく。


私もトミコも、舞台を観にいって、そこのロビーでおにぎりを食べる感覚は持ち合わせていないのだけど、決してバカにしているわけではない。むしろその逆。

おそらく、新しい地図ファンの人達は私達と同年代か少し上の世代が多いと思う。


「そういうふうに日々頑張ってお金も時間もやりくりしてこの日を迎えたであろう主婦の人達の気持ちを、私達も慮れるようになってきたね〜」


と、しみじみ語り合った。

「でもさぁ、独身女2人で何言ってるんだろうね」

「確かに!絶対こんなこと話してたらおにぎりの人に怒られるよ」


舞台の最中におなかがすいちゃうから何か軽く食べておこうという気持ちはとてもよくわかる。ちなみに私はホテル朝食をガッツリ食べてきた。

この計画性こそがオバチャンの習性というか年の功というやつかも。だからおにぎりさんのことも同志みたいな気持ちになった。立場は全然違うけど。



ビールはあっという間に飲み干して、ワインリストをもらってどれにしようか考えた。

と言っても、私はグラスワインのつもりだった。なにしろサクッと飲みだから

だけどトミコが

「ボトルにする?スナコが選ぶのならなんでもいいハート

と言うから、喜び勇んでワインを選んだ。

「トミコがいいならボトル頼んじゃうよ〜。帰る時間は自分で調整して」


ワインリストはなかなか充実していて選びきれないので、「ソムリエとスタッフのおすすめ」と書いてあるところから選ぶことにした。

イタリアのプーリア州のワインconti zecca(コンティゼッカ)にしてみた。


私、3日後にはイタリア、しかもプーリア州へ行くことが分かっていたのについプーリアのワインを選んでしまった。今その時の欲望に忠実に。


さらにパテドカンパーニュとソーセージを頼み、ピザまで頼んだ。

本気で飲んで食べる体制になっている。まったくサクッと飲みではない。


ウェイターさんがワインを持ってきてくれた。

「テイスティングされますか?」


「いえ、結構です」

(一刻も早く飲みたい)

ワイングラスに程よくお上品にワインを注いでくれた。


ウェイターさんがいなくなると、私達はこそこそと話し合った。

「ボトル持ってっちゃったよ」

「グラスが開いたら注いでくれるんじゃない?」

「置いといてくれたら勝手にやるけど、こいつら勝手に飲ませたらヤバいって思われてるかも」

「なみなみ注いでくれても構わないよね。もっきりで笑い泣き


丁寧なサービスにまったく相応しくない私達。


ウェイターさんはとても優秀で、私達のグラスが空になりそうになるとすかさず注ぎにきてくれた。だけどずーっと見張られているわけでもなく、目が行き届いていた。

いい気分になってさらにチキンを追加。(恐ろしい食欲のアラフィフ)


このチキン、ものすごく美味しかった!!


私達の話題は尽きることがない。


「あーーやっぱり泊まりにすればよかったー」

と、トミコが言う。


でも時間は迫る。


だけどまだ飲む。グラスの赤ワインを追加。


赤ワインを飲みながら次回の浜松飲みと、さらにその先の東京飲みの約束をした。

まだ話し足りないから!


お会計をして、トミコを東京駅まで送り、私はホテルまでのんびり帰った。楽しかったなぁ。

高1で同じクラスになってからずーっと仲良しで、アラフィフになっても同じテンションでバカ話をして笑えるのは幸せなことだ。


トミコと再び飲みに行けるようになって、私のコロナ禍がようやく開けた気がする。