私の仕事は、日本のグループツアーをお手伝いすることだ。だから、基本的には日本人を相手にする。時々日本に住んでる外国人の方も参加していることがあるけれど、日本語が話せたり、日本語を話せる人が同行していたりするので、私がお客様に対して外国語(主に英語)を使うことはない。
そんな私に、初めてのインバウンドの仕事がやって来た。
同業の仲間達が、ちらほらインバウンドをやったよ、と話しているのは聞いていたけれど、東京に住んでる人がメインにやってるみたいだったから、私に話が来ることはなかった。
で、インバウンドの仕事についてのノウハウとかマニュアルとか、注意事項とか、上司や同僚に聞いてみても何もなかった
要はいつもやっていることの外国バージョンというわけなんだけど、おそらく世界一細かくうるさい日本人のお客様を相手にしていれば、他の国のお客様は問題なくできるはず、と思われているっぽい。いいのか、それで…。
私のインバウンドデビューはアメリカ人グループだった。
ああああー英語上手な国の人じゃーん!当たり前だけど。
できれば英語が母国語ではない国の人がよかったな。お互い母国語ではない英語でやり取りする方が難しい言い方をしない(できない)からわかりやすい。
そして、当日、ドキドキしながらお迎えのホテルへ行った。
バスが目の前に止まれなくて、10段くらいの階段を下った下の駐車場で待機する。
私は、目印にスケッチブックに団体名を書いて、ホテルロビーで待っていた。
「Good morning」
私に気付いて挨拶してくれる人、気付かず通り過ぎる人、いろいろだけど、バスを見つけて乗り込んでいく。
たったこれだけのことで、日本のお客様と外国(アメリカ)のお客様の違いを感じた。
日本人なら、必ず
「バスに乗ってもいいですか?」
と確認してくる。時には座席も取り合いにならないように決まってたりする。座席の場所取り、マジで喧嘩になるから。
そして日本人だったら、特にご年配の方は
「目の前までバス来れないの?」
と聞いてくるだろう。
その前に私も、
「申し訳ありませんが、バスが入って来られないので、あちらの階段か、このスロープを下って行ってください」
と朝っぱらから謝り倒すと思う。
アメリカ人のお客様、大きな荷物をいくつも持って、当たり前のようにバスへ向かって歩いて行った。文句みたいなことは誰も言わなかった。パワフルだな。
時間通りに全員集合して出発。
この団体さんはあるスポーツ交流のために日本に来ていた。日本のチームと交流試合を行ったりしたみたい。
私がご一緒するのは1日だけ。静岡からスタートして、東京のホテルまで行って終了だ。
静岡から東京まで行く途中で観光するという事は、絶対に富士山だよね。
富士山5合目へ行く。
あいにく富士山は朝から雲に隠れていたのだけど、山梨側のライブカメラをチェックすると山頂が見えていたからきっと大丈夫。
5合目は大混雑だった。
食事をする場所のおっちゃんがバスを降りたところまで迎えに来てくれた。それは大変ありがたいのだけど、まさかのウケを狙った説明が始まった。日本語で
訳さないといけないじゃーん!
日本人あるあるだけど、私も、英語→日本語は、自分の日本語能力を駆使してなんとかできるけど、日本語→英語はとても難しい。
ほぼやったこともない。しかもおっちゃんのウケ狙いのおもしろい感じをどう訳せというのか…。
だけど、お客様にはちゃんと伝わっていた。私の英語が伝わるというよりも、日本語だけどおっちゃんのおもしろさが伝わった感じ。
一つだけ、私が単語がわからなくて訳せなかった言葉がある。
自家発電
「ここでは自家発電が使われてます」
とおっちゃんは言った。
セルフエレクトリックなんとか…か?いや、わからん。まあいいや。とスルーした。
後で家に帰って調べてみた。
home generation of electricity
in house power generation
non utility generation
private power generation
off grid power system
private power generator
などなど、いろいろ出てきた。
どれが一番ピンとくる言い方だったのかな。
ピンと来る言い方といえば、トイレの言い方も、アメリカ人ならどれだっけ?と一瞬考えた。
先日、アメリカから一時帰国した友達のカズミは子供と話す時washroomを使っていたなぁと思い出し、マネしてみた。
私は、restroomはなるべく使わないようにしている。なぜなら、発音が下手過ぎるのか、イギリスで何度トライしてもレストランに案内された経験があるから
お客様同士で
「トイレあっちだよー」
と話しているのを聞いたら、今回のお客様は
bathroomを使っていた。
食事の後富士山山頂が見えて来た!
「スナコは富士山登ったことあるの?」
と聞かれた。
「2回登ったことがあります。確か、ここからだったら6〜7時間くらいで山頂までいけます」
途中の山小屋に泊まって夜中の2時とかに出発して登ったことなども話した。
「富士山は夜中に登山できる唯一の山です」
「なぜ夜中に登るの?」
「山頂でご来光を見るため」
ご来光は単純にsunriseでいいのか疑問に思いつつ説明。
富士山は自然遺産ではなく文化遺産だ。古くからの信仰の対象として文化を育んで来たから。
私はガイドではないから、そこまでは説明しなかったけど。
富士山の後は激混みの河口湖へ。
河口湖からの富士山
河口湖遊覧船に乗ったり、富士山ロープウェイでカチカチ山に登って景色を眺めたり。
カチカチ山の昔話が、ロープウェイ駅の壁に貼られていて
「これは何?」
とお客様に聞かれる。
私に昔話を語れと?
Once upon a time there was an old man and an old woman…
私が中学生の時に学校で習ったこの出だしの英語が30年以上の時を経て今、使える時が来た!
改めて説明してみるとカチカチ山ってなかなか残酷なリベンジ物語ね。
お客様にはめっちゃウケてた。
「日本人て時々おそろしくクレイジーだからね笑」
「これ、みんな知ってる話なの?」
「ほとんどの人が知ってると思う。私は子供の時に絵本で読みました」
お客様びっくりよ。
だって、たぬきに殺されたおばあさんが、切り刻まれてババア汁にされて、それを知らずにおじいさんがババアを食っちまったって泣いて、かわいそうに思ったウサギが復讐する話だから。
復讐の仕方がまたすごい。
たぬきの背中に火をつけて火傷を負わせ、その背中に薬だと言って塩をすり込み、痛くて苦しむたぬきに水があるところへ連れて行ってあげると言って泥の船に乗せて、泥船が溶けて沈んでタヌキ溺れ死ぬ。
めでたしめでたし
アメリカ人にとっては、日本人は怒らせたら怖い人種と思われたりして。
河口湖観光の後は東京のホテルまでお送りして終了。
最初はとても心配だったけど、お客様もいい人達で、私も楽しかった。
最後にお客様がプレゼントをくれた。
パイナップルキャンディのレイ
マカダミアンナッツチョコ
どうやらハワイのお客様だったみたい。
どうりでカタコト日本語ができる方が数名いたはずた。
初めてのインバウンドの仕事は無事に終了。
そして、英語をもうちょっと勉強しようと思った。
今のままでも、海外旅行をする分には困らないのだけど、だからこそ、あまり英語ブラッシュアップに努力してなかったなぁと思う。多分お客様に対して失礼な言い回しをしていたんじゃないかなぁとも思う。下手な英語だから笑って許してくれたんだろうけど。
お客様とお別れした後は、上司のミトさんと合流して、ビール飲みまくって帰宅した
お疲れ〜私