こんにちは!

 

2024年1月29日付で、CAS(スポーツ仲裁裁判所)から「カミラ・ワリエワがアンチドーピング規則違反を犯したことが認定され、2021年12月25日から4年間の資格停止の処分が下された。」という趣旨のプレスリリースがありました。

詳細はこちらのPDFに載っています。

 

この発表について、自分でもよくわかっていない部分が多々あります。(納得がいかないとかそういう話ではなく、単によく読み込めていない)

ですので、どういう条文に基づいてこの判決に至ったのかなどをわかる範囲でブログを書きつつまとめていこうかと思います。

(補足)本ブログは「今回の判決は不当なものである」ということを主張するものではありません。「よく分からない部分があったから関連文書含めて色々読んでみました!」という趣旨のものであることをご了承ください。

 

以下、プレスリリースの本文をBold&Italicで、諸々の日本語訳(または要約)をグレーで書いていきます。日本語訳はDeepLの力も借りつつ行っています。

 


 

KAMILA VALIEVA IS FOUND TO HAVE COMMITTED AN ANTI-DOPING RULE VIOLATION AND SANCTIONED WITH A FOUR-YEAR PERIOD OF INELIGIBILITY COMMENCING ON 25 DECEMBER 2021

カミラ・ワリエワがアンチドーピング規則違反を犯したことが認定され、2021年12月25日から4年間の資格停止の処分が下された。

 

 

 

• The decision taken by the Disciplinary Anti-Doping Committee of the Russian Anti-Doping Agency No. 9/2023 on 24 January 2023 in relation to Ms Kamila Valieva is set aside.

カミラ・ワリエワに対してRUSADAのDisciplinary Anti-Doping Committeeが2023年1月24日に下したNo. 9/2023[1]を無効とする。

 

 

[1]

No. 9/2023を見つけることはできなかったが、これは恐らく「ワリエワはアンチドーピング規則違反を犯したが、それは"no fault or negligence(過失や不注意がない)"であり、検体採取日である2021年12月25日の成績を無効とする以外の制裁を課さない」としたRUSADAの決定についてであると思われる。

本プレスリリースを最後まで読んだところ、今回のワリエワの件については「no fault or negligence」ではないと結論付けられているように思えたので。

RUSADAの原文は探せていない(公表されていない?)が、内容は以下のWADAのホームページにある通り。(2024年1月30日閲覧)

 

 

 

• Ms Valieva is found to have committed an Anti-Doping Rule Violation (ADRV) under Clause 4.1 of the All-Russian Anti-Doping Rules of 24 June 2021 (the Russian ADR).

ワリエワは、2021年6月24日付のロシアアンチドーピング規則(the Russian ADR)[2]第4.1条[3]に基づき、アンチドーピング規則違反(ADRV)を犯したと認定された。

 

 

[2]

2021年6月24日付のロシアアンチドーピング規則(Russian ADR)はこちらのPDFになります。

 

 

[3]

ロシアアンチドーピング規則 4条では、「ドーピングの定義と規則違反」について書かれており、その中でも4.1条は「競技者の検体における禁止物質又はその代謝物又はマーカーの検出」についての条文が書かれています。

詳しくは、「禁止薬物の混入を防ぐのはアスリートの個人的義務であるため、アンチドーピング規則違反の立証において禁止物質の摂取が故意であるか過失であるかは関係がないですよ(4.1.1条)」とか「(細かい場合分けはあるけど、)A検体中で禁止物質(または代謝物、マーカー)が検出されることは規則違反の十分な証明になりますよ(4.1.2条)」とか書かれています。

要するに、ここでは「ワリエワの検体からは禁止薬物が検出されたので、それが故意によるものかや不注意によるものか等には関係なくアンチドーピング規則違反を犯しました」という声明を発表していると捉えることができます。

 

 

 

• A period of four (4) years ineligibility is imposed on Ms Valieva, starting on 25 December 2021.

2021年12月25日から4年間の資格停止処分がワリエワに課される。

 

 

 

• All competitive results of Ms Valieva from 25 December 2021 are disqualified, with all the resulting consequences (including forfeiture of any titles, awards, medals, profits, prizes, and appearance money).

2021年12月25日以降のワリエワの競技成績は、それにより生じるすべての結果(タイトル、賞、メダル、利益、賞金、アピアランスマネー[4]の没収を含む)を含み無効となる。

 

 

[4]

アピアランスマネーとは、「有力選手に対して主催者が支払う賞金とは別の参加料。顔見せ料。」のことらしいです。一般的なスケートの国際大会にはそういうお金は存在しない(出場選手側が参加料を支払う)はずであるが、もしかするとチャンネル1杯とかには関係してくるのかもしれない。わからないけれど。

 

 

 

According to Clause 4.1 of the Russian ADR, athletes are responsible for any Prohibited Substance found to be present in their samples and the presence of any prohibited substance amounts to an ADRV. 

In this matter, a prohibited substance, Trimetazidine (TMZ), was found to be present in the sample collected from Ms Valieva on 25 December 2021 during the Russian National Championships in St Petersburg, Ms Valieva did not contest liability in that she accepted that, by reason of the presence of a TMZ in her sample, she had committed an ADRV under Clause 4.1 of the Russian ADR

ロシアアンチドーピング規則の第4.1条によると、競技者は検体中から検出されたいかなる禁止物質についても責任があり、禁止物質の存在はアンチドーピング規則違反(ADRV)に該当する。[3]

本件においては、2021年12月25日にサンクトペテルブルクで開催されたロシア国内選手権にて、ワリエワから採取された検体中に禁止物質であるトリメタジジン(TMZ)が検出されたが、ワリエワは、検体中にTMZが検出されたことを理由に、ロシアADRの第4.1条に基づくADRVを犯したことを認め、責任を争わなかった。

 

 

 

It was therefore a matter for the CAS Panel to consider what sanctions, if any, should be imposed on Ms Valieva pursuant to the Russian ADR, bearing in mind that, in the absence of grounds for elimination, reduction or suspension, the Russian ADR provide for a four-year period of ineligibility. 

In order to benefit from a reduced period of ineligibility, Ms Valieva needed to prove, by a balance of probabilities that she had not intentionally committed the ADRV by engaging in conduct which she knew constituted an ADRV or in conduct where she knew that there was a significant risk that said conduct might constitute or result in an ADRV and had manifestly disregarded that risk. 

Having carefully considered all the evidence put before it, the CAS Panel concluded that Ms Valieva was not able to establish, on the balance of probabilities and on the basis of the evidence before the Panel, that she had not committed the ADRV intentionally (within the meaning of the Russian ADR).

ロシアアンチドーピング規則(Russian ADR)は、除外、軽減、一時的な出場停止の理由がない場合には4年間の資格停止期間を定めている。[5]これを念頭に置き、Russia ADRに従ってワリエワ制裁を課すのであればどのような制裁を課すべきかをCASパネルが検討することが課題であった。

資格停止期間を短縮されるためには、ワリエワは、「当該行為がアンチドーピング規則違反(ADRV)とみなされるとわかっていたり、ADRVをもたらす重大なリスクがあることを知っていたりしたうえで、そのリスクを完全に無視した行為に関与して故意にADRVを犯した」[6]というわけではないことを、確固たる証拠の下に証明する必要があった。

CASパネルは、提出されたすべての証拠を慎重に検討した結果、ワリエワが(ロシアADRの意味において)故意にADRVを犯していないことを、故意であるとの疑い以上に単なる過失によるものであったという確固たる証拠に基づいて立証することができなかったと結論づけた。

 

 

[5]

ロシアアンチドーピング規則 第12.2条は、「本規定第12.5項、第12.6項、または第12.7項に基づく除外、軽減、一時的な出場停止の理由がない場合、本規定第4.1項、第4.2項、または第4.6項の違反による資格停止期間は、以下のように決定されるものとする」というような文で始まり、12.2.1、12.2.2というように細分化された項目がこれに続く。

12.2.1条では、「規則違反が故意でないことを立証できない場合(12.2.1.2)」などにおいて資格停止期間が4年間となることが記されている。

 

 

[6]

この「故意(intentional)」については、ロシアアンチドーピング規則 第12.2.3条に規定されている。その規定の内容としては[6]の鍵括弧で示した内容と同様である。

 

 

 

The CAS Panel stressed that the test with respect to intention under Clause 12.2 of the Russian ADR is one and the same whether the athlete is an adult or a Protected Person.

It means that if a Protected Person fails to discharge the burden (which under the Russian ADR is borne by the athlete) that he or she did not commit ADRV intentionally, there is no basis under the rules to treat them any differently from an adult athlete.

Accordingly, since it was determined that there was no scope for the exercise of discretion to reduce the period of ineligibility, a four-year period of ineligibility was imposed by the Panel.

CASパネルは、ロシアアンチドーピング規則(Russian ADR)の第12.2条の故意に関する基準は、競技者が成人であっても被保護者[7]であっても同じであると強調した。[8]

つまり、被保護者が故意にアンチドーピング規則違反(ADRV)を犯していないという責任(Russia ADRではアスリートがそれを負う)を果たさなかった場合、規則上、成人の競技者と異なる扱いをする根拠はないということである。[8]

したがって、資格停止期間を短縮する裁量が認められる余地はないと判断されたため、CASパネルにより4年間の資格停止期間が課された。

 

 

[7]

Protected Person(被保護者)はロシアアンチドーピング規則の23条において以下のように定義づけられている。

「An Athlete or other natural Person who at the time of the Rules violation: (a) has not reached the age of sixteen years; (b) has not reached the age of eighteen years old and is not included in any Registered Testing Pool and has never competed in any International Event in an open category; or (c) for reasons other than age has been determined to lack legal capacity under applicable national legislation.」

この声明においては、「(a)16歳未満の者」という意味で用いられている。

 

 

[8]

この段落の根拠おなる条文については読解力不足であまりよくわからなかった。[6]では、ロシアアンチドーピング規則 第12.2条において、「本規定第12.5項、第12.6項、または第12.7項に基づく除外、軽減、一時的な出場停止の理由がない場合、本規定第4.1項、第4.2項、または第4.6項の違反による資格停止期間は、以下のように決定されるものとする」と示された後、12.2.1条において、資格停止期間が4年間となることが記されている。これは、12.5条、12.6条、12.7条には12.2条の例外となる項目が書かれていると解釈できる。

ここで、12.6条を見てみると、12.6.1.3条に「Protected Persons[7]」についての規定が書かれてある。

重大な過失又は不注意がないこと(No Significant Fault or Negligence)を証明することができる被保護者又はレクリエー ション競技者によって、「乱用物質使用(所謂麻薬とか?)」を伴わない規則違反が行われた場合、資格停止期間は、被保護者又はレクリエーション競技者の過失の程度に応じて、最大で 2年間の資格停止期間とし、最低でも資格停止期間の指定を伴わない譴責処分とする。」とのことだ。

No Significant Fault or Negligenceは第23条に定義されている。「競技者又はその他の者による、その過失又は不注意が、状況を総合的に考慮し、かつ、過失又は不注意の基準を踏まえた上で、本規則違反との関係で重大なものではなかったことの立証。被保護者又はレクリエーショナル競技者の場合を除き、本条第 4.1 項の違反について、競技者は、禁止物質が競技者の体内へ混入した経緯も立証しなければならない。」とある。

「故意(intentional)」とかなり近い意味で使われている気もするが、明確な使い分けが行われているような気もして気もしてあまりよくわからない。ただプレスリリースを見る限り同じ意味として使っているのか??

長くなったがざっくり要約すると、「例外を除いて資格停止期間は4年間である」「重大な過失又は不注意がない被保護者は最大で2年間の資格停止となる」「規則違反に関係して、当事者の過失又は不注意が重大なものでない必要があり、それに関連した立証を行う義務は成人のみが負う」ということになる。よくわかっていない状態で要約してもよくわからないままですね。

勝手に16歳未満の者の資格停止期間は最大2年だと勝手に思い込んでいたので、こうなるのはRUSADAのルールに従ったからで、WADAのルール運用に載っとるのであれば最大2年なのかな?と思い、ロシアアンチドーピング規則世界アンチドーピング規定との記述内容について比較してみたところ、特に差はないように感じた。(ざっと見ただけだから本当は差があるかも!)

自分の中では条文と見合わせていまいちよく分からない部分は残るものの、このプレスリリースを見る限りは「故意でないことを証明できないのであればProtected Personであろうと4年資格停止します!」ということになるということである。

 

 

 

The period of ineligibility starts on 25 December 2021 and any period of provisional suspension served by Ms Valieva is to be credited against that period of ineligibility. 

The CAS Panel also ordered the disqualification all competitive results achieved by Ms Valieva from 25 December 2021, with all the resulting consequences (including forfeiture of any titles, awards, medals, profits, prizes, and appearance money).

資格停止期間は2021年12月25日から開始され、ワリエワに課された一時的な資格停止期間[9]はその資格停止期間に加算される。CASパネルはまた、2021年12月25日以降のワリエワの競技成績は、それにより生じるすべての結果(タイトル、賞、メダル、利益、賞金、アピアランスマネーの没収を含む)を含み無効とすることを命じた。

 

 

[9]

2021年12月25日からこの判決が出るまでの期間のこと。要は、判決が出てから4年間というわけではなく、検体採取日から4年間が資格停止期間となるということ。

 

 

 

The consequences linked to the retroactive disqualification of Ms Valieva from past events, including from the Olympic Winter Games Beijing 2022, were not within the scope of this arbitration procedure and will have to be examined by the sports organisations concerned.

2022年北京冬季オリンピックを含む、過去の大会におけるワリエワの遡及的な失格に関連する影響については、この仲裁手続きの範囲外であり、関係するスポーツ団体によって検討されなければならない。[10]

 

 

[10]

多分、「北京オリンピックの団体戦の結果をどうするかとかは、CASは決定権を持たないから、その辺はIOCとかISUとかが決めてね~」ってことだと思う。

 

 

 

The Arbitral Award issued by the CAS Panel is currently subject to a confidentiality review meaning that the parties might request that the Arbitral Award, or certain information contained in it, remain confidential.

For this reason, the Arbitral Award will not be published immediately on the CAS website.

CASパネルが提示した仲裁判断は、現在、当事者から仲裁判断やその中に含まれる特定の情報の機密を保持することを要求される可能性があるため機密保持審査の対象となっている。

そのため、仲裁判断はCASのウェブサイト上では直ちに公表されない。

 

 

 

The CAS Panel’s decision is final and binding, with the exception of the parties’ right to file an appeal to the Swiss Federal Tribunal within 30 days on limited grounds.

CASパネルの決定は最終的なものであり法的拘束力を持つが、例外として、当事者は限られた理由に限り、30日以内にスイス連邦裁判所に上訴する権利を持つ。

 

 


 

 

以上がプレスリリースに書かれてある内容でした。

 

上訴により、この判決が変わる可能性があるのかとかは全然わかりません。ですが、もとから記録取り消し扱いになっていた2022全露の優勝記録取り消し(繰り上がりでトゥルソワが優勝)に加えて、2022ユーロ優勝取り消し(繰り上がりでシェルバコワが優勝)、北京オリンピック個人戦4位の記録取り消しは確実でしょう。あとはここ2シーズンのロシア国内大会の結果についても取り消しになるのかな、多分。

オリンピックの団体戦に関しても、ワリエワの得点は無効になりアメリカと日本の繰り上げはほぼ確実。カナダの繰り上がりに関してはROC全体で失格になるのか、ワリエワの得た順位点(10+10=20点)のみが無効になるのかで結果が変わってくるので、今後のIOCの判断を待ちましょう。

(追記)ブログ書いていたせいで気付いていなかったのですが、2024年1月30日付でISUから発表があっていたのですね。北京五輪団体戦の結果はワリエワの得た順位点のみが無効となり、1位アメリカ、2位日本、3位ROCとなったようです。詳細はこちら↓

 

 

 

私はワリエワの演技が、ワリエワの体の動かし方が、とてもとても好きなので、「どうしてこうなってしまったんだ...」というスッキリしない気持ちをここ2年ずっと抱き続けてきました。

このスッキリしなさから前ほどスケートを見なくなり、スケートに費やしていた時間をそのまま勉強に置換した結果、めっちゃ成績が上がりました。うれしいね!!!!!!!!!!

判決が出たところで、そのもやもやが晴れるわけでもないんですね~

もっと詳しく色々知りたいとかそういう話でもないんですけどね~

 

ドーピング問題の有無に関わらず、ワリエワの演技は本当に大好きです。本当に。本当に。

でも、故意か故意でないかに関わらず、自分が好きな選手の好きな部分に、ルール上禁止されている薬物の寄与があったのかもしれないとか考えちゃうと、何とも言えない気持ちになる。

好きな選手がドーピング規則に違反した経験がある方、このもやもやの晴らし方を教えてほしいです!!!!!!!!!!助けてくれ!!!!!!!!!!