「あ、ううん。姉さんはしばらくいいの。そこでゆっくりリナちゃんと遊んでて。」
久々に義姉さんをうちに招待した。
なんでも、エルシーちゃんがお料理を振る舞いたいとか。
クレメンス「くっ…エルシーちゃんの手料理…カワイイ妹のお願いは断れないけど…」
リナちゃんと遊びながら、時々義姉さん何やら呟いている。
今は気丈にしているクレメンスさん。
でも、あの頃は…。









二人が結婚したのはウチの長男、カイヤ君が産まれてから半年くらい経った夏の終わりの頃だった。
「うっうっ、クレメンスうぅぅー幸せになるんだぞぉぉぉぉ」
「よっ、クレメンスちゃん!」
その年の星の日にはエルシーちゃんもニコニコ幸せそうだった。
「ホント、良かったねぇ。」
けれど。
冬になって、新しい年を迎えて。
まだ。
まだ一年も経っていないのに…
ボーっとしたいのは僕だよ…
どうしても行っちゃうのかな。





クレメンス「あっ、待って待って!リナちゃん!そっちはイヴォン君が…!」
ハッと、クレメンスさんの声で我に帰る。
リナ「父ちゃん!バグウェルキーック!やーあ。」
「こらー。リナちゃん!スカートでそんなことしちゃだめだよー!」
リナ「ふふん。ママとばぁばはいつもスカートで戦ってるもん♪」
「ンググ…」
「ふふっ。女の子が強い家庭はやっぱり楽しいわね♪」
そう言ったクレメンスさんは、どこか遠い目をしていて。
「あ、そうだイヴォン君。今度リナちゃんと遠出しても構わない?」
「えっ、義姉さん。それ、僕に断らなくていいよ?僕も甥っ子や姪っ子とよく出かけてるしー。」
「えっ?そうなの?断らなくって良いの?今まで悩んじゃってたわ。」
料理が一段落したのか、いつのまにかエルシーちゃんが隣に座っていた。
「もー。姉さんったら。相変わらず、優柔不断。」
「そうね…迷ったら今度はみんなに相談することにするわ。こんなにすぐに解決するんだもの。もう…あの頃みたいに…」
少し笑って、またすぐに遠い目をして。
「楽しい時間を奪われたくないものね。ね?」
「そうそう。その意気よ!クレメンスちゃん!」
「そーそー。クレメンスおばちゃんは元気なのがいいよ。俺もそう思うー!」
いつのまにかモイラ母さんとカイヤ君もうちに帰ってきて、そんな話をみんなでしているうちに、キッキンから何かが焼け焦げた臭い。
「きゃー、イヴォン君!助けて、たすけて!お料理かこげちゃったーー!」





結局、夕飯は僕がアレンジすることになった。
クレメンス「んふふ。おいしーい♡」
リナ「おばちゃん、ニコニコねー?」
カイヤ「あっ、リナちゃん!それ俺の!」
エルシー「…失敗した。失敗した…グラタンを失敗した…」
モイラ「やぁだぁ。エルシー。気にしないの!ほら。中のソースはこんなに美味しいのよ。パスタによく合うー☆ね?」
「そうだよ。ほら、下向いてないで。あーんしようか?」
エルシー「いっ…いい!!やめてー!イヴォン君!」
クレメンス「!!!(照れてるエルシー、カワイイ)!」




カイヤ「ばぁば、今日は楽しかったねー♪」
モイラ「そうね。賑やかなのはいいわね♪」
リナ「あれー?母ちゃんはー?」
「クレメンスさんを送ってってるよ。おしゃべりし足りなかったんだって。」
エナ様の見守る夜。
クレメンス「エルシーちゃん。ありがとね。」
エルシー「ううん。結局私の手料理じゃ無くなっちゃったし」
クレメンス「いいのいいの。みんなと話しながらの食事って、いつぶりかしら…あ。あれ以来かな」
最後に一緒にご飯を食べた日…
クレメンス「イヴォン君とフレッド君、顔がちょっとだけ似てるから、ウチに子どもがいたらあんな感じかなーとか…思っちゃう事が今でもあるわ。」
エルシー「ううん。きっと姉さん達の子供なら、もっと穏やかで…優しい子だと思うなー」
クレメンス「…そうかしら?」
エルシー「うん。きっとそう。」
クレメンス「…フレッドってば、思い残す事は無い、なんて辞世の句…ねぇ?」
エルシー「良かったんじゃ無いかな。義兄さんはクレメンス姉さんと一緒になれただけで。」
他にも沢山、沢山の【今でも思う】が残ってる。
もっと沢山デートすれば良かったな。
もっと早く出会ってればよかったな。
もっといっぱい愛してるって伝えれば良かったな。
だからどうか…
フレッド「泣かないで。クレメンスちゃん僕の優しい女神様?」